第182話Ⅱ-21 親子の再会 1

■火の国 王都ムーア 郊外


 サリナママはピックアップトラックの後部座席にショーイと並んで大人しく座ってくれた。椅子や背もたれを触りながら不思議そうな表情を浮かべていたが、リカルドのような質問攻撃はしてこなかった。


 南門の検問所には兵が何人か残っていたが、壊された小屋の横を走り抜ける車を呆然と見送ることしかできなかった。荷台に元王様と元大臣が檻に入れられて積まれていることにも気が付かなかったようだ。


「それで、ショーイ。あの子は・・・、サリナは元気なのですね?」

「はい。サトルと・・・、今度の勇者と出会ってからは魔法も使えるようになりました。それに、伝説の魔法具も全部見つけ出すことが出来たようです」

「そ、それは! 本当なのですか!? 魔法具は簡単には持ち出せないようにしてあったはずですよ!?それに、あの子が魔法を!?・・・、サトルさん、あなたのおかげなのですね・・・」


 バックミラー越しに見たサリナママの目から涙が溢れそうになっていた。


「まあ、成り行きですね。サリナともう一人ミーシャと言うハーフエルフの3人で南の魔獣狩りをしていた時に魔法具を探すことになって・・・」


 あの時の事を思い返すと、俺はなんで王様を捕まえるようなことをしているのかが不思議になって来た。


「そうだったのですね・・・、それで、魔法もあなたが教えてくれたのですか?」

「教えると言う事では無いですけど、使い方を想像したと言うか・・・」

「想像!? やはり、あなたは異世界から来られた勇者なのですね!?」

「いえ、それは何回でも否定しますけど、私は勇者なんかじゃないですよ。通りすがりの高校生ですからね」


 そうなのだ、数か月前まではゲームやアニメの仮想世界を愛する高校生で他人とケンカさえしたことは無かった。 それが人を銃で・・・


「まあ、その件は今度ゆっくりお聞きかせください。ところで、見つけた魔法具は何処にあるのですか?」

「炎の刀は俺が持っています、炎と水のロッドはサリナが持って行きました。後はサトルがもっているんだよな?」

「ああ、炎の槍と光のロッド二本は俺が預かっている。これがロッドです」


 サリナはロッドが無くても治療魔法が十分使えるようになっていたので、治療用のロッドはサトルが持って来ていたから、ストレージからロッドを取り出して、後ろを見ずに後席のサリナママに渡した。


「ああ、本当にあったのですね・・・、でも、それよりも、あなたとサリナが出会えたことが大事なのです。やはり、神の思し召しがサリナを勇者へと導いてくれたのでしょう」


 -神? 思し召しと言うより、嵌められたような気がしているのだが・・・。


「リカルドさんはもう少し先の森の中で待ってもらっています。リカルドさんを拾った後は、私はサリナ達のところに行こうと思っています。マリアンヌさんはどうします?一緒に行きますか?リカルドさんとどこかで待っていてもらっても・・・」

「もちろん! サリナのいるところへ今すぐにでも! ・・・リカルドは別に後でも構いませんよ」


 -あれ? 母親の娘に対する愛情は良く判るが、夫への愛情は無いのか?


■森の国 西の砦 近郊の森


 火の国のバーラント将軍は敵の主力部隊を西の砦に居た兵だと考えていたが、間違いであったことに気が付いた。


「一度、陣形を立て直す。土人形を左翼に回して謎の魔法士達の壁にせよ。土人形の後ろには弓隊を配置しておけ、だが、合図をするまでは矢を撃たぬようにな。右翼と左翼の歩兵は中央に呼び戻して正面の敵に当てろ」

