第156話 脱出
■ムーアの町 黒龍
俺がストレージに入れて目の前から消した男は間違いなく死人だった。ストレージには生きているものは俺しか入れないのだから・・・、と言う事はリンネも入れるのか!?
「サトル、今のは!?」
「大丈夫だ、俺が魔法で消しただけだ。それよりも、何か資料や金目のものが無いか・・・、いや一旦全部俺が魔法で預かって後で調べよう」
「?」
戦闘以外では話について来れないショーイの疑問は放置して、俺は広い部屋に置いてあったソファー、テーブル、棚等の家具を全てストレージの中に新しく作った場所に格納した。空っぽになった部屋の壁を叩いて、隠し扉が無いかも確認したが内壁以外は固い土壁の手ごたえだった。だが、床を叩くと音が違う場所が見つかった。
ストレージからバールを出して、床板の隙間に突っ込んで板を持ち上げると、床下には麻袋が沢山入っていた。袋の中身を確認せずにすべてストレージの中に収納しておく。手前にあった事務室も手下が転がっている部屋の家具も同じように全部入れておいた。
足を撃った手下達はかなり出血がひどかったが、そのままにして下階に向かいながら無線でミーシャを呼んだ。
「こっちは終わった。今から外に出るけど、様子はどう?」
「リンネの死人はあと10人ぐらいしか動けない。今出て行けば見つかるぞ」
「わかった。じゃあ、俺が合図したら手下たちの足を撃ってくれ」
「承知した」
階段を一階まで下りる間には誰にも会わなかったが、一階の酒場では二人の男がテーブルに座って酒を飲んでいた。
「誰だお前ら?」
奥から出てきた俺とショーイを見ると剣を持って立ち上がろうとしたので、アサルトライフルで二人の胸を立て続けに撃った。サプレッサーのくぐもった発射音の後で、二人ともその場に崩れ落ちた。この場所で声を出されては困るから手加減は出来ない。
飲み屋の従業員も居ないのが不思議だったが、まだ暴れている奴らを見物しているのかもしれない。やるべきことは終えたので速やかに撤収するべきだろう。出入り口の扉を少し開けて外を見ると、目の前に大勢の人間の背中が見えた。ここから仕掛けると何をしても気付かれそうだ。
「ミーシャ、俺も裏口から出てそっちに合流するから、もう少し待っててくれ」
「承知した。もう、5人も立っていないから急げ」
カウンターの横から伸びている奥の通路に入ってまっすぐ行くと、一人の男が右側の扉を開けて出てきたので、2発の銃弾を胴体に叩きこんだ。倒れた男が出てきた扉を覗くとトイレにつながっていたが、その奥の壁には扉が見えた。押し開けると裏の狭い路地につながっている。外に出て通りの方をみると腰を低くして、様子をうかがっているミーシャが見えた。
「ショーイ、お前はミーシャの所に行ってくれ。俺はここで騒ぎを起こしてから合流する」
「わかった」
ショーイが行ったのを確認して、俺はトイレに戻って発煙手榴弾を3個飲み屋の方向に投げ込んだ。白い煙が立ち上り始めるのをみてから、破砕手榴弾のピンを抜いて投げ込んで、裏口に外に向かって走り出した。
「大きな音がしたら、撃ち始めてくれ」
「承知した」
俺がトイレから路地に走り出たところで、飲み屋から破砕手榴弾の爆音が響き渡った。ミーシャが膝をついて路地の角から立て続けに撃っているのが後ろから見える。俺はミーシャの後ろまで行ってから、発煙手榴弾を装填した6連奏のグレネードランチャーを取り出して、上空に向けて連続で発射した。ポンポンと言う軽い音に続いて上空から通りの中心に発煙弾が降ってきて白い煙が立ち上って行く。
-何だ! 黒龍が燃えているぞ!
-足が、足が!動かねぇ! こいつらまだ何かしてくるぞ!
-おい! 地面が燃えだしているじゃねぇか!
アジトの中らも煙が出てきて、知らない間に足を撃ち抜かれた手下達は恐怖におののいている。そこへ空から降ってきた発煙弾で地面から煙が立ち上り始めて混乱に拍車がかかりやじ馬たちが一斉に逃げ始めた。
「よし、俺達も走って行こう」
「ここのお頭は居なかったのか?」
「いや、捕まえたけど魔法で消してある」
「そうか、わかった」
俺自身にも判らない説明でミーシャは納得してくれた。やじ馬たちに紛れて貧民街の出口に向かって走り続ける。貧民街を抜けると準備作業をした建築中の建物に4人で入って一休みした。
皆にペットボトルの水を渡して、これからの事を相談する。アジトに居たのは1時間ぐらいだったから時間は22時前だ。今日は一旦宿に帰って明日町から出るか、このまま強硬突破で町から出るか・・・。
「このまま、町を出ようと思うけど良いかな?」
「俺は構わないが、門番を倒さないと通れないぜ。夜は城門を閉めているはずだ」
倒すのも簡単だが、どの程度やるかが問題だ。あまりやりすぎるとこの国と俺との戦争になりかねない。
「入って来たところ以外にも門はあるんだよな?」
「ああ、入って来た北門以外に東と南に門がある」
「ここからなら、南門が近いのか?」
「そうだ、その先を右に曲がればすぐ南門だ」
「じゃあ、南門から出ることにしよう。リンネ、南門の近くでもう一回頼むよ」
「いいよ。今度は何をさせたいんだい?」
「走って門にぶつかってくれればいいよ」
「大勢でぶつかっても門は壊せないと思うよ」
「いや、一人、二人で良いよ」
「ふーん、何かまた考えがあるんだね」
大した考えがあるわけでは無かったが、貧民街の騒乱の拡大で門が壊れたことにしたかっただけだ。来るときに見た門は高さ5メートル程度の両開きの扉だが、木製で大した強度では無いように思っていた。
暗い夜道をショーイの案内で3分ほど歩くと、暗がりの先に城壁と門があるのがおぼろげに見えてきた。門の下には小屋があって、かがり火が焚かれているから夜も門番が居るのだろう。
俺は門から200メートルぐらい離れた場所で、ストレージから死体を3体出してリンネの前に並べた。
「二人で良いから、門に向かって全力でぶつからせてくれ」
「一人はどうするんだい?」
「そのままここに置いておく、証拠があった方が俺達は疑われにくいだろうからな」
「何だかよくわかんないけど、別にいいさ」
リンネが両手で死体の肩に手を置くと、二体のゾンビとなって起き上がり、猛然と門に向かって走り出した。俺はストレージから対戦車ロケット砲AT-4を取り出して、安全装置を解除した。レバーを引いて発射可能にしてから肩に担いで、ゾンビ達が走って行く方向にむけた。
-バン! バン! バン!
-おい、なんだお前らは!?
ゾンビ達が何度も繰り返して門にぶつかり始めると、小屋から兵士が出て来た。俺は兵士がゾンビに近寄る前にロケット砲の発射レバーを押した。発射の轟音が静かな町に響き渡り、ロケット弾がゾンビと門を爆音とともに吹き飛ばした。兵士達も爆風に巻き込まれて倒れているが、致命傷ではないはずだろう。
「よし、これで良いだろう。全部ゾンビの責任にして逃げることにしよう」
足元の死体はそのままにして、俺達は破壊された門をくぐって街の外の暗がりへと走り去った。
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