第180話Ⅱ-19 王の追放
■火の国王都ムーアの王宮
「まぁっ! それは・・・素晴らしいですね!?」
「お前達は何を言っておるのだ? 辞めてもらうとはどういう意味だ!?」
国王のカーネギーは怒りで顔を真っ赤にしているが、既に自らを守る兵が一人も立っていないため、憤るだけで何もできずに机の向こうに立っていた。
「文字通りの意味だ。お前は、今この時点からこの国の王では無い。だが、それよりも・・・、もう一人隠れているのだろう? 今すぐ出て来い!」
俺は机の向こうにもう一人隠れている大臣の方が気になっていた。変な魔法を使う可能性もあるので、アサルトライフルの銃口は向けたままにしてある。
ローブを着た男が立ち上がってこちらに顔を見せた。
「何!? 貴様は! だが・・・」
ショーイが驚きながら大きな声を上げた、男の顔を知っているようだったが、俺もどこかで見た事がある顔だと思った。
「お前はゲイル!? いや、似ているが少し違うな・・・息子なのか!?」
なるほど、別邸でショーイが切り捨てた仇と同じような顔をしていたので見た事があると思ったのか。別邸の男は分身だとリカルドは言っていたが・・・。
「ゲイルは叔父だ。私はこの国の大臣・・・オコーネルだ・・・」
オコーネルと名乗った大臣は消え入るような声でゲイルとの関係を説明した。
「そうか、じゃあお前も黒い死人達と関係があるのか?」
「いや違う! 私はあいつ等とは関係ない」
「本当に? じゃあ、傭兵をあいつ等に頼んだりしたことも無いのか?」
「それは・・・」
俺の問いにまともに答えられないと言う事はこいつも犯罪者集団と繋がっていると言う事だ。
「まあ、いずれにせよ、お前も王と一緒に辞めてもらうからな。黒い死人達との関係は後でゆっくりと聞かせてもらうよ」
「お、お前は一体誰なのだ! さっきから好き放題言っているが、王を・・・私を辞めさせることなど誰にもできぬのだぞ!」
「それはどうだろうな・・・、今のところ殺すつもりは無いが、お前達の行き先は決めてあるから楽しみにしておいてくれ。じゃあ、しばらくじっとしていろ」
「グゥー!!」
俺はテイザー銃を王の胸に発射して王の無駄口を止めた。同じようにオコーネルも倒してから、後ろ手に手錠をかけた。外に連れ出すために担架と手足の揃った死人をストレージから4人出して、リンネに倒れた二人を運ばせるように頼んだ。
「運び方は判るよな? オレンジ色の布に乗せて、二人で両端の棒を持てば人が運べるから」
「ああ、大丈夫だよ。このぐらいなら簡単さ」
死人は転がっている王と大臣を乱暴に担架に乗せて持ち上げた。後は王都を脱出するだけだ。
「それで、あなたが火の国の王になるのですか?」
サリナママは嬉しそうに俺に聞いた。
「いえ、ここの王か代官は水の国から送ってもらうようにお願いしています」
「そうなのですか・・・、ですが、戦に出ている将軍が戻って来れば、カーネギー王を取り戻そうとしますよ? あるいは、自らが王になろうとするかもしれません」
「そっちは大丈夫ですよ。将軍は戻って来られないか、戻って来ても戦う力は残っていないはずですから」
「そうなのですか? それはどうしてなのですか?」
「あっちにはサリナとミーシャが居ますから」
■森の国 西の砦
バーラント将軍は後続部隊からの3回目の伝令を聞いて耳を疑った。2回目の伝令では、伏兵の攻勢が激しく後続の歩兵部隊が進軍できていないと聞かされて怒り狂ったが、3回目の伝令はその時の衝撃をはるかに上回る内容だった。
「部隊の半分が既に倒されているだと!? そんな馬鹿なことがあるか!5,000の兵だぞ!?」
「ですが、後続の歩兵部隊を取りまとめる中隊長は既に倒され、その後ろに居た小隊も隊長が全員倒されたために、兵が南に向かって逃げ出しております」
-ありえない! 中隊長の率いる歩兵部隊は十分に練度をあげた部隊だ。小隊長は士気も高く、剣の腕も確かなものを選りすぐって編成し来た・・・、それが全滅!?
