第207話Ⅱ‐46 受け渡し 3

■火の国へ向かう街道脇 炭焼き小屋


「何だ! ヌッ! サリナ!」


ショーイが叫んでサリナを抱えて横っ飛びに地面に転がって、倒れた男たちがいる場所からあわてて後ろへ下がった、ミーシャも馬車から飛び降り御者台のアサルトライフルを取り出して既に構えている。


ーゴゴ、ゴゴ、ゴゴゴ・・・


地面から地鳴りと揺れが続き、転がった男たちの下の地面が突然盛り上がると、男たちを弾き飛ばしながら何かが地上へ現れた。


―キュエーィ!!


「ガぁ! あの叫び声か!」


俺は耳と頭の痛みを無視して、現れたそいつにアサルトライフルの銃弾を叩き込みながら後退した、5.56㎜弾が黒い影に吸い込まれていくがあまりダメージがないようだ。土を振るい落として現れたのは、見たところ・・・ミミズ? いや、芋虫か!? 虫の幼虫のようなそいつはクワガタのように開いた4つある牙を開いてこっちを見たと思った瞬間に何かを俺に向かって飛ばそうとした。そのはずだ・・・


―キュエーィ!! 

―ビシ!ビシ!ビシィ!


だが、最後の叫びをあげると突然に静寂が訪れた。目の前の芋虫顔のあたりをいきなり氷漬けにされていた。横を見るとサリナママが無造作に右手を降ろすところだった。


ママさんは相変わらず無敵だな・・・。混乱しながらも危ういところを救われたのだろう、あいつは何かを飛ばそうとしていたのは間違いない。


芋虫は氷で覆われた顔以外の部分をくねらせながら悶えているので、俺は破砕手りゅう弾を取り出してピンを抜き、地上から出ている胴体の部分に投げた。


「みんな、耳をふさいで伏せろ!」


叫んで俺も耳をふさぎながらしゃがみこんだ。1秒後に爆音が響き、巨大芋虫の胴体に大きな裂け目が出来て、紫色の液体があふれ出てきた。かなりダメージを与えられたようで、芋虫はくねりながら急速に地面の下に戻って行った。


「気をつけろよ、まだこの下にいるんだからな!」


俺達は各自が自分の近くの地面をキョロキョロと見まわしながら警戒していたが、5分ほどたっても現れる気配は無かった。


「どこかに行ったのか?」

「そうですね、かなりの深手を負いましたからね」


そういってママさんがリンネを連れて近寄ってきた。


「あれは地を潜るものでしょうね・・・、闇の世界の使徒の一つです。どうやら、今回の件は私たちをおびき出すのも目的だったのかもしれませんね」

「私たちを?ですか? ですが、イースタンさんと私たちが繋がっていることをなぜ知って・・・、いや、最近は目立ちすぎていたかもしれませんね。屋敷にも車で行ったりしていましたからね・・・」

「それと・・・、ユーリさんは何かの術を掛けられているようですね。まずは治療魔法をかけてみましょう・・・、癒しの光を!」


ママさんが伸ばした右手から暖かい空気がユーリのもとに流れていくのが感じられた。


「・・・」


だが、ユーリの状態は特に変化がなく、イースタンに支えられて俯いたままだった。


「治療魔法ではダメなようですね。時間を戻しても上手くいかないとなると・・・、呪術の類で今もユーリさんに悪い力を与え続けているのかもしれません」

「そ、そんな!どうすれば元に戻るのでしょうか?」


イースタンは一人息子のことが心配で大声で取り乱している。


「その術が何か、術者が誰かが判らなければ手の打ちようがないですね」

「それでは・・・、ユーリは・・・」

「こいつらから術者が誰か聞きだせるかもしれません。とりあえずイースタンさんたちはゆっくりしてください。サリナ、部屋で二人を面倒見てやってくれ」

「うん、わかった! かふぇおれで良いかな?」


地を潜る芋虫によって転がる場所が変わった悪人たちは手早く処理され、電気ショックで痙攣した上に後ろ手に手錠と足はダクトテープがぐるぐる巻きにされている。俺は避難シェルターを呼び出して、その中で寛げるように飲み物とサンドイッチを用意してやった。サリナは飲みものをカップに移してやり、サンドイッチも袋を開けて食べ方の説明をしてやっている。


