第137話Ⅰ-137 終わらない戦い
■ライン領主 マイヤーの屋敷
領主とその息子達は服をはぎ取って、素っ裸に手錠の状態で大型犬を入れる檻の中に入れて庭の片隅へ放置した。連れて来られた狼の気持ちと攫われた娘や親達の気持ちを味わってもらうつもりだ。
こいつらの本格的な処分とマイヤー領の廃止は明日やるつもりだ。今日は狼奪還が成功したことを祝して、お肉パーティーで俺の失われた血も補給することにしよう。使用人たちが出て行くまで門の外で待っていたショーイも呼び入れてバーベキューの準備を始める。ショーイには寝返りがばれないように夜までは屋敷に入らないように指示してあった。
広い庭はバーベキューをやるには快適な場所だった。既に日が沈みかけていて、辺りは薄暗くなってきている。いつものようにキャンプ道具一式と投光器、発電機などをストレージから取り出していく。サリナ達は何も言わなくても、皆がテーブルを囲めるように並べ始めていたが、ショーイは何もせずに突っ立っていた。
「おい、ショーイも働けよ」
「いや、その前に何が起こっているのか教えてくれ、突然いろんなものが飛んでくるのはなぜだ」
「それはサトルの魔法。手伝わないとお肉抜き!」
「魔法・・・、やっぱり勇者なのか・・・」
サリナに叱られたショーイは一人で納得してサリナの手伝いを始めた。投光器はバーベキュー会場とその外側にも向けさせた。外から来る奴を警戒するためだ。大き目のバーベキューコンロに入れた備長炭を、トーチバーナーで炙って火を起こしてから、テーブルの上に食器と焼肉店の肉皿を並べた。
本日の主賓用には大きなアルミトレイに生の牛肉と豚肉を5kgずつ入れて水と一緒に近くへ置いてやる。
「よし、じゃあ、食べようか」
俺の合図でサリナは肉を焼き始め、ミーシャは皿にタレを入れて、みんなに渡し始めた。
「サリナ、これは何だい?」
「これはお肉を美味しくする魔法。甘くて辛いの」
「ふーん、聞いたことの無い魔法だね」
「リンネも食べればわかるから、はいどうぞ」
トングで焼けた肉をリンネの皿に入れてやると、リンネはフォークで突き刺して口に運んだ。
「あ、熱ゥ! ・・・でも、これは美味しいねぇ!同じ肉なのになんでこんなに美味しく感じるんだろう」
「全部サトルの力だから!」
-いや、俺は取り出しているだけ。味付けも加工も全て他の人ですわ。
ミーシャは生肉を味わっている狼を見守りながら、肉を焼き、自分も食べていた。笑顔が今までよりも輝いているように見える。
「ミーシャ、狼が元気そうでよかったな」
「ああ、食事はちゃんと与えられていたのだろう。もともと病気などはしないはずだからな」
-不死? 長寿の狼? ひょっとして食べなくても死なないのか?
俺の心の中を読んだのか、狼は俺を見た後に肉を勢いよく食べ始めた。10㎏では足りない、もっと食わせろと言わんばかりだ。
生肉と焼肉皿と白米も追加で出しておく、俺は自分の血を取り戻すためにレバーを焼きながら、これからの事を考えていた。狼は見つかったし、エルフの森にも行くことが出来た。ライン領の件を解決すれば、ミーシャと一緒に居る理由も無くなった。
-もう一度、一人で南に戻って狩りでもするか、関わり合いになりすぎた・・・
「ミーシャはシルバーと一緒に森の国に戻るんだよね?」
「ああ、私は戻るがシルバーがどうするかは判らない。私と暮らしている訳ではないからな」
-そうか、別にミーシャのペットでもないのか。
「お前はどうするつもりなのだ?」
ミーシャの問いかけにサリナとハンスが食べる手を止めて俺を見ていた。
「俺は・・・」
-ヒュン!
