第190話Ⅱ-29 野戦 1

■森の国 西の砦 近郊の森


 俺はみんなが起きてくると、まずはリンネにステゴもどきとラプトルを南に向かって走らせてもらった。5km南・・・と言って頼んだが、リンネは恐竜に5kmが判らないというので、リンネの感覚で歩いて30分ほど南に行ってから東へ進むように頼んでもらった。


 恐竜たちは頷かなかったが、地響きを上げながら森の木をかき分けて南へ進んで行った。俺はショーイとサリナママに此処に残って元王達を見張るように二人に頼んだ・・・が、二人とも嫌がった。


「俺を置いて行くと言うのはどういう事だ? 俺だって、戦えばかなりの腕なんだぞ?お前も知っているだろう!?」

「私はサリナと一緒に行きます。リカルドとここに残るのは御免です」


 戦いたがる剣士と完全に夫婦関係が破たんした母親は強硬に抵抗している。


 -仕方ない、プランBも諦めてみんなで行くか・・・


 俺は重機関銃を積んだピックアップトラックをあきらめて、バギーと荷台に二人の檻を積んだ車の二台で行くことにした。プランBでは近づいてから重機関銃で南の恐竜が待っている方に追い込むつもりだったが、他の方法でもなんとかなるだろう。


「ミーシャ、敵がどのあたりに居るのかわかるか?」

「ここから東に10㎞ほど行ったところだと思うが、正確な場所は近づかないと判らないな」

「そうか、じゃあ、大体の場所がわかったら教えてくれ」

「うん、それは良いが、今日はどうするつもりなのだ?」

「ああ、北の森で狼を追い出した時と同じやり方でやる」

「そうか・・・、うん、だったら少し小高くなっている場所を探そう。その方が良いだろう」


 ミーシャは俺の戦術とそれにあった場所をすぐに理解してくれたので、二台に分乗して、東に向かって車を発進させた。東の森の向こうから太陽が昇って来て、森の中に日差しがゆっくりと差し込んでくるようになっている。ヘッドライトをつけて、木をよけながらゆっくりと進んで行くと30分ほど進んだ場所でミーシャが車を左-北側に進めるように合図してきた。指示通りに進んで行くと緩やかな登り斜面になって、車は徐々に高い位置に上って行った。先行するサリナとミーシャのバギーが停車した場所は、森の中でも木が少ない小高い場所になっていた。ミーシャはバギーを降りると一番近くの大きな木に向かって走って行く。手には何か紐のようなものを持っているが、何をするつもりなのだろう? 


 俺も車を降りてバギーの方に歩きながら見ていると、ミーシャは手に持った紐を頭上の木の枝に巻き付けて、あっという間に枝の上に登った。更にその上の枝、その上・・・、金色の髪をなびかせて軽やかに飛んで行く。


 -綺麗だ・・・木の上を飛ぶハーフエルフ・・・


 俺は朝から良い物を見せてもらって、一人で幸せな気分になっていた。ミーシャは高い位置から東の方角を眺めていたが、すぐに木の上から俺を呼んだ。


「ここから、2kmほどのところに本隊が居る。既に、北に向かって動き出している本隊と東に分かれて進んでくる奴らが居る。こっちに来るのは500名ほどだな。空に向かって撃つなら、私がここから見ていてやるぞ」

「そうか、了解。じゃあ、さっそくやるか。サリナ、手伝ってくれ」

「うん、今日は何するの?」

「前に練習した迫撃砲を使うから、お前は俺に箱から砲弾を出して渡してくれ」

「はくげきほう・・・、上に飛ぶやつね!? わかった!」


 直ぐにストレージから組み立て済みの迫撃砲を取り出して地面との水平位置を調整しながら、おおよその方向に砲身を向けた。狙いは敵の本隊だったからおおよそ2㎞に距離になるように底に着いたハンドルを回して砲身の角度を調整する。正確さは全く必要ないので、とりあえず撃ってから補正することにした。


「はい、これ」


 サリナは砲弾の箱を開けて安全ピンを抜いた榴弾を俺に手渡した。俺はすぐに砲身の中に榴弾を落とす。


 -カキーン!  -ヒューン!


 金属バットで石を打ったような音の後に空気を切り裂いて飛んで行く榴弾の音が朝の静かな森の中に響いた。10秒近い対空時間の後に遠くから爆発音が聞えてきた。俺達の場所からは森の木に阻まれて全く相手の状況が見えない。


「凄いな!? 本体の真ん中に飛んで行ったぞ。どうやって狙ったんだ?」 


 木の上のミーシャからお褒めの言葉をいただいたが、まったく狙っていなかった。


「そうか、なんとなくだな。もう少し北側を狙って本体を南側に追い込むよ」

「わかった」


 俺は砲身の方向を少しだけ左になるように調整してからサリナを見ると既に榴弾を持って待っていた。


「はい、これ」

「おう」


 -カキーン!  -ヒューン! ・・・・ドーン!


