第181話Ⅱ-20 バーラント将軍

■火の国王都ムーアの王宮


 火の国の王と大臣を担架に乗せた死人達を従えて、俺達は王宮の出口へと向かった。俺に撃たれた多くの兵が扉の前で足を抑えて床でもがいている。


「あなたの魔法はどうなっているのですか? 矢のようなものなのでしょうか?」

「そうですね、小さな矢が沢山飛んで行く魔法だと思ってください。小さくても矢よりも強力ですから、人間の体を突き抜けて行きます」

「凄いですねぇ!? 今度、教えてください。わたくしも使ってみますから」

「ええ、良いですよ」


 あんなに強烈な風魔法があればママさんには必要ないと思いますが・・・、俺は心の中でつぶやいた。


 王宮の扉を開けると中庭に大勢の兵士が走り込んできたところだった。


「まだ、あんなにいるんですね」

「これでも少ない方です。森の国を攻めに行っていますから、王都の守備隊は全員合わせても1,000人もいないでしょう。あの兵達は王都内にある兵舎から急に呼び寄せられたのでしょうね」


 俺が見たところ200名ぐらいの兵が槍を持ってステゴもどきと俺達に向かって来ている。


「あの大きなのはどうするのですか?」

「持って帰りますよ」

「どうやって? あんな大きなものを?」

「それも魔法です。大きなものでも持ち運べる魔法なんですよ」

「凄いですねぇ、その魔法も今度教えてください」

「そっちは無理です。私しか使えないので」

「固有魔法ですか、残念です・・・」


 -固有魔法? そんなのがあるのか?・・・、今はそれよりも目の前の兵だな。


 俺は走って来る兵に向かって、6連装のグレネードランチャーを立て続けに発射した。


 -シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!シュポン!


 軽い弾けるような音で榴弾が放物線を描いて兵士達の足元へ飛んで行き、周りにいた兵士達を爆発音とともに吹き飛ばしていく。


「まぁ!? あんなに大勢を!?」


 ママは感心しているが、恐らく風魔法なら一撃で全員を敷地の外まで叩き出せたかもしれないと思っていた。もっとも、どちらが兵士たちにとっての生存確率が高いかは微妙だったが。


「では、残りはわたしが!」


 ママはそう言って右手を上げて、まだ立っている兵達を王宮の門がある方向へ吹き飛ばした。50人以上の人間が子供に放り投げられた人形のように敷地の外へ飛んで行く。


 -生き残っている方が少ないんじゃないか?


 50メートルぐらい飛ばされて石畳の上に叩きつけられた兵士達は誰一人起き上がって来なかった。少しだけ残っていた兵は俺がアサルトライフルで倒して、敵兵が居なくなったところで、頑張ってくれたステゴもどきと虎系魔獣達ををストレージに収納した。


「まぁ!? 本当に・・・、消えるのですね!?」

「ええ、いろんなものを入れておくことが出来ます。出すのも簡単で・・・」

「これは!?」


 俺はピックアップトラックと大型犬用の檻を出して帰る支度を始めた。


「これは、私たちが乗る馬車です。檻は元王様と元大臣を入れるための物です」

「檻!? そんなものに!?」

「やっぱり可哀想だと思いますか?」

「とんでもない!? 素敵です! 二人とも檻の中がお似合いだと思いますよ」


 サリナママが話の分かる人で良かった。むしろ、俺よりもドライ? というか残酷な人なのかもしれなかった。死人の手を借りて檻に入れた王と大臣をピックアップトラックの荷台に乗せて、俺達は王宮を後にすることにした。


 -嫌だけど、まずはリカルドの所だな・・・


 立ちはだかろうとする兵が居なくなった王都バーンの石畳の上を、クラクションを鳴らしながら南門に向かってビックアップトラックを走らせた。


■森の国 西の砦近くの森


 火の国の将軍バーラントは土魔法士と弓兵隊の少し後ろを親衛隊になる騎馬兵に守られながらゆっくりと馬を進めていた。土人形のおかげでエルフの弓を弾き返しながら、森の奥へと敵を追い込んで行っている。兵力は敵の3倍から4倍はあるはずだから、両翼に展開させた歩兵部隊もが相手を包み込むように回り込めれば・・・


「将軍、新たな伝令が参りました!」

「今度は何だ!?」


 今度は左翼に展開していた部隊からの伝令だった。今日は伝令のもたらす情報は凶報しかなかったので、顔をしかめながら走って来る兵を迎えた。


「申し上げます!西側より森を吹き飛ばす突風が吹き荒れており、20小隊が壊滅いたしました!」


 -20小隊!? 約1000名の兵か!?


「き。貴様は正気か!? 晴れ渡った空で風ひとつない晴天の日に突風だと!? いや・・・、風の魔法なのか!? どの程度の風の力なのだ? 人間を飛ばせるほどか!?:

「はい!突風は森の木を根こそぎ吹き飛ばし、兵に森の木を叩きつけております」


 -ば、ばかな! あの女・・・勇者の一族でさえそんな風は使わないぞ!?


「魔法を使っている敵の姿は見えているのか?」

「はい! 遠くに動く馬車のようなものが見えております!」

「ならば、なぜ両側から回り込んで弓を放たんのだ!? 左翼にも弓兵がおるであろうが!」

「恐れながら、弓の届く距離に入る前に全員が肩から血を流して腕が動かなくなっております!」


 -後方の部隊を襲っていた魔法か!?


 バーラントは伝令の報告を聞いて怒りでは無く恐怖を感じ始めていた。


 -5000名の部隊を行動不能にして、今度は左翼の2中隊1000名を壊滅・・・

 目の前の敵の兵力は1500程度と見ていたが、後方から来る敵は一体何人・・・


 バーラントの考えなど全く知らない二人は、敵が集まっていそうな場所を見つけるとサリナが風魔法で森の木と兵を吹き飛ばし続けていた。


「サリナ、そろそろ味方の兵が居るかもしれないから、運転を代わってくれ」

「わかった! もう、たくさんやっつけたよね!?」

「ああ、十分だ。このあたりに残っているのは部隊としては機能しないだろう」


 突風と吹き飛んでくる木に巻き込まれて、多くの兵が森の中で血まみれになって横たわっている。バギーを見つけて近づこうとする敵の弓兵は見つけ次第、ミーシャがアサルトライフルで倒していた。


 ミーシャ達は西の方角-敵陣の左翼から北東に向かって進んできたが、敵の布陣から考えるとこの先で森の国の守備隊と火の国の兵が交戦しているはずだった。サリナの魔法は破壊力がありすぎるから、敵兵の向こうに居る味方にも飛んで行く木が激突する恐れがあった。ここからは、ミーシャの射撃で敵だけを確実につぶしていきながら、敵の将軍を追い込むつもりだった。


「良かった! 思ったより早く終わりそうだね? サリナはまだまだ魔法が使えるから、いつでも言ってね!」

「あ、ああ、その時は頼む。もう少し右の方から進んでくれ」

「わかった!」


 サリナは森を広範囲に荒れ地に変えた魔法を使っても全く疲れを見せていなかった。楽しそうにばぎーのハンドルを握って、ミーシャが指し示した森の奥へと進み始めている。


 -最初に会った時に魔法力が桁外れなのはすぐわかったが・・・、人の域を超えている・・・


 ミーシャは感心すると同時に小さい相棒の力に畏怖していた。

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