第151話Ⅰ-151 スピード感
■チタの町
チタの町に戻って来たのは23時過ぎだった。暗闇の街道は誰もいないが速度は50㎞平均で安全運転を心がけた。何といっても教習所に行かずに車を乗り回しているので、今だに運転には自信が無い。
アジトの前に戻って来た時には、チタのお頭は元気になっていて死体袋の中でもがいていたが、荷台で揺さぶられていて全身に痛みが走っているはずだ。念のために車から降ろす前にスタンガンでもう一度自由を奪っておいた。
お頭を入れた死体袋を引きずりながらアジトの中に入ると、そこにもショーイ達が確保した奴らが6人いた。全員が手錠とダクトテープで縛られて床に転がされている。
「船は桟橋につないだままにしてあるのか?」
「ああ、こいつ等が乗ってきたままだ」
「それで、リーダー役はどいつだ?」
「一番左の奴だ」
俺はいつもの手順で治療魔法をかけて、事前説明をしたうえで口に貼られたダクトテープを剥がした。
「手前ら! ふざけんな、 グッゥフッ!」
お決まりのパターンでスタンガンと治療魔法を3回繰り返してから、水タオルの拷問に移行した。水を6リッターほどかけると諦めて話し出してくれた。昨日から尋問が続いていたから、俺の方も精神的に疲れてきている。
「それで、お前たちが娘を攫って連れて行く火の国のアジトは何処にあるんだ?」
「俺達はこの娘たちをルッツの村まで運んで行くだけだ」
「ルッツは何処にある?」
「この川の上流にあるシモーヌ大橋の北側だ」
「そこがお前たちのアジトなのか?」
「女を預けるための場所だ。村長に金を握らせているから、ムーアに行くまではそこに預けてある」
「サトル、こいつらは夜の間に川から上がって、次の夜にムーアまで運ぶんだろう。それに、こいつらの船がシモーヌ大橋の船着き場に着くのは風次第だから、いつになるかもわからない。橋の近くに隠す場所が必要なんだ」
-ショーイの解説では単なる中継地点か。村長さんが悪人と言うわけだな。
「ショーイ、シモーヌ大橋からムーアまではどのぐらい離れているの?それと、ムーアまではここからだとどのぐらいかかるんだろう?」
「橋からムーアまでは馬車で半日だな。ここからムーアまでは馬車で4・5日だ」
馬車で4・5日なら帆船でも上りなら2日ぐらいかかるだろう。しかし、ルッツの村に行っても中継点なら意味はなさそうだ。
「ムーアのアジトは何処にあるんだ?」
「それは・・・」
言い出さない男に向けてタオルを手に持ってみせると、必死で首を横に振った。
「わかった言うよ! アジトはムーアの西にある貧民街の黒龍って宿の奥だよ」
「貧民街か・・・」
「貧民街ってゲイルの下町みたいな感じのところか?」
「いや、もっとガラの悪い場所だ。犯罪者ばかりが住んでいるから、まともな人間は誰も近寄らない場所だな」
-日本には無いが、中南米のスラム街みたいなところなんだろう。
「お前はネフロスの信者なのか?」
「ネフロス? なんだそれは?」
黒い死人達の中でネフロスの知名度は高く無いようだ。組織内での布教活動はしていないのかもしれない。この男から聞くことは終了したので、もう一度ダクトテープを貼って大人しくしてもらった。
次はお頭の尋問だったが、すでに0時を回っている。俺はかなり疲れていたので最初から水タオルにさせてもらった。お頭はかなり頑張ったが、5回目で意識を失っても何もしゃべらなかった。気付け薬で無理矢理起こして、3回追加するとようやく諦めてボソボソと話し始めた・・・。
俺は眠い目をこすりながら頑張って聞き出したが、新しい情報は殆どなかった。
ムーアのアジトは黒龍・・・、組織の首領は二人で若い奴ら・・・名前は知らない、首領への連絡は使いを通して・・・、ネフロスの事は知らない・・・、ここに届いた金はムーアに送る・・・、等々・・・
結局、この支部のトップと言っても首領達には金を渡して指示を受けるだけの関係だった。毎月定例の幹部会や年に一度の忘年会で集まるような組織では無い。こいつらを潰して回っても意味がないのだろうか?・・・いや、やはり叩いておくべきだろう。少なくともこいつ等が二度と俺達を襲わないようにしなければならない。
「それで、どうするんだ?」
「明日、ムーアのアジトを襲いに行くよ。ミーシャとショーイ、それからリンネも一緒に来てよ」
「サリナも行く!」
「サリナとハンスは風の国に戻って、こいつらを王様に渡して牢にいれておいてくれ。お前たちは火の国に入ると面倒なんだろう?」
「うん、そうだけど・・・」
「サリナ、サトル殿の言う通りにするのだ」
「じゃあ、今日はとりあえず寝よう。ここにベッドを出すから、夜明けまで少し寝て日の出と共に出発する」
サリナはまだ不満そうにふくれっ面だったが無視した。明日も早いのだ、子供に構っている暇はない。
§
翌日は睡眠不足のまま日の出と共に活動を再開した。最初にコンテナに閉じ込めていた男達を回収してきた。全員をピックアップトラックに積み込もうと思ったがさすがに20人は無理だったので、袋に入れた10人を積んで、残りは大型犬の檻にいれて船に乗せた。船は船頭無しで下流に流したので、ゆっくりと回転しながら流れて行く。どこか適当なところで誰かがが見つけてくれるだろう。そうでない場合は海まで行くが、その可能性は・・・低いと思っている。
娘たちは乗合馬車で帰るように言い含めて金を渡した。後は自分達で頑張ってもらうしかないと割り切っている。
「サリナ、運転は気を付けるんだぞ。いつもより重いからな、ゆっくり走れよ」
完全に定員オーバーの車は大きく沈み込んでいるが、走行に支障は無いようだった。
「うん、サトルも気を付けてね。セントレアで待っているから早く戻って来てね」
「ああ、車は途中の林に隠しておけよ」
サリナ達にはゲイルへ護送した後はイースタンの屋敷に行くように言ってある。俺が居ないと車を収納できないので、目立たない場所に車を隠して、その後は馬車か徒歩で移動することになっていた。
サリナのピックアップトラックを見送った俺は、桟橋からプレジャーボートを浮かべて4人で乗り込んだ。
ショーイの話では火の国は入国も、ムーアに入るのも警備が厳重になっている。特に森の国との戦が近い状況では、不審人物は問答無用で捕らえられる可能性が高いらしい。俺はできるだけ火の国との争いは避けたいと思っているが、速攻でムーアまで行かないと情報の優位性が活かせない。場合によっては兵士との戦闘も避けられないかもしれない。
それにしても連夜の夜間作業で眠いし体がだるかった。だが、この戦いにはスピード感が大事なのだ。先手必勝、当面はこれで行くしかない。俺はジェット推進タイプのプレジャーボートのスロットルを徐々に倒して、船をトップスピードに乗せて火の国を目指した。
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