第93話Ⅰ-93 未開地の迷宮
■未開地の迷宮(?)
岩場から500メートルほど下にあった平らな場所へキャンピングカーを呼び出して、二人にシャワーを浴びさせた後にシェルターへ移った。山地は森の中よりは恐竜が少ないが、少しの油断が死を招く。サリナには悪いが、あと一晩だけ我慢してもらおう。
晩御飯はチキン南蛮と山盛りキャベツに白米を出してやった。肉なら何でも良いようだ、タルタルソースを見たときは眉をひそめたが、少しすくって舐めてみた後はいつものように夢中になっていた。食後は昨日と同じシリーズで象が空を飛ぶアニメを二人に見せてやる間に、俺は一人で岩を粉砕する方法を調べていた。ダイナマイトで行こうと思っていたが、もう少し穏やかな物が見つかった。他にも必要な工具をそろえて、使用方法を事前に確認しておく。イメトレを兼ねて道後温泉の湯に入って手順を確認したが問題は無さそうだ。大きな岩の先に何があるのか? 楽しみになって来た・・・
§
翌朝は大きな足音に起こされることも無く、3人で寝た枕元に置いたスマホのアラームで6時に目が覚めた。トーストセットをゆっくり食べ、装備を整えてからドアを少し開けて外の様子を伺う。今日は何もいない、上を見上げると天気も快晴が続いているが風は昨日より強くなっている。
乾いた心地よい風を頬に受けながら岩場まで登った。準備にはそれなりに時間がかかる予定なので周囲の警戒も必要になってくる。
「この岩を砕くけど時間が掛かるから、周りを注意して・・・特に上に警戒してくれ。ミーシャの銃は大きいのと銃弾を置いておくから、相手に合わせて使い分けるように」
「判った、任せておけ」
ミーシャの側には50口径の対物ライフルと12.7mm弾が装填されたマガジンが5セット置いてある。
「サリナは?」
「お前も俺とミーシャの背中を守ってくれ。外に居る時は手加減なしで思いっきりぶっ飛ばせ!」
「わかった!思いっきりね!」
この娘は魔法を使うときには加減が無い方が楽しいようだ。魔法力が無尽蔵と言うのは恐ろしい、俺も魔法の練習は毎日続けているから随分とマシになったが、大きい火を連続で出すと体が一気にだるくなってくるのは変わらない。
後方を俺より強くなった二人に任せて現場仕事に着手する。まずは、破砕剤を入れるための穴を開ける必要がある。アルミの三脚に登って、発電機に繋いだハンマードリルで岩の上部に直径50mm程の穴を開けていく。少し抵抗があるが一度ドリルが噛み込むと岩を削りながら、どんどん奥に入っていく。岩は奥行きもあるので、穴は深くあけなければならない。アダプターを使って、1.7メートル奥までの穴を開けることが出来た。同じ要領で真下に穴を50cm間隔で6つ開けて、縦に黒い穴が綺麗に並んでいる出来栄えに満足した。
使おうとしている破砕剤は狭い空間で瞬間的に膨張することで岩を内部から砕くことができる。と書いてある。もちろん、使ったことは無いのだが、今回の目的には合っているはずだ。岩が大きすぎるので2回か3回やる必要があるかもしれない。それでも、ダイナマイトはやっぱり怖いので、このぐらいから挑戦してみたかった。
使い方はダイナマイトや指向性地雷と同じように、雷管をセットしてからケーブルを使って電気信号で破砕するものだ。理論上は電気が流れなければ破裂はしないのだろうが・・・、いつものようにビビリながらオレンジ色の筒になっている破砕剤に雷管を差し込んだ。上の穴から順番に破砕剤の筒を入れて、ドリルのアダプターを使いながら奥まで押し込んでいく。雷管に繋いだケーブルを延ばしていき、20メートルほど離れた木の陰にライオットシールドを立てて3人で隠れた。雷管のケーブルを点火装置に取り付けて赤いボタンを押すと、低い大きな破裂音と岩が崩れる音が響いて砂埃が舞い上がった。
成功? いや失敗!?
岩は俺がイメージした通りに、穴を開けた縦の列で二つに割れて両側に転がり落ちていたが、やはり奥行きが足りなかったようだ、まだ半分ぐらいの厚みが残っている。しかし、5メートルの岩が3メートルになったのだ、同じ手順でやれば後一回で何とかなるだろう。
サリナに足場に散らばった岩を風の魔法で吹き飛ばしてもらってから同じ作業を開始した。2回目の作業では、1回目よりも穴の数を二つ増やして破砕剤の装填が完了した。朝の作業開始から2時間ぐらいが経過しているから、この2回目で決めたい。3人で隠れて点火装置のボタンを押すと、1回目よりも大きな破裂音と共に岩が前方に転がり落ちてきた。砂埃を避けながら岩を見に行くと、砕かれた岩の向こうには暗い空間が広がっているのが見えている。よじ登る感じになるが人が通れる空間になった、いよいよ迷宮に入れるのだ。
荷物を片付けて、装備を洞窟仕様に変更する。ライトが付いたヘルメットとベストに換えて、俺は発炎筒やケミカルライトを取り出しやすい場所に入れる。ミーシャは5.56mm弾のアサルトライフルに変えてもらい、俺はサブマシンガンを手にした。
封印されていたこの迷宮には虫以外は居ないはず・・・、だが、備えあれば憂いなし。
俺、サリナ、ミーシャの順で割れた岩の間から洞窟に入っていく。洞窟の中は思ったより狭かった、岩が5メートルもあったからそのぐらいの天井高を予想していたが、2メートルほどしか無いようだ。幅も3メートルぐらいだろうか、少し先で左に曲がっているように見えた。嬉しいことに、壁を触ると入り口を塞いでいた岩とは違う凸凹した天然の岩で囲まれている。ここが天然の洞窟なら複雑な仕掛けは無いかもしれない。
ライトの明かりを頼りに左へ曲がっている通路へ慎重に進んでいくと突き当たりは壁のようになっていたが、上部では通路が続いているように見えた。アルミ梯子を取り出して高さ2メートルの壁を登ると、繋がっている通路の天井が1メートル足らずになって、立ったまま歩けなくなった。中腰でも歩きにくそうだったので、四つんばいで右に曲がっていく通路を20メートル進むと広い空間に繋がっていた。手と膝の汚れを払いながら立ち上がり、ライトで空間を照らしていく。広間は不規則だが円形に近い10畳ぐらいの空間だったが、入ってきた以外の場所に通路は見つからなかった
だが、広間の真ん中には何枚か重ねた板の上に見慣れた木箱が置いてある。
あっけないが、ここがゴールで良いのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます