第163話Ⅱ-2 水の国の王

■水の国 王宮


 マクギーは王宮の中庭でバラの手入れをしている王の元へ歩み寄った。水の国の王は良き王として国の内外から人望があるが、長い付き合いのマクギーでさえ何を考えているのかが掴みきれないところがある。


 今日もマクギーが来ても何も言わずに花の手入れを続けている。小さなハサミを使って薔薇の棘を避けながら余分な枝を切っていた。


「王よ、今日はご相談があってきました。先日よりご相談している火の国と森の国の戦についてです」


 王は話し始めても顔を向けることも無かったが、マクギーはそのまま話し続けた。


「かねてご相談の通り、戦が始まるまで我が国の兵は動かさぬ予定にしておりましたが、わたくしの元にランディの紹介状を持つ男が本日参りました。ランディによれば、国を倒すほどの力を持つものだと暗に匂わせております」


 強大な力を持つ者が現れたと言うマクギーの言葉も、王の手を止めることにはならなかった。


「その者が火の国の王を追放すると申しております。そして、代わりの人材を王に据えよと・・・」

「ならば、その者の言う通りにせよ」


 王はあっさりとマクギーの、いや、あの若者たちの言う事を受け入れた。まだ詳しい説明をしていないと言うのに・・・。


「宜しいのでしょうか? 私も力を持っていることは判りましたが、果たして炎の国を倒せるものでしょうか?」


 ようやく手入れに満足したのか、王がマクギーの方に向きなおって、面白がるような表情を浮かべた。


「うむ、わしの元にもその者たちの情報が色々と入ってきておる。最初は南のバーンで驚くほどの魔獣を次々と倒す奴らが現れたと報告があった。次に街道を風のように走り抜けて行く者たちが居ると。更に、風の国では相当に暴れた者たちが居る。色々な報告書にはそう書いてあったが、全て同じ連中のことであろう。そして、その者たちがそなたの元に現れた・・・と言う事であろうな」


 王は近衛部隊の中に国内外の情報を集める使徒を各地に放っている。主要な町には早馬も用意しており、南のバーンの情報も翌日には入って来ていた。


「風の国では王都で騒乱があったと聞いておりましたが、あれもその者たちの仕業なのですか?」

「そうじゃ、あ奴らはラインの領主を捕らえて王の元へ裸で引きずって行ったそうだ。そして、3日後には死にかけた息子達が檻に入れてられて、魔獣が引く荷馬車で届いた・・・、中々に愉快な連中だとは思わぬか?」

「確かにライン領の悪評はこちらにも聞えておりましたが・・・」


 それにしても魔獣が引く荷馬車? 魔獣を操れるのだろうか?


「いきなり王宮に乗り込んできて、兵を50人ほど倒してライン領の立て直しを要求すると、今度は黒い死人達を根絶やしにし始めたそうだ。既に火の国のアジトも襲ったようだな」

「そこまでの事を・・・、今日来たのは二人ですが、他にも仲間が居るのでしょうか?」

「詳しくは判らんが、悪人や質の悪い領主を捕まえてくれるのだから悪人ではないのだろう。そして、その者たちが火の国の王を追放すると言う。良い話では無いか、私たちの仕事が減るならそれで良いだろう」


「では、当初の予定通りに戦が始まるまでは我が国の兵は動かさぬと言う事で良いでしょうか?」


 マクギーは森の国との同盟を進言したが、王は同盟は結ばずに森の国との戦で疲れた火の国を叩くようにと命を下していた。矢面に立つのは森の国で良いと判断したようだ。


「火の国の開戦と終戦はいつになると見ておるのじゃ?」

「恐らく1週間以内に火の国が兵を出すと思われます。新しい土魔法も取り入れたと噂されていますので、私の見立てでは開戦1カ月以内には森の国の王都まで攻め入っているはずです。エルフの力を借りたとしても、森の国の兵力ではもたないでしょう」


「うむ、今までならそうであったがな。だが、王を替えると言った者が現れたのであろう?」

「はい、ですが、真偽のほどが判りかねます」


「わしはその者たちは本物だと思うぞ」

「本物と言うのは?」

「伝説の勇者じゃよ」


■セントレア北の森


 サリナとミーシャの壮行会を兼ねて、森の奥でいつもの焼肉パーティーを開いてやった。ショーイとリンネには冷えたビールを出してやると、肉とビールを高速回転で食い始めた。サリナは肉と野菜を網の上にタイミング良く並べて焼いている。焼肉奉行を任せても大丈夫なぐらいに成長していた。


 ミーシャは黙って少しずつ肉を食べていたが、心なしか元気が無いような気がした。


「ミーシャ、どうした? やっぱり戦の事が気になるのか?」

「ああ、戦の事を考えていた。お前に貸してもらった銃があれば負ける気はしないのだが、反対に多くの命を奪う事になるのだとな」


 そうだ、俺がこの世界に関与しないでおこうと思ったのはそのためだ。銃の無い世界に銃を持ちこんで、戦争の在り方を根本的に変えてしまう事を恐れていた。


「そうだな、銃は強い武器だからな。それに矢よりも多くの数を撃つことが出来る。だから、多くの命を奪う事になる」

「うん、弓矢や剣で戦うのとは、まったく違うと言う事は理解している」


 ミーシャも銃の威力を十分に理解しているために、その威力と影響についてナーバスになっているのだろう。


「でも、仕方がないんだよ。ミーシャ達が戦わなければ火の国の王はエルフを捕まえたり、殺したりするんだから。だけど、殺さずに追い返すことが出来るならできるだけそうしてくれ」


俺の中ではエルフを傷つけようとする王やその兵に遠慮はいらないという思いと、その気になれば虐殺することが出来る銃器にたいする怖さの両方が交錯していた。


「殺さずにか・・・、わかった、そうしてみよう。それで、お前たちは火の国へ明日から入るのか?」

「俺達は火の国が兵を起こしたのを確認してから、火の国へ入るつもりだ」

「それまではセントレアに居るのか?」

「いや、その前にリンネと新兵の募集を掛けてくるよ」

「?」


 戦いには準備が重要だ、幸い何でも入っているストレージはあるが、この世界で調達すべきものが残っていた。


-リンネの友達を増やしてやろう。

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