「痛い! 痛くないけど・・・」
「敵だ!」
肉を食っていたリンネの背中に矢が刺さった。ミーシャはすぐに立ち上がって、アサルトライフルで矢が飛んできた門の向こうを撃ち始めた。屋敷の裏側からも矢が飛んでくる。俺はこっちを照らしている投光器の明かりを消してから、アサルトライフルで屋敷側から矢を放っているやつを狙い撃ちした。3人いたが短い連射で全員を倒した。正門からは剣を持ったやつが弓の援護を受けて走り込んで来ようとしているが、ミーシャが片っ端からヘッドショットで倒していく。
正門はミーシャ一人で大丈夫だろう。屋敷側を警戒していると今度は逆サイドから矢が飛んできた。だが、ミーシャの矢と違って勢いがない。50メートル程向こうから投光器の明かりで山なりに飛んでくるのが見える。
「ふぁいあ!」
サリナが強烈な火炎をロッドから放って、飛んで来る矢とその向こうに居たやつらを炎で包んだ。それでも、屋敷の両側から剣を持ったやつらがこっちに突っ込んでくる。不本意だが手加減なしでアサルトライフルの連射を繰り返す。重たい発射音が連続し、薬きょうが飛び散る向こうでレーザーサイトが当たった人間が次々と倒れて行く。
俺が受けもった側からの攻撃は収まった。サリナの方も片付いたようだ。正門の陰からはまだ弓を撃ってくるヤツが居る。腕が良かったみたいだが、門の陰から出てきた瞬間をミーシャの銃弾で頭を弾き飛ばされた。
「今ので最後かな?」
「いや、まだ向こうに居ると思う」
「じゃあ、そのまま警戒しておいて」
「承知した」
「リンネ、怪我? 大丈夫? 痛いの?」
「痛いんだよ、少しだけどね。何かが刺さったのは判るんだから」
「血も出るんだね」
「だから、あたしは生きてるんだって!」
どうも納得がいかないが本人の主張を尊重してやろう。
「この屋敷の周りに居るやつを咥えてくるように命令してくれ」
ストレージからラプトルを2匹リンネの前に取り出した。
「咥えるって、連れて来いってことで良いんだよね?」
「ああ、それで良いよ」
「わかったよ。じゃあ、あんた達頼んだよ」
ラプトル達は本気のダッシュで正門に走って行った。ほどなく正門の向こうから叫び声が聞えてきた。足を咥えられた男たちが、泣き叫びながら正門から引きずられてくる。
「グゥゥー、た、助けてくれぇ」
ラプトルに足を咥えられた男は、地面を頭につけたまま暴れているが、動くたびに足から血が大量に流れて行く。
「リンネ、離すように言って、他にも居ないか探させて」
「わかったよ」
「「ギャァ!」」
ラプトルに投げ捨てるように置かれた男たちは、悲鳴を上げて後ずさりを始めた。
「お前たちは黒い死人達だな?」
「・・・」
-パンッ!
「い、痛てぇ!」
俺はグロックで噛まれていない方の足を躊躇なく撃った。
「早く答えろ! 次は腕を撃つ!」
「そ、そうだよ」
「何人いるんだ? どこから来た?」
「50人ほどだ、ゲイルから早馬で後を追って来ていた」
ゲイルで助けたのが仇となったようだ。既に30人ぐらいは倒したと思うが、まだいるのだろう。狩人の数を増やしておこう。
「リンネ、こいつもお願い。屋敷の敷地内を探させて」
大きな魔獣の狼をストレージの中から取り出した。少し離れたところに居るシルバーは魔獣をちらりと見たが、仲間だとは思わなかったようだ。
「人使いの荒い子だねぇ・・・」
そういいながらも、リンネは狼の肩に手を置いて氷獣化した狼を送り出した。優秀な狩人たちは9人の男を引き摺って来た。全員立てないほどに足を痛めつけられている。
「ハンスとショーイでこいつらの武器を取り上げて檻の中に入れておいて。ミーシャは俺と一緒に来てよ。生きてるやつが居ないか確認しに行くから」
ストレージから人数分の檻を取り出して地面に並べて、屋敷側から襲って来た男たちの様子を見に行く。助けるためではないし、とどめを刺すつもりもなかったが、動ける奴は檻に入れるつもりだった。屋敷の両側には三人生きている人間が居たが、胸や腹に銃弾を受けていて動けなかったので、そのままにしておいた。死んでいる人間はストレージに”悪人の末路”と言う部屋を作って入れておいた。
生きている人間は檻に、死んでいる人間はストレージに入れて後始末が完了した。やることを終えた俺は疲れ果てていた。大怪我もしたし、今日はもう寝るしかない。
大型キャンピングカーを呼び出して、中に水や食い物を並べてから宣言した。
「俺は寝る。後の事は全て明日。じゃあ」
ストレージの静かな空間に入った後はシャワーも浴びずにベッドに倒れ込んだ。
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