第272話Ⅱ-111 サリナ達の行方 

■炎の国 スローンの町


 雨が降りしきるムーアの町を日の出とともに出発して、俺達はサリナの足取りを追いかけた。ルート沿いの村や町で聞き込みをしながら進むとサリナ達が行方不明になった場所が判ったのは既に夕方近くになってからだった。スタートスのような転移ポイントが無い北側のルートで雨の中を200km以上を走るのには12時間を必要としたのだ。


「それで、二人がどこに行ったのか判らないまま放置していたのか!?」

「え、ええ・・・、子供も見つかりましたので変な乗り物に乗って次の町へ行かれたのかと・・・」

「さっき来たときになんでその話をしなかったんだ!」

「ですから、次の町へ・・・」


 俺は目の前にいるスローンと言う町の町長に怒りをぶつけていた。町長は昨日の夕方に王宮からの使いが来たと言うことを認めたので、次の町まで行ったのだが次の町に二人はたどり着いていなかった。


 -スローンを出た後に行方が判らなくなったのか・・・


 スローンの町に戻りながら自動車が通った跡を探すと、スローンの町近くで森へ向かう道に自動車のタイヤ跡があるのを見つけ、跡をたどって森の近くに放置された自動車も見つけた。周囲を捜索してもサリナ達を見つけることが出来なかったので、もう一度スローンの町へと戻ったのだが、町長は昨日の迷子事件とサリナ達をその後は見ていないことを、今更ながら俺に話し始めた。


 -だが、迷子? 偶然なのか? 


「その迷子は何処にいたんだ?全員無事だったのか?」

「ええ、みんな遊び疲れたのか眠っていたところを、町の人間が見つけました」

「眠っていた・・・」


 どう考えても偶然ではないだろう。この町でもサリナ達を罠に嵌めようとした奴がいるはずだ。目の前のこの町長かもしれないし、どこか他に隠れている奴なのかもしれない。どうするべきか? 町長をいきなり拷問するか・・・。町民を全員縛り上げて・・・。


「人を集めて町長達も森の中を探してくれ。俺達はその洞窟に行ってみる」

「はい、もちろん。では、男衆に声を掛けてきます」


 試しに捜索への協力を打診すると、町長は素直にうなずいて協力的な姿勢を見せたので、何の根拠もなく拷問をするのは難しくなった。


 町長の家を出て4輪バギーに乗り込むと、昨日サリナ達が向かったと言う洞窟に向かってアクセルを踏み込んだ。両側から雨が降りこんでくるが気にせずスピードを上げていく。隣に座ったママさんも濡れているが何も言わずにおとなしく座っている。今朝ムーアを出てから会話らしい会話をしていない。俺の中には焦りと怒りが渦巻いていて、世間話をする気にもなれなかったし、ママさんから話しかけられることも無かったからだ。森の中で木を避けながらバギーを進めて、見えてきた洞窟に近づいたところでポンチョをストレージから二つ取り出した。


 ポンチョのフードを被って雨の中を洞窟の入り口に進んで行き、サリナ達が居ないか大声で声を掛けるが、何処からも反応は帰ってこなかった。洞窟の入り口は小高い丘になったような場所に高さ2メートルほどの穴が開いている場所だ。


「中に入ってみましょう」

「ええ、気をつけてください」


 サブマシンガンのピカティニーレールに取り付けたフラッシュライトを点灯させて、暗い洞窟の壁・地面・天井を照らしながら奥に進んで行くと、洞窟は20メートルほど行った場所で行き止まりになっていた。


「洞窟ってここで終わりなのか・・・」


 ライトで突き当りの壁を調べたが、特に怪しい仕掛けなどは無かった。だが、壁を手の平で触っていると振動が伝わってくるのが分かった。


「何だろう? 何か揺れているような振動がたまに感じられる・・・」


 ママさんも俺の横に来て耳を壁に押し付けた。


「何でしょう?確かに何かこの奥の方で激しい音がしているようですけど・・・」

「一度出て、このあたりをもう一度探してみましょう。他にも入り口があるのかも知れないですよ」


 洞窟から出て、小高い丘になっている場所を二人で一周してみたが、何も見つけられなかったので、俺は登れない場所へドローンを飛ばしてカメラで丘の上に入り口が無いかも確認したが、入り口は見つけられなかった。


「入り口は無いようですね。でも、このまま上から探してみます」

「それは鳥の目のように見ることが出来るのですか?」

「ええ、あの飛んでいるところから見ることが出来るので、もっと高い場所から確認します」


 俺は高度を100メートルぐらいまで上げてドローンを北の方角に向けた。洞窟がある丘から北には背の高い木が多いが、木々の密度は低く高い位置から幅広く確認することが出来た。200メートルほど北に飛ばすとカメラの中に突然人工的なものが見えたような気がした。俺は行き過ぎたドローンを戻してゆっくりと見つけたものを確認するために高度を下げながらカメラの映像を拡大した。


 -布? テントか!?


 コントローラーのカラーモニターには黄緑色の布が大きな木を柱にして、斜めにかけられているのが映っていた。


「向こうに誰かいるようです。近づいて確認しましょう」


 ドローンをホバリングさせたまま、俺とママさんは足元の音に注意しながら慎重に近づいて行った。木と布の間が見える位置まで回り込んで双眼鏡で中を覗くと、男が一人寒そうに地面の上に敷き革を敷いて座っているのが分かった。少し迷ったが、ストレージからアサルトライフルを取り出して男に狙いをつけた。斜め後ろで見ているママさんは何も言わずに息をひそめた。まだ敵かどうかもわからない相手だが、頭の中でこんな雨の森の中にいるのが絶対におかしいと言い続けるもう一人の俺がいた。


 -絶対に殺さないようにしないと・・・。


 俺は片膝を地面についた姿勢でアサルトライフルのスコープを覗き込み、胡坐あぐらをかいた太ももに十字線を合わせてから、静かにトリガーを引き絞った。


 -プシュッ!?


「ギャーッ!! ヴゥァー!!」


 大きな悲鳴が雨の森に響きスコープの中で太ももを抑えて転がる男が見えた。俺はほっとしながら立ち上がって、男に向かって走り出した。


 -本当に死ななくて良かった。


 そう思ったのは尋問したかったからと言うのもあったが、この男が関係のない人間である可能性もあったからだ。死にさえしなければ魔法とお金で何とかなる。そう思ってとりあえず撃ったのが本音だった。万一死ねば・・・、魔法も金も役に立たない。


 -疑わしきは罰する・・・ってダメなのは判ってるけど・・・。


 良心の呵責を覚えながら男が転げまわるテントの傍までたどり着いた俺はほっとしていた。転がる男の首筋に見慣れた六芒星の印があるのが見えたのだ。

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