第158話 火の国との関係

■セントレアの西 森の中


 サリナはセントレアの随分手前にあった森の中にピックアップトラックを隠すことに決めた。そこの森は木の間隔が離れているように見えたので、車で奥まで行けると思ったのだ。

 だが、実際に森に入るとピックアップトラックで入れたのは50メートルぐらいだったから、森の入り口から車が丸見えだった。


「お兄ちゃん、どうしようか? 違う場所に行った方が良いかな?」

「だが、他の場所でもそんなに変わらないだろう。サトル殿は他の奴にみつけられても構わないと言っていたから大丈夫だ。それよりも、セントレアに入るときにこの車に私たちが乗っていたことが判らないことが大事だと言っていただろう?」

「うん、でも。誰かが持って行ったりしないかな?」

「それは大丈夫だろう。この車はお前かサトル殿しか動かせないんだろ?」


 確かにお兄ちゃんの言う通りだけど、サトルの貸してくれた大事な車が人に触られたり壊されたりするのがサリナには気になっていた。


「じゃあ、このあたりの木を倒して隠してしまおうか?」

「なるほど、それはいい案かもしれないな。そうしよう」


 サリナはハンスと森の奥まで入ってから車に向かってロッドを構えた。車までの間に大きな木が20本ぐらい立っているから、これをあの車の上に倒して覆い隠してしまえば良いはずだ。木は大きいから、風は少しだけ強めにしてと・・・。


「じぇっと!」


 サリナの声と共にロッドから圧縮された空気が森の木に叩きつけられて、木を地面から引きはがしていった。木は土と一緒に巻き上げられて車の方に向かい・・・、車も木と一緒に吹き飛んで向こうに生えている木を何本かなぎ倒しながらようやく止まった。


「お兄ちゃん! どうしよう!? 車が!車がぁー!」

「サリナ・・・、心配するな。一緒にサトル殿に謝ってやるからな」

「本当!? でも、サトルは許してくれるかなぁ?」

「・・・」


 サリナはハンスの無言の返事でサトルに叱られるのは間違いない事を悟った。


■ムーアの南方にある森の中


 サトルは頭蓋骨が出てきても、なんとも思わなかった。死の神を信じているんだから、髑髏が一つや二つ入っていても違和感はない。


 頭蓋骨を脇に置いて、筒に入っていた紙を引っ張り出してみる。かなり古いもののようで色あせて変色しているが、紙質が分厚いので破れる恐れは無いようだ。50㎝四方ぐらいの紙の中央には六芒星が描かれていて、その下には文字が書いてあるのだが・・・


 -光はいずれ闇となり、闇はいずれ光となる。

 -生まれし者は死にいたり、死者もいずれ生を授かる。

 -我らの死をもって、再び※※※に生が得られんことを。


 さっぱり意味は分からないが何かの復活の呪文なのだろうか?再び生を得たい相手の名前の部分は見たことの無い文字か記号だった。この世界の文字は神の力で普通に読み書きできるのだが、読めないと言う事はこの世界の文字ではないのだろう。しかし、死人仲間のリンネだったら解読できるかもしれない。


「リンネ、この紙を見てくれよ」

「なんだい、えらく古い紙のようだね・・・。誰かを蘇らせたいんだろうけど、ここに書いてあるのは私にも読めないねぇ。ひょっとすると、文字じゃないのかもしれないよ」


 -そもそも文字ですらないのか・・・


「やっぱり、この頭蓋骨の人間を蘇らせたいのかな?」

「頭だけでかい? そうだとしたら、あたしの死人使いのやり方とは全然違うんだろうねぇ」

「ネフロスの神に願いを叶えてもらうためには自分の命を捧げる必要があるのか?」

「ああ、命だけでなく全てを捧げて願いをかなえてもらうのさ」


 現世なら悪魔との契約だな、魂を差し出す代わりに願いを叶えてもらう、ネフロスっていうのはやっぱり悪魔のような存在なんだろうか?