空き地に戻って、顔が引きつって地面に転がる男たちを眺めてどいつが一番情報を持っているかを考えていた。


「ミーシャ、最初に二人来た男で荷台に上がらなかったのはどいつだ?」

「右から3番目の男だな」

「そうか、じゃあ、ショーイとハンスでこいつを小屋の中に引きずって行ってくれ」

「私一人で大丈夫ですよ」


ハンスはそう言って足を片手でつかむと小屋まで引きずって行ってくれた。男はあきらめ切った顔でされるがままになっていた。


「じゃあ、ショーイとマリアンヌさんはあたりの警戒をお願いしますね」

「はい、気を付けてくださいね」

「ミーシャは一緒に来てくれ」

「承知した」


小屋は外にある炭を焼くための窯で火を入れるときに泊まり込むための簡易なものだった。小さな机とベッドが壁際に置いてあるだけで、他に目につくのは水瓶ぐらいのものだ。床に転がされた男は左の太ももから血を流していたが、大量というわけではないから死ぬこともなさそうだ、まだ、スタンガンのショックで体に力が入らないようだが、油断は禁物だと自分に言い聞かせる。


俺は男の顔に治療魔法をかけるイメージで神に祈りをささげた。暖かい空気が流れていくのが判ったのですぐに手を止めた。


「もう喋れるだろ?」

「・・・」

「そうか、では、もう一度電撃で・・・」


―クゥッ!


首にあてたスタンガンで男の体が震え、硬直して、弛緩した。再度、治療魔法を・・・、3回やったが話したくないようだったので。水タオル方式に変更した。


「なあ、最終的には話すんだよ。チタのお頭も結局話したんだからさ」

「お、お頭が? お頭はどこにいるんだ?」

「なんだ、やっぱり話せるじゃないか。お頭は俺が預かっているよ。会いたければ同じ場所に連れて行ってやるよ。知っていることを全部話せばな」

「連れて行く・・・、手前! お頭を地獄に送ったって意味か!?」


―生きとるっちゅうねん!


「いや、ちゃんと檻の中で生きているはず。ひょっとするとゲイルの頭の近くかもな」

「ゲイルの頭もお前が!? だが、生きて・・・、そうか・・・」

「それで、話す気になったのか?」

「仲間たちはどうする気だ、皆殺しにするのか?」

「そうだな、お前が話せばお前は助けてやるよ」

「あいつらも助けてやってくれ。約束するなら俺が知っていることは話そう」


取り押さえた男は意外にも男気(?)があるようで、自分よりも仲間を心配しているようだ。


「わかった、殺さないと約束しよう。じゃあ、最初にユーリと一緒にいた二人の女の子はどこに連れて行った?」

「あの二匹、いや二人は首領の使いが連れて行ったが、何処に行ったかは知らない」

「本当か?心当たりはあるんだろ? 嘘を一回つくと外のやつを一人殺すことにしようか?」

「ま、待ってくれ! はっきりは知らないんだ! だが、シモーヌ大橋近くの人買い頭のところだとは思う」


―シモーヌ大橋近く・・・、チタのアジトでそんなのを聞いたような気がするな・・・。


「人買い頭っていうのは・・・、どっかの村の村長か?」

「いや、ルッツの村長は場所を提供してかくまっているだけだが、場所はお前の言っているとおりだ」


―そうか、では悪徳村長のもとに急ぐ必要があるな、エルとアナを取り戻さないと、それに首領の使いが連れて行ったなら、首領のアジトへの手掛かりがそこにあるかも・・・。

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