第67話Ⅰ-67 第4迷宮偵察

 ■第4迷宮西方の湿地帯


 川沿いにかなり南に下ったところで、ようやく東に向かっている水路を見つけて、エアボートを滑り込ませた。

 水路は狭く、そして左右にうねっているが概ね東方向に進みだした、山の位置からすると少し南へ行きすぎたと思うので、コンパスで北を意識しながらボートを進める。

 後ろのミーシャ様は飽きることなくアサルトライフルのハンティングを楽しんでいる。このボート周辺の生物が死滅するのでは無いかと心配になる勢いだ。


 東に進み出して1時間近く経ったところで水路が終っていて、東方向にはしっかりとした陸地が続いていた。ボートから降りて、4輪バギーに乗り換えて更に東へ進むことにする。


 バギーの運転をサリナに任せて、俺もショットガンでハンティングに参加させてもらうことにした。ミーシャは左を、俺は右を狙うことでエモノの取り合いを避けておく。陸地には2メートルぐらいのトカゲが多くて、バギーを見つけると追いかけてくれたので良い暇つぶしになった。12ゲージのショットガンに鹿弾をいれて撃つと、ちょうどいい感じで吹っ飛んでくれる。今のところ、空飛ぶ蛇は見当たらないが、大きな鳥は離れた場所で旋回しているのが見えた。


 しかし、既に出発から4時間以上が経過しているが、水路で遠回りしているせいなのか、目指す第4迷宮は見えてこない。これまでの迷宮と違う地形でたどり着くこと自体が難しいのは間違いないだろう。そもそも、俺達はボートやバギーを乗り継ぐと言う画期的な方法で向かっているが、普通ならこのエリアは徒歩しか移動手段が無い。カヌーを担いで移動すると言う選択肢もあるだろうが、大きな荷物になって進行が遅くなるのは確実だ。


 今日は偵察して安全なところまで戻るつもりだったが、このままだとどうやら難しそうだ。トカゲを撃ちながら、この辺りで野営をする可能性についても考え始めていた。


「サトル、また川になったよ」


 バギーを止めたサリナの言うとおり、硬い陸地の部分が終り東側には水路と小さな沼が入り組んだ地形が目の前に広がっていた。


「北東の方角に何かあるぞ」


 後ろからミーシャが言った方角を見るが何も見えない。見える方角にも陸地があるのか、木が多い場所があることだけが確認できた。


「俺には見えないけど、あの陸地がある辺りなのか?」

「そうだ、陸地の中にキャンプ地があるのだろう」

「キャンプ地?」

「このあたりはこんな船が無ければ1日で出入りできる場所ではないから、緑の奴らは泊まるための安全な小屋を作っているのだろう」


 なるほど、野営はリスクが高すぎるから小屋を作って、キャンプ地経由で迷宮を目指すのか。双眼鏡を取り出して、陸地の上を探すと思ったより大きな木の建物を見つけた。高床式になっていて、地面から床を1メートルほど浮かせている。湿気対策か蛇対策、あるいはその両方かもしれない。 いずれにせよ、無駄な争いを避けるためには迂回した方が良いだろう。俺達はエアボートに乗り換えて南から東に回りこむことにした。


 多少の陸地は無視してエアボートで乗り越えながら、3km程南に下ってから東に向かう水路へボートを向けて迷宮に向かってボートを進めはじめた。1時間ぐらい東に進んだ頃に、ボートを止めるようインカムからミーシャの声がした。


「どうしたの?」


「おそらく、あと2kmぐらい先に見えているのが迷宮だろう。だが、周辺に危険な獣がいるぞ」


 俺には全く同じようにしか見えない湿地帯を見つめながらミーシャは険しい顔をしている。双眼鏡を取り出して、ミーシャが教えてくれた方角をみた。迷宮はどれかわからなかったが、危険な獣はすぐにわかった。


 -恐竜だ。


 ジュラシック的に言うと、ラプトルと呼ばれていた長い尻尾でバランスを取って二足歩行する足の速いヤツに似ている。ほとんどが口になっている頭を揺らしながら何匹もちょろちょろと動いている。映画同様に動きは早そうだが背の高さは1メートルぐらいと小ぶりだ。しかし、あの口で噛まれたらひとたまりも無い。絶対に近づいてはいけない相手だ。


「迷宮は何処にある?今回も高い塔なのか?」


 見つけられなかった迷宮の場所をミーシャに確認してみる。


「いや違う、危険な奴らの向こうにある大きな池の真ん中に変なものが立っている。高さは5メートルも無いだろう」


 池、池・・・、あった! 双眼鏡の中でよく見ると恐竜たちがいるところはしっかりした陸地になっていて、その向こうは大きな池になっている。池の中心の島には茶色い壁のような物が見えていた。

 しかし、双眼鏡でやっと見えるのに、ミーシャ様は・・・


「危険なヤツは何匹見えているの?」

「見える範囲だけで12匹はいるな。だが、池の周りは大きな陸地に立ち木が沢山あるから、隠れているのがもっと多いのかもしれないぞ」


「じゃあ、ミーシャの本気を見せてもらうしかないね!」

「?」


 今のところ十分に距離が開いているから襲われる心配は全く無い。

 見た目の体型から行くと、硬い陸地以外の湿地帯を素早く走れるようにも見えなかったので、恐竜に対して視界の開けている場所をボートで移動しながら探した。

 水路沿いに東へ5分ほど進むとちょうどいい陸地が見つかり、エアボートで乗り上げる。


 双眼鏡で恐竜までの距離を測ると1400メートル位だった。

 ミーシャ様なら何とかなるだろう。


「サリナ、周りから何か来たら全部焼き払えよ」

「任せて、今日はまだ魔法使ってないから、サリナも頑張るね♪」

「おう、俺たちの背中はお前が守ってくれよ」

「わーい! サトルの背中を任された!」


 背後を任されて、スーパーハイテンションのちびっ娘を放置して、ストレージから頑丈なテーブルと椅子、それにミーシャが使う50口径の対物ライフルを取り出した。

 ライフルの二脚をテーブルの上に設置して恐竜の方に向けた。


「それでは先生、お願いします」

「ひょっとして ここから撃っても良いのか?」

「良いよ、見つけたやつを全部撃ってよ。おれも双眼鏡で探すからさ」

「うむ、任せてくれ、全て倒して見せるぞ!」


 距離が多少遠いのは全く気にせずに、先生はテーブルに置かれた凶暴なライフルを手にした。

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