「今度は少し北過ぎたんじゃないか? 」

「そうか」


 手元で1㎝動かかすと2㎞先では・・・、結構動いたのだろう。良く判らないが少しだけ、元に戻してもう一度発射する。


 -カキーン!  -ヒューン! ・・・・ドーン!


「うん、丁度良い感じだな。先頭の部隊の前に落ちたはずだ」

「そうか、じゃあ、そこから南へ少しずつ戻すことにしよう」


「はい、これ」

「おう」


 -カキーン!  -ヒューン! ・・・・ドーン!  ・・・。


 俺は砲身の狙いを一発撃つごとに南へずらしていき、サリナが手渡し30発の榴弾を発射し終えた。


「どんな感じだ?」

「うん、もう部隊とは呼べないな。みんな散らばってしまって、逃げまどっている。だが、こちらに近づいて来る奴らがそろそろ見えてきたな・・・、うん、私がここから撃つことにしよう」

「そうか? この迫撃砲で追い払っても良いぞ?」

「いや、上からの方が狙いやすいしな。・・・、私にも撃たせてくれ」


 要するに自分が撃ちたいようだった・・・。朝日の中で枝をしならせて舞うように地上に降りたミーシャは狙撃銃を持って、マガジンをベストのポケットに突っこめるだけ突っ込んで、もう一度木の上に登って行った。


 俺が下から見ていると、すぐに狙撃銃の発射音が立て続けに聞えてきた。ここからでは敵兵の動きがみえないが、見なくても結果は想像がつく。

 可哀想に・・・。俺は発射音の数=相手の肩が砕ける音として聞いていたが、マガジンを3個(90発)空にすると、上から声が聞えた。


「もう、南へ逃げ始めたな。こちらへは誰も近づこうとしない・・・。終わりだな」


 少し不満そうな声で終結宣言を出してから、ミーシャは華麗に地上へと舞い戻って来た。いつものすました表情で美しい顔はニコリともしていない。俺達の戦争は1時間も経たないうちに大勢が決したようだ。


 -やはり現代兵器は反則だな。


「よし、じゃあ将軍が生きているか探しに行こう。北から南にゆっくりと進んで行くから、死体も含めて敵が居たら気を付けてくれよ」



 §


 ゲルドは魔力の回復を待って、体を覆っている土の動かし方を変えることにした。今度は自分の居る場所を胴体に見立てた巨大な土人形を頭の中でイメージする。


 -大地の神よ! 我に力を!


 ゲルドは今までとは全く違う振動が全身から伝わってくるのがわかった。体を包んでいる土は全く減らないが、その包んでいる土全体が動こうとしている。ゆっくりと体が水平だった状態から垂直に移行していくのも感じられた。ゲルドにはまだ見えていないが、大地の神は願いを叶えて沼地となっていた膨大な泥を巨大な泥人形に変えて立ち上がろうとしていたのだ。


 §


 バーラント将軍は空から鳥が鳴くような音がした後に激しい轟音と衝撃を受けて馬と一緒に吹き飛ばされた。将軍は運よく命を取り留めたが、馬は助からなかった。首から大量の血を吹き出して横たわったままだった。


 馬の下敷きになった片足を必死で引き抜いて立ち上がると、辺りの惨状が目に入った。自分の右側に居た騎兵たちは榴弾の破片を受けて殆どが一瞬で命を落としている。


 -一体何が・・・。


 周囲には斥候を放ってあり、西に居る謎の魔法士は見つけられなかったが北には森の国の主力部隊を見つけている。謎の魔法士は見つからなかったから、近くには居ないはずだった。だが・・・、北の方角から先ほどの轟音が聞えた。バーラントは思わず死んだ馬の陰に隠れて北の方角を眺めた。轟音は何度も響き渡り、北から近づいて来るようになって来た・・・。既に歩兵部隊とその後ろに魔法士と弓兵の部隊を出発させてある。先ほどの轟音が先発隊を襲っていれば、無事では済んでないだろう。


 -このような魔法を使う相手とどうやって戦えばよいのだ・・・、だが・・・ここで引くわけにはいかぬ!


「皆の者! 西へ向かうぞ! 大勢で固まるな! 離れて走れ!」


 バーラントは最後の戦いを挑むべく、生き残った兵を引き連れて西の方角へと進み始めた。




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