 残っている袋の中身の確認に戻って、小さい方の綺麗な木箱を開けてみた。中には宝石を並べるようなベルベットの生地の上に赤い石が二つ入っていた。赤い石は以前にも見た事があるのものと同じようだ。南の迷宮で燃えるライオンの額に埋め込まれていた石とよく似ている。ストレージから取り出して見比べたが、同じような色と大きさだ。そもそもの使い方が判らないから、お宝かどうかが疑問だが、大事に保管されていたのだから価値のあるものだろう。


 最後に残ったのは大きな木箱だったが、鍵がかかっているので後回しにした。壊して中を見るのは簡単だが、箱自体に価値があるかもしれない。なんとか壊さずに開ける方法があるはずだ。


 もう一つ残っていた小さめの麻袋に手を付けたが、中には小分けされた巾着袋に石がたくさん入っている。全部で50個ぐらいあるが、黄色や緑色の石だった。石の種類はサリナが持っているロッドに付いているのと同じだから聖教石だと思う。


 赤い聖教石は火の魔法だったから、黄色の聖教石は光の魔法? 緑の聖教石は木の魔法? いや、この世界にそんな魔法があるとは聞いていないが・・・。


「ショーイ、この聖教石が何かわかる?」


 ショーイの父親は教会の関係者だと言っていたから、ひょっとすると知っているかもしれない。呼ばれたショーイは読んでいた帳簿のようなものを持って俺のところに来た。


「この聖教石は昔の教会魔法士が持っていた物だろう」

「何で色が違うんだ?魔法の種類で違うのか?」

「そうじゃない。石の色は持っていた教会魔法士の魔法の強さだ。黄色より緑、更に青、赤と魔法力の強さで色が変化していくんだ」

「じゃあ、誰かが持っていたものをあいつらが手に入れたってことか?」

「そうだ、アジトの中に回状が置いてあった、聖教石を持って行くと金にしてくれるんだよ」

「何のために聖教石を集めているんだよ?」

「戦争の準備だろ。魔法士を集めて石を持たせれば強い魔法が使えるようになるからな。それに、これを見ろ。ここには傭兵を1000人集めて100日働かせる予定で金の計算をしていたようだ」


 ショーイが見せてくれた帳簿には兵1000人、銀貨4枚、100日、銀貨400,000枚(金貨4万)と書いてある。隠してあった金はそのための一部だったのだろう。俺が回収した金貨16,000枚でも足りなかったようだ。


「戦争っていう事は火の国と森の国の戦争だよな? なんで黒い死人が火の国の戦争に加担するんだ?」

「火の国とは裏でつながっているんだろうよ。マリアンヌ様の拉致にネフロスの信者が関係していたしな。火の国と黒い死人達がなんらかの形でつながっているのは間違いない」


 マフィアと国家が関係を持っているのか、現世の中南米辺りでも聞いたことがある話だ。だが、傭兵の金を暴力団側が出すとは思え無いから、軍資金は火の国が提供したのだろう。それとも、金以外の形で黒い死人達が恩恵を受けているのだろうか?


 考えても判ることは殆どなかった。やはり、確保したヤツの口を割らせるしかない。あいつが嫌がりそうなことを何かしないと・・・、痛みがダメでも大事にしている物があるかもしれないな。


 俺は頭蓋骨と汚い紙、そして開けてい無い木箱を眺めながら、どれが一番効果的かを考えていた。


「他には何か見つかったか?」

「今のところは、特にないが帳簿は古い記録が殆どだ。符号のようなもので書かれているから、はっきりと判らないが。人と仕事について書かれているはずだ」


 仕事の記録? 犯罪者がそんなものを残してどうするつもりだったんだろう?捕まった時に不利な・・・、捕まるつもりも無ければ、裁かれるつもりもない、火の国と繋がっているからだ。古い記録が多くあるのなら、火の国と黒い死人達の関係はかなり昔から続いているのは間違いない。


「ショーイ、ここからムーアを通らずに水の国へ抜ける道があるか?」

「街道をもう少し南へ下ると東に行く道がある。そこを通ればセントレアとバーンの間ぐらいに出るはずだが国境には関所がある」

「わかった、調べ物はそのぐらいにして、ここから引き上げよう」


 火の国と黒い死人達の関係が深いのであれば、この国に長居するのは危険だ。早めに脱出した方良い。関所の問題は行ってから考えれば何とでもなるはずだ。


 セントレアに一旦戻ってから、今後の事を考えるとしよう。それに、サリナ達の事も気になり始めていた。ハンスは直ぐに捕まるから、いかん、余計なフラグを・・・。

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