第291話Ⅱ-130 タロウの神殿攻略

■神殿の森


 男から必要な情報を引き出して神殿に向かって歩き始めると、上空から小さな何かが落ちてタロウの肩に当たった。地面に落ちたそれを見ると、黒い蜂が苦しみながら地面で動いていた。見上げた上空には黒い塊のようなものが輪を描くように飛んでいる。


 -あれは・・・、サトル殿の船がこの蜂に・・・。まあ、大丈夫だな。


 サトルが何をやっているのかは分からないが、あの黒い蜂と戦っているのだろう。マリアンヌ達もいることだし、大丈夫だと判断して森のはずれまで進んだ。神殿左の建物前に集結している剣士たちを見つけたところで、左手を地面について魔力を注ぎ込んだ。


「大地の神 ガイン様、力をお貸しください・・・」


 タロウの祈りで剣士が立っていた地面が突如変容した。


「おい! これは!?」

「足元がいきなり!? す、砂だ! 流砂だぞ!」


 剣士達はその場から立ち去ろうと慌てて足を動かしたが、その時には男達が立っている一帯は非常に細かい砂に変化していて、踏ん張る足がそのまま沈み込んでいく。50人ほどの男達が膝上ぐらいまで沈みこんだところで、タロウは右手も地面についてもう一度祈りを捧げた。


「ウワッ!」 

「今度は固まったぞ!」


 流砂で苦労していた男達の足元が堅い岩に変化して誰一人として足を動かせなくなっている。上半身だけでもがく男達を見ながら近づいて行き、足元が完全に固定されていることに満足してから声を掛けた。


「誰がリーダーだ?」

「き、貴様は誰だ!? これはお前の仕業か?」


 -ボゥッ


「ギャァーッ! も、燃える!」


 返事に満足しなかったタロウはちゃんと答えなかった男の下半身を炎魔法で包んだ。足が動かせない男は腰までが炎に包まれて必死で上半身を振っているが、炎は上へと伸びて行く。悲鳴と焼ける匂いを無視してその近くにいる別の男に同じ問いを重ねた。


「で、誰がリーダーだ?」


 次の男は賢明だった。返事をせずに上体をひねって離れた場所に居たひげを生やした男をみた。


「なるほど、あの男か」


 タロウはゆっくりと岩盤に捕えられた男たちの間を通りぬけて、ひげの男に近寄った。男は着ている麻の服は同じだったが、胸当てや既に抜いている剣の柄等は立派なものだった。


「さて、建物の中には何人いるんだ?」


 先ほど地中に置き去りにした男から聞き出した情報があるが、確認する必要があった。


「建物には誰もいない。ここに居るのが全員だ」

「そうか、じゃあ確認させてもらおう」


 タロウはリーダーの男を見たまま左手を神殿の建物へと伸ばして笑みを浮かべた。伸ばした手が示した神殿の入り口には高さ5メートルほどの炎が立ち上がった。その炎に向けて風魔法を叩きつける。紅蓮の炎は建物の入り口で燃え続け、風にのって建物の内部のあらゆる空間を焼き始めた。


 -ギャァー! ワァーッ! 助けてくれぇ―!


 建物の内部から大きな悲鳴が巻き起こり、燃えた人間が何人も窓から飛び出してきた。


「ふむ。嘘だったようだな。お前の嘘で大勢が死んだ。あの者は貴様が殺したのだ」

「おのれぇ! 許さん!」


 男は持っていた剣で斬りかかってこようとしたが、その場所から一歩も動けない。もちろんタロウにその剣先が届くことは無かった。


「さて、建物の中にいた人間は死んだだろうが、建物は奥の洞窟にもつながっておるのだろう? そこには何人いるのだ? それに通路にはどんな仕掛けがある? お前の回答次第でここに居るものと奥にいるものの寿命が決まるぞ。良く考えて答えろ」

「洞窟の事を知っているのか・・・。洞窟には魔法士が30人と剣士が20人ぐらい残っている。仕掛けは・・・」


 リーダーの男が話していた内容はあらかじめ聞いた情報と合致していた。タロウは答えに満足して岩盤に捕えられた男達の元を離れて炎で焼き尽くした建物へと向かった。


「おい! 聞かれたことには答えたぞ!」

「ん? それで?」


 タロウは振り返ってリーダーの男を見て、怪訝な表情を浮かべた。


「俺達をこのままにしていくつもりなのか?」

「なんだ? まさか、助けてもらえるとでも思ったのか? ・・・だが、このままではお前たちの生贄となった者達に申し訳ないな。なら、地面に横になることを許してやろう」

「貴様、一体何を・・・、ウワァッ!」


 タロウは膝あたりまで岩の中に捕えられた男達に向けて強烈な風魔法を叩きつけた。突風が男達の体を襲い、足の骨では支えきれなくなった男から順番に横倒しになっていく。


 -ギャァー! あ、足が! グゥッ!


 次々と足の骨を砕かれて地面に横倒しになっていく男達の悲鳴が重なっていく。岩に埋まった足の深さで太もも、膝、脛、それぞれの場所で足があらぬ方向へと曲がっている。中には上手く膝が曲がる方向に倒れて尻もちをついただけの男もいたが、見逃してやることにしてタロウは建物の中へと進んで行った。


 建物は土魔法で壁や階段を作った後に木のテーブル等を置いただけの簡素なものだ。火で焼かれた人間の悲鳴が上の階から続いていたが、無視して1階の突き当りまで進んで右に曲がった。そのまま左右の部屋を確認しながら進むと最後に大きな広間のような部屋にたどり着いた。広間は円形になっていて床にはネフロスのシンボル-六芒星が大きく描かれている。天井は3階部分ぐらいまである吹き抜けになっていて、広間を見下ろすように2階と3階部分にテラスがあったが、タロウの目標は部屋の中心だった。広間の中心にある大きな楕円形の台に近づいて屈みこんだ。


 -このあたりに・・・。


 この建物を魔法で作った魔法士は建物全体に反魔法を封じ込めてあるから、建物自体を土魔法で壊したり改造したりは出来ない。尋問した男はそう言っていたが、洞窟へ進むためには土の魔法士だけが動かすことのできる仕掛けをこの台の裏側に隠してある。タロウが探り当てたのは台の裏側に手の平をかたどった場所だった。その場所から魔力を注ぎ込むと・・・。


 -ゴ、ゴゴ・・・


 床から振動が伝わり、床全体が沈み込んで行く。周囲の壁が上昇していくように見えるとその壁の下から洞窟に繋がる入り口がせり上がってきた。


「ふむ。ここまでは嘘はなかったようだな」


 タロウは一人で納得しながら、現れた洞窟の奥への入り口と足を踏み入れた。

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