「中隊長は死んだのか? 相手はエルフか? 何人ぐらい伏兵が居るのだ?」
「それが・・・見えない相手からの攻撃を受けて、隊長達の肩からいきなり血が噴き出しております。矢では無いのですが、何かが突然刺さるようです。中隊長は生きていらっしゃいますが、利き腕が動かず戦うのは無理です」
-やはり、知らない魔法なのか!? どうするか? 今から戻るか・・・、いや、ここまで来て戻れば挟撃されて、敵の思うつぼだ。まずは目の前に居る敵を殲滅してから、戻る方が良いだろう。
「ならば、お前は中隊長の元に戻って、動ける兵は全速力でわしの元に合流するように指示をするのだ。遅れる兵は置いて来て構わぬ。我らはこれから森の中に侵攻して、エルフ達を叩く」
「かしこまりました!」
伝令は馬に飛び乗って街道を南に戻って行った。バーラントは魔法士と弓兵のリーダーを呼び寄せて指示を伝えた。
「魔法士は土人形をすぐに作れ! 森の木を倒しながら進ませるのだ。弓兵は土人形を楯にして敵兵を狙い撃ちにしろ。歩兵部隊はその後ろから大きく広がって相手を包み込め!」
「ハァッ!」
魔法士達が地面に手をついて神に祈りを捧げると、大地が盛り上がり始めて巨大な土人形―ゴーレム-が立ち上がった。5体のゴーレムが木をかき分け、倒しながら森の奥へ進んで行く。弓兵はゴーレムの後ろに隠れながら進んで行くと、木の陰からゴーレムに向かって多数の矢が飛んできた。
火の国の弓兵は飛んできた矢を見て、撃って来た場所にすかさず打ち返していく。エルフが放つ矢はゴーレムに阻まれて届かなかったが、弓兵が反撃した矢の何本かはエルフを捉えた。火の国の弓兵は物量に物を言わせて、矢を次々に放って行く。傷ついたエルフを守りながら後退する森の兵にも多数の矢が襲い掛かった。
森の国側は森に引き込んで叩くつもりだったが、ゴーレムを壁に使われたことで森の中の優位性が激減してしまった。敵は移動する壁の後ろから攻撃するだけで良かったのだ。無謀な兵士が10人ほど剣でゴーレムに突撃したが、弓兵に狙い撃ちされて全員その場に倒された。
森の国の指揮官は戦い方を変えて、側面へ回り込んで相手の届かない長射程で弓を放てるエルフを使った。壁に隠れきれない敵の弓兵へエルフの長弓隊の矢が降り注ぎ、何人かの弓兵を倒すことに成功した。
だが、それも一度だけだった。ゴーレムはすぐに進む方向を変えて三方に展開して死角を作らないようになった。それと弓兵だけでなく楯を持った歩兵部隊が人数に物を言わせて森の兵を広範囲に包囲し始めていた。
「まずいな、このままでは・・・」
指揮官は思った以上にゴーレムが厄介な存在であることを思い知り、森のさらに奥まで撤退することを決断して、エルフのリーダーを呼び寄せた。
「エルフよ、撤退すると仲間に伝えてくれ」
「しかし、ミーシャ達との距離が開いてしまうと、奴らが孤立してしまう事になり危険だ」
「だが、このままではこちらが先にやられてしまう。まずは引くしかないだろう。エルフの戦士には、何とか切り抜けてもらうしかない・・・」
「それでは、あまりにも!」
「ならば、他に良い手があるのか!?」
指揮官とエルフのリーダーが苦渋の撤退を決めているときに、ミーシャとサリナは歩兵部隊の殲滅に着手していた。ばぎーを走らせるサリナの左側は本気の風魔法で森の木と一緒に吹き飛ばして行き、右側はミーシャがアサルトライフルで立て続けに倒していった。
サリナの風魔法は見えている兵士を飛ばすだけでなく、森の木も根こそぎ吹き飛ばして、その先にいる兵達を飛ばした木で叩きのめしていた。手加減しなくていいとミーシャに言われたサリナは安心してフルパワーを発揮していたが、魔法を使った場所は木が抜けた荒れ地と化している。
「ねぇ。ミーシャ。こっちは悪い人がも居なくなったよ?」
「そうか、お前の魔法の方が早く終わりそうだな・・・。よし、私が運転するからサリナは私の言う方向に全力で風をぶつけてくれ」
「うん、わかった! 全力は得意だから任せて♪」
ミーシャは相手の兵よりも森の木が無くなることを心配しながら、敵兵が多い場所へとバギーを向けた。
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