「歩兵では正面にいるエルフの矢の餌食になると思われます」

「ならば、歩兵には風の魔法士をつけて矢をはじくようにしてやれ。部隊全体はゆっくりと南に後退させて、一旦森の外に出るぞ」

「ハッ!」


 かなりの兵が倒されたとは言え、それでも敵の2倍以上の兵力が残っている。それに土人形と魔法士部隊は健在だ。バーラントは勢力を結集して、正面の敵を食い止めながら左翼から来る謎の魔法士を土人形と弓兵で迎え撃つつもりだった。


 -だが、弓の届かぬ位置からの攻撃か・・・


「左翼に向かわせる弓兵にも魔法士部隊から10名つけておけ、相手の矢が来るようであれば風か炎の魔法で矢を食い止めるのだ!」

「かしこまりました!」


 バーラントは敵を侮っていたことをを後悔したものの、十分に挽回できると考えながら馬を反対の方向に回した。


 バーラント達を迎え撃つ森の国の指揮官は、細かく入って来る報告で西側-敵の左翼から包み込もうとしてた歩兵の動きが止まったことを知った。


「よし、部隊を西の方へ移動させながら見える敵は引き付けて矢を放て。無駄に矢を使うなよ!」


 昨夜の火事で多くの兵糧と武器も焼けてしまい、矢の数が少なくなっていた。エルフ達は倒した敵から矢を抜いてもう一度使っていたが、敵に追い込まれてからはそれも出来なくなってきていた。敵の攻撃が弱くなったと言っても、このままではもたないだろう。西へ移動しながら隙を見て、北の方角へ離脱する。それしか、生き残る手立てはなさそうだった。


§


 サリナはご機嫌でバギーを運転していた。思ったより戦いが早く終わりそうだったからだ。


「ねえ、ミーシャ。サトルには1日一本って言われたけど、戦いが早く終わったら、かふぇおれを3本飲んでも良いかな?」

「ああ、構わない。私の分も好きなだけ飲むと良いぞ」

「大丈夫だよ! ミーシャのはミーシャが飲んで! 私は頑張ったから、戻ったらサトルがたくさん出してくれるはず!」


 ミーシャは敵兵を見かけるたびにアサルトライフルで倒し続けていたが、敵兵は東の方角へ逃げ始めたようだ。サリナのおかげで銃弾はまだたっぷりと残っていた。あと1000人は倒すことが出来るだろう。ハンドガンでも50メートルぐらい先の敵は倒せるし、そっちの銃弾も手付かずで500発ある。既に敵兵の7割ぐらいを排除することにも成功していたから、殲滅するのも時間の問題だろう。


 -早くても1週間ははかかると思っていたが・・・、まさか1日でここまで出来るとは・・・


 ミーシャは自分が使っているサトルの銃とサリナの魔法の力を過小評価していたことに気付かされた。


-サトルは王を交替させると言っていたが、自分の力を理解していたのだな・・・。


「サトルの方はどうしているのだろうな? お前の親を見つけることが出来た頃だろうか?」

「・・・、それは・・・」


 元気だったサリナが心配そうな表情に変わった。親の事を心配しているのか、サトルの事を心配しているのかは判らなかったが、ミーシャは自分が余計なことを言ってしまったと思った。


「いや、きっと大丈夫だな。サトルとリンネにショーイもいる。あいつの魔法があれば、迷宮の時でもなんとでもなったからな」

「うん、それはそうなんだけど・・・」

「どうした、何か他に心配があるのか?」


 サリナは少し悲しそうな顔をしながら口を開いた。


「お母さんはお父さんとはもう会えないって言ってたの。二人は仲が悪いみたいなの・・・だから、二人を助けても・・・」

「そ、そうか・・・、そうだったのだな」

「誰にも言うなって言われてたけど、ミーシャなら大丈夫だから聞いてもらっても良い!?」

「あ、ああ、私で良ければ話を聞こう」


 ミーシャは数千人の敵と戦っている最中に、サリナの家庭問題を聞かされることになった。


 -人間の家庭問題など、エルフの私が聞いてもさっぱりなのだがな・・・

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