第157話 戦利品

■ムーアの南 森の中


 破壊した門を抜けて100メートルぐらい4人で走ってから、ピックアップトラックを呼び出した。ライトをハイビームにしてムーアから南に向かって、明かりの全くない街道を時速50kmで車を走らせる。


 途中で小さな村が2か所あったが通り過ぎて、1時間半走ったところで見つけた森の手前で車を降りた。森の奥に20分ほど徒歩で進んで行くと、キャンピングカーが出せる場所が見つかったので、今晩の野営地に決めた。


 時計を見ると既に日付が変わっている。アジトで回収した物の確認や確保したお頭への尋問は翌朝に回すことにして、今日の所は休むことにしよう。ちなみにお頭は光も音もない狭い空間に立たせたまま放置してある。無音の世界の恐怖と言うのがあるらしいから、朝起きた時の反応を楽しみにしていた。


「じゃあ、3人で適当にベッドを使って寝てくれ。俺は別の所で寝るから。それと、飲み物も適当にな」


 ペットボトルを10本ぐらいテーブルの上に並べてストレージの中に入った。先にシャワーを浴びて、火薬や発煙手榴弾の匂いを落としてから、ゆっくり湯船に浸かった。


 今日も長い一日になった。三夜連続で悪人達のアジトを襲撃するのはさすがに疲れた。今日も昼寝をしてなかったら、ここまで来れなかったと思う。ムーアからは80㎞ほど離れたので、馬で追われたとしても明日の朝に追いつかれることは無いだろう。それに、この世界で夜道を早い速度で移動するのは俺以外には難しい。


 三日間の電撃作戦で黒い死人達へのダメージは大きなものになったはずだ。森の国以外にある本拠地を一気に叩くことが出来た。後は確保したムーアのお頭が組織の首領かどうか、あるいは首領を知っているかを明日聞き出せば、次にやるべきことも見えてくるだろう。


 §


 翌朝は6時にスマホのアラームで起こされて、顔を洗ってキャンピングカーに戻ると3人とも既に起きていた。俺もそうだが、3人も遅くまで働いたから腹が減っていたのだろう。準備が面倒だったので、サンドイッチをたくさん並べて好きに食べてもらうことにした。


「サトル、今日はどうするんだ? セントレアへ戻るのか?」

「いや、ミーシャ達は昨日アジトで回収した物を調べてくれ。俺はお頭から情報を引き出すから」

「そうか、わかった。何を持って帰って来たのだ?」

「全部だ。あの部屋にあったものはすべて持って帰った」

「そうだぜ。俺が見ている前で棚や机が目の前から消えて行くんだ・・・、あれを全部持って来てるんだよな?」

「驚くことではない。サトルの魔法はそういうものなのだ」


 知り合って数カ月だが、ミーシャは俺がやることを不思議とは思わずに全てあるがままで受け入れてくれる。俺が出来ると言ったことは必ずできると信じてくれているようで、少し嬉しかった。


「沢山あるから、朝食が終わったら回収した物を外に並べて行く。3人で手分けして、黒い死人の首領か金の流れがわかるような情報を探してくれ。それと、森の国にも支部があるはずだからそこのアジトについても情報が無いか確認してくれ」

「ああ、承知した。お前はお頭を取り調べるのだな?」

「そのつもりだ」


 書棚がいくつもあり、本や帳面のようなものが並んでいたから、情報を整理するだけでも時間が掛かるだろう。俺はその時間を利用して、じっくりと話を聞くつもりだった。


「リンネ、変なことを聞くけど。リンネはずっとご飯食べなかったり、寝なかったりしたらどうなるの?」

「ふん、お腹はすくんだよ。だけど・・・、食べないからと言って痩せたり病気になったりはしないねぇ。寝ないってのは試してないから判らないけど、疲れるっていうのも無いから平気なんじゃないかい?」


 -死人を暗がりに立たせてもあまり効果は無かったのかもしれない。


「水の中で息が出来なくても苦しくなったりはしないんだよね?」

「さあ・・・ってあんた! さっきから何でそんなことを聞いてるんだい!?」

「いや、捕まえてきたお頭はリンネと同じ不死の人なんだよ。一度死んでいるはずだな」

「そうだったのかい!?」

「ああ、俺の魔法で運べたから間違いない。それで、どうやったら口を割らせることが出来るか考えてるんだよ」

「ふーん、なるほどねぇ」


 死人に対する拷問の仕方を同類に聞くのは申し訳なくなってきたので、リンネへのヒアリングはそのぐらいにしておいた。


 昼食後は森の中にブルーシートをたくさん敷いて、その上に回収した家具や書類をストレージから出していく。3部屋分の家具なのでかなりの分量だった。


「調べ終わった書類は緑の箱に入れてくれ、棚とか机とかは処分するから、書類は戻さなくていい。何か見つかったらこっちの赤い箱に入れてくれ」


 書類を整理するコンテナボックスを並べて、仕分けするように指示をしてからストレージに戻った。


 お頭が居る空間は俺がストレージ内で作る部屋の一つだから、サイズや環境は思うままにすることが出来る。今は狭い空間で寝ることも出来ず立ったままで暗闇の中に居る。10メートルぐらい上に穴を開けてライトの光を当てて上からのぞき見る。相手にとっては暗闇の中で上から光が差し込んだように見えたはずだ。


「おい!? ここは何処だ? お前は一体!?」


 残念ながら、お頭は泣き喚くことも無く元気な様子だった。


「俺はミスターXだ。お前の名前を言え」

「・・・」

「お前は既に死んでいるんだろ?だから、拷問はしない。しても無駄だからな。その代わり、この暗闇の中で、独りぼっちで永遠に過ごせばいいよ」

「ま、待て! お前は何故俺が死人だと!?」

「この暗い中に入れるのは死んでいる人間だけだからな。お前がここに入れた以上、お前は死人だよ」

「・・・」

「話したくないなら、しばらくそこに居てくれ。お前の時間は無限にある」

「・・・」


 今のところは何も話す気が無いようだ。ここは我慢比べで行く方が良いだろう。俺はミーシャ達の作業場所に戻って、まだ取り出していなかったお宝-床下で見つけた麻袋を取り出した。


 麻袋は全部で6個あったが、4個は金貨がぎっしり詰まっていた。袋の大きさはラインの領主が持っていたものの倍ぐらいあるだろうから、一袋で金貨2000枚、合計で金貨8000枚! って言われても金に興味は全然ない。だが、敵の資金を奪えたことは大きなダメージになるはずだ。組織を維持するには必ず金が必要になって来る。


 金よりも興味があったのは残っている麻袋だ、一つは持った瞬間に重さが感じられなかったし、外から見た時も凸凹していて、金貨と違う事は一目でわかっていた。


 一つ目の袋を開けて中の物をブルーシートに並べて行く。


 -精巧な彫刻が施された蝶番の付いている木箱

 -木でできた筒の中に丸めて入っている古めかしい紙

 -鍵のかかった大きな木箱

 -ボールのようなものが入っている巾着袋


 最後に取り出した巾着から確認することにして、縛ってある紐をほどいて中を見ると・・・袋の中には髑髏が入っていた。

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