第92話Ⅰ-92 未開地 その6
■未開地の山岳地帯
ジュラシック的な映画の中ではラプトルは共鳴する音か何かで意思疎通をして、集団で獲物を狩ることになっていた。目の前の奴らがそれと同じかはわからないが、俺達を10頭では倒せないと判断しているのは間違いない。そして、その判断は正しいようで正しくない。目の前に30頭以上がチョロチョロしているから、後ろや横を合わせれば100頭近いはずだが、俺達3人相手では・・・
「サリナ、100メートルぐらいの炎を出しっぱなしにして、近づけないようにしてくれ」
「任せて♪ ふぁいあーー!!」
荷台で重機関銃の横に立っているサリナはロッドから長い炎を放って横に振っていく、近づこうとする奴らは、炎に怯えて横にしか動けなくなった。その間に重機関銃の弾帯を交換して銃座に戻る。
「もういいぞ、後ろとミーシャのほうを頼む」
「はーい♪」
サリナの炎が消えて、車の右側から近寄ろうとしているやつらを23mm機関銃の連射でなぎ払う。対空は苦手だが、横への掃射は得意にしている。銃座を約90度横回転させる間に轟音を響き渡らせて200発放つと、一気に20頭ぐらいが肉片となって飛び散って行く、細い立ち木も倒れていくがお構い無しだ。当たらなかった幸運な奴らは一斉に逃げ始めた。
もう一度弾帯を付け替えて、車の後部へ銃口を向ける。
「ミーシャ、そっちもこれで倒すから、車の前をお願い!」
「承知した」
今度はピックアップトラックの後方から左側に銃口を回転させて、肉片の数を増やしていく。そもそもが飛行機や装甲車クラスを破壊する兵器だ、1メートルのデスハンターには威力がありすぎるから、当たった瞬間に体が引き裂かれて肉片がはじけ飛んで行く。弾帯を撃ちつくして前を見ると、ミーシャも少なくなった奴らを確実にしとめていて、サリナの炎は既にお休み中だった。
それでも、離れたところに何頭か残っているから、俺もアサルライフルに持ち替えて動きがあるヤツへ連射を繰り返していく。マガジンを4回ほど交換すると前方の掃討が終ったミーシャが参戦してくれて、あっという間に動く敵は居なくなった。
-うん、俺達の完勝だな。
デスハンターはティラノ系と違って集団で距離を狭めてから襲い掛かるので何とかなった。100頭が一斉に突っ込んでくれば流石に厳しかっただろう。その対策も無いことは無いが・・・、今日は使う必要が無かったと言うことだ。
「ミーシャはどうだった、何頭ぐらい倒したの?」
「50は行っていないだろう」
「そう・・・」
俺の機銃掃射と同じぐらいを1発ずつしとめたのか・・・、中々追いつかない。ミーシャに銃を与えてからは圧倒的に討伐数で負けているはずだ。もう少し頑張らないと、アシとメシだけの倉庫係になってしまう。
「サリナも頑張ったよね!?」
「ああ、お前の炎は凄いよ、あれがあるから安心して俺の魔法が使えるからな」
「そうだよね!頑張ったもん♪ でも、サトルのその魔法はちょっとうるさいの!」
確かにイヤーマフをつけていても、体に響くぐらいの音だからウルサイのは間違いない。
「仕方ないだろ、空を飛んでるヤツにはこのぐらい大きな音の魔法じゃないと届かないんだから」
「そっか、すごいよね!?あんな上を飛んでるところまで届くんだもん、サリナの魔法も届くようになるかな?」
-流石に、それは無理やろ!
「ああ、頑張ればいつか届くようになるよ。また練習しよう」
「うん、もっと頑張る!」
素直で良い娘だ、だが、頑張って届いたちゃったらどうしよう?高度300メートルまで届く火炎放射器・・・、サリナとは引き続き仲良くしておくことにしよう。
§
厄介な空の翼竜を事前に排除できたおかげで、ようやくピックアップトラックは山地の谷になっている部分へ到着した。地図では山地の中に迷宮の印が付いているが、見える範囲には高い塔等は無い。あたりは、低木と岩場が混在する山すそで、南には車でこれ以上進めそうに無い。
「サリナ、車を左に回して、ゆっくり進んでくれ」
「はーい♪」
念のため、車を転回させた場所に発炎筒を投げて目印にしておく。車はゆっくりと山地を右に見ながら進んで行くが、1km程進んでも何も見つけられなかった。ここはミーシャ先生の超人的能力を頼るべきか・・・、いや、理由無く確信を持てるサリナだな。
「サリナ、次の迷宮は何処にあると思う?」
「どうして、この先にあるんでしょ?」
「え!? お前はこの先にあるのを知っているのか?」
「変なの、サトルがこっちって言ったのに・・・」
確かにそうか、こいつは言われた通りに進んでいるだけだな。やはり、先生に・・・
「あそこでは無いのか?」
- はい、来ました!
俺はミーシャが指差した右前方を見るが、木が沢山生えている場所と大きな岩しか見えない。
「え、何処のこと?」
「あの岩だ、周りの土や岩と種類が違うだろうが」
「・・・」
-スンマセン、全く違いがわかりません。
「そうだね、確かに色がチョット違うかな。サリナ、あの岩の側まで進んだら車を止めてくれ」
「わかった!」
判ったような振りをして、もう一度岩を見るが周りとの違いは全然判らない。かなり大きな岩であるのは間違いない、高さは5メートルを超えていると思う。山裾が崖のようになっている場所に埋まるような形で・・・、なるほど入り口を塞いでいると言うことか!
サリナが車を止めると、荷台からミーシャと飛び降りて、周囲を警戒しながら岩の方に3人で進んで行く。傾斜がかなりきつくなった不安定な足場を、手も使いながら岩のある場所まで登って行った。
近くまで来ると、ミーシャの言っていたことがようやくわかった。この岩は、迷宮を作っている土壁と同じような物できている。土というと柔らかいイメージだが、コンクリート並みの固さがある。表面は凸凹して足元にくずれた小さな岩が沢山あるから、天然の岩のように見えたが、これも先の勇者達が作ったものかもしれない。大きさが5メートル四方はあるだろう、半分が斜面にめり込んでいるようになっている。
しかし、見えてない部分が地面に埋まっているから、もっと大きな塊なのかもしれない。こんな大きな物で塞いであると、この世界の人間ならどうやって動かすのだろうか?ピラミッド的な人海戦術か、あるいは魔法か・・・。魔法ならどうする?サリナの魔法でもこの岩は砕けないだろう。100回ぐらいやれば何とかなるかもしれないが・・・。うかつに砕くと中にお宝があれば一緒に吹っ飛ぶかもしれないし・・・。
よし!一晩考えて明日の朝どうするか決めよう。
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