第198話Ⅱ-37 野戦 9
■森の国 西の砦 近郊の森
「それで、コイツを生け捕りにしてどうするつもりだったのですか?」
俺は巨大サンショウウオを近くから確認しているサリナママに目的を尋ねた。
「特には・・・、近くで確認したかったのです。私も闇の世界・・・、この世界とは別の世界がどのようなものかは判っていませんから・・・、ですが、見ても何かが判るものでもありませんね。もう、良いでしょう。それよりも、怪我人を早く治療した方が良いですね。あなたの持っている光のロッドを貸してもらえますか?」
「ええ、もちろん。これはサリナのですから」
俺はストレージから光のロッドを取り出して、サリナママに手渡した。ママさんはニッコリ笑ってロッドを天に向かって差し上げると、サリナの方を見て頷いてから空に向かって叫んだ。
「癒しの光を!」
大きな声と同時に暖かい空気がサリナママを中心に一気に広がって行くのがわかった。俺自身も朝から戦って疲れた体の中が柔らかい気で満たされて、疲れが抜けて行くのが感じられた。しばらくロッドを天に向かって上げたままにしていたがやがてゆっくりとロッドを降ろしてからサリナママは俺の方に振り返ったが、悲しそうな表情を浮かべていた。
「ロッドの力を借りてこのあたりの怪我人は治療が出来たと思います。ですが、多くの兵士達が既にこの魔物に食べられてしまったようです・・・、私の魔法も死んだ人間を生き返らせることは出来ません」
「このあたり・・・、一人ずつでなくても治療が出来るのですか?」
「ええ、それも修練次第ですね。ですが、ロッドが無ければ広い範囲は難しいでしょう。サリナなら、もっと広い範囲でもできるようになるはずですが、まだ今は無理だと思います」
-魔法恐るべし! だが、もう一つ気になることが・・・
「さっきの声『癒しの光!』というのは、ご先祖からの伝承ですか?」
「ええ、そうですよ。これもこの世界の言葉では無いのですが、私達の一族では治療の時にはこの言葉を使っています」
「サリナには教えていなかったのですか?」
「はい、この子には魔法を使わせないようにしていましたからね」
そうだった、なぜかサリナは魔法が出来ないように育てられていたんだった。しかし、癒しの光か・・・、俺はサリナに『ヒール』って教えたんだけど・・・マズイのか?
「言葉はそれ自体に意味があるわけではありません。魔法を発動させるときのキッカケやイメージを膨らませるための物ですから、ある意味何でも良いのですよ」
サリナママは俺の心を読んだかのように、笑顔でフォローしてくれた。
「さて、この後はどうしましょうか?この魔物は・・・」
「殺してから俺が預かっておきますが、せっかくなのでもう一つ魔法を見せてもらえませんか?」
「良いですよ。何の魔法でしょうか?」
「はい、雷の魔法があると思うのですが、それを使ってコイツにとどめを刺してもらえますか?」
俺は巨大サンショウウオにまだ見ぬ雷魔法の実験台にするお願いをしてみた。サリナママは笑顔を崩さずに、あっさりとうなずいた。
「わかりました、雷のロッドはサリナが持っているのですね?」
「うん、これがそうだよね? まだ、使ったことが無いの」
「これです。光と水の聖教石が・・・、サトルさんは雷がどうやってできるのか知っていますか?」
-雷? 急激に空気が冷やされたりすると雷雲が発生して、電気的なあふれたエネルギーが雷となって地上に・・・、なんかそんな感じかな?
「雷の雲から地上に向かって放たれるものですが、空が急激に冷やされると雷雲が発生しやすくなるはずです」
「なるほど・・・、実は私達には魔法の理屈は判らないのですよ。ですけど、この世界の魔法は神に祈るだけです。神が私の声を聴いて下されば、それが実現されます。今のサトルさんの話を聞いて、それを神様に祈れば願いをかなえてくれるはずです。ロッドに付いている聖教石は光と水・・・、そういう事ですね」
サリナママは自分で話して一人で納得したようだった。俺達をバギーと一緒に離れた場所まで下がらせてから、ロッドを天にかざした。何も声は発しなかったが、目を瞑るとすぐに上空に黒い雲が・・・、一気に大きく厚く雲がかかり辺りが暗くなった。その黒い雲を差していたロッドを地上の魔物に向けて鋭く振り下ろす!
-バシィーン!
ゴロゴロなどと言う音が無いまま、雷雲から稲光ともに激しい音が巨大サンショウウオに叩きつけられて、オオサンショウウオは光の中で短く震えるとすぐに動かなくなり、辺りには焦げ臭い匂いが広がった。
-スゲェ! 一発だ!
「この魔法はもう少し離れた場所で使う方が効果的なのでしょうね。もっとも、雷は見る人に畏怖を与えるでしょうから、違った効果もあると思います」
確かにママさんの言う通りだ。この距離ならさっきのカマイタチでも構わないし、むしろ雷魔法は手間がかかる。近接戦ではさっきのカマイタチを教えてもらう方が良いかもしれない。
俺は動かなくなった黒焦げの巨大サンショウウオに近づいて、アサルトライフルの銃弾を頭部にフルオートで叩き込んだ。完全に死んでいるかを確認したかったのだ。ピクリとも動かないことに安心してから、巨大な物体をストレージの中に収納した。時間のある時にもう少し詳しく調べてみるためと、ひょっとしてリンネが操れるかもしれないからだ。当面の敵を倒して、次の事を考えているとミーシャが近づいて来た。
「サトル、私は砦の兵達と一度合流したいのだが」
「ああ、じゃあ、ミーシャとサリナ達はここに砦の兵達を集めておいてくれよ。俺はショーイとリンネ達を連れて来るから」
「承知した。気を付けてな」
「うん、ありがとう」
「サリナ、あなたはサトルさんと一緒に行きなさい。ここは私とミーシャさんで面倒を見ておきます」
「うん、わかった!」
サリナは嬉しそうに俺のバギーに向かって歩いて来た。
「久しぶりだね、サトルの後ろに乗せてもらうのは」
「ああ、そうだな。最近はお前が運転する方が多いからな」
ママさんは、なぜサリナを俺と一緒に戻そうとしたんだろう? リカルドが向こうに居るからか?俺は少し疑問に思ったが、戦力的には問題ないと思ってサリナを後ろに乗せて、ショーイ達が居る場所へとバギーを走らせた。
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