第34話Ⅰ-34 迷宮の宝

■バーン南東の第一迷宮


意志の弱い俺は結局ハンスの話を聞くことになった。

聞く前から後悔している。


「ここからのお話はサトル殿とミーシャ殿を信頼してお話させていただきます。私がこのバーンにやってきたのは、お金を稼ぐためでもありますが、迷宮に隠されていると言う魔法具を見つけ出すためなのです」


ほら来た、魔法具ねぇ。お宝はそれだったか。


「サトル殿にお願いしたいのは、この迷宮にある魔法具を何とかして探し出して欲しいのです。サリナに聞きましたが、サトルさんは地下のハウンドバッド3体をお一人で倒されたとか。なにとぞ、そのお力で魔法具を探し出していただけないでしょうか?」


よし、話は一応聞いた。


「いえ、私には関係ない話なのでお断りします」


「サトル殿、これはドリーミア全体の未来に関わる話なのです、どうか最後まで私の話をお聞きください。封印された魔法具は300年前に魔竜を討伐した勇者達が作り出した魔法の武器といわれています。最近の魔獣の増加は魔竜の復活が近いことを意味しています。我々はなんとしても魔法具を見つけ出し、近く復活する魔竜を討伐しなければならないのです」


魔竜? 勇者? そんなものは俺の異世界には要らない・・・、だが、本当に魔竜というのがこの世界にいたら?


「魔法具を探すつもりはありませんが、に教えてください。魔竜って言うのが復活したらどうなるのですか?」


「このドリーミア全体が滅びるといわれています」


言い伝えの類か。だが、ここは異世界。本当だとしたら俺も滅びるのか?


「これもになんですけど、魔竜ってドラゴンのことですか?」


「ドラゴン?それは存じ上げませんが、大きな災厄をもたらす竜。前回の復活でも大勢の命が失われ、姿を見たもので生き残ったのは勇者達のみと記録されています」


記録?事実なのか?


「その記録は確かなのでしょうか?」


「私たち、そして各国の王は記録されている聖教典を信じています」


「私たちっていうのは?」


「昔の教会の教えである聖教典を信じている者たちです。このドリーミアは元々アシーネ神を信仰する聖教会が全てを動かす国でした。教会では聖教典により人のあり方、そして魔竜の脅威を伝えていたのですが、魔竜復活後の動乱に乗じて教会を分派した者たちがドリーミアを分かつ4つの国を起こしたのです」

「分派により協会は昔の力を失い、聖教典を信じて生活する者も今では少なくなりました。ですが、私たちは今でも聖教典の教えを信じて、来るべき魔竜の復活に備えようとしているのです」


リッグスから似た話を聞いたような気がするな。


「その魔法具?ですけど、必要なものなら何故封印したんですか?」


「それは、神の試練だといわれています。神の試練を乗り越えられなければ魔法具を扱う資格が無いと先の勇者達は考えたと」


ちょっと待てよ、その魔法具を俺が見つけると・・・


、私がその魔法具を見つければ私にその魔法具を扱う資格があると?」


「そうです、見つけたもの達に魔法具を扱う力、資格があるという事です」


「仮に、仮にの話ですけど、私が見つけても私はこの国の魔法は使えませんよ」


「それは、修練次第だと思います。神へ祈れば使えるはずです。無論、魔法力の大きさは人によって違います。私は獣人でほとんど魔法力はありませんが、修練と聖教石の力で魔法を使うことが出来ます」


魔法の練習をしろってことか。全く興味が沸かないな。


「やっぱり私には関係ない話ですね、私はこの国の魔法は使えませんから試練を乗り越えたとしても魔竜を討伐することが出来ませんからね」


「聖教典では勇者は一人ではありません、ですのでサトルさまに私とサリナを魔法具のある場所まで連れて行って頂きたいのです」


なるほど、それでこいつらに使う資格が与えられると。

どうにも都合の良い話に聞こえるな。


「いずれにせよ、私には・・・」


「サトル、私からも頼む。ハンスとサリナの願いを聞いてもらえないだろうか?」


何故にミーシャが?


「ミーシャも聖教典というのを信じているの?」


「聖教典ではないが、エルフにも魔竜復活の伝承はある。復活が近いと言うのも嘘ではないはずだ。お前の力を何とか貸して欲しいのだ。力を貸してくれるなら、私の命を差し出しても構わない」


それはズルイ! 命を差し出すって・・・、こっちが追い詰められたな。


「これも参考のために聞くのですが、魔法の武器ってどんなものですか?」


「伝説の武器は刀、槍、ロッドで雷や火炎を放つことができるといわれています」


雷、炎、射程距離が長いと厄介だ。

俺にとっては封印したままの方が良くないか? 

しかし、他のやつらに使われるのも危険・・・、俺が管理するのが一番安全かな。


「ところで、ハンスさんはもう歩いたりできるのですか?」


「はい、もう走っても大丈夫だと思います。サリナのおかげです、この子には魔法を使わないように厳しく言っていたのですが、いつの間にこれほどの魔法を・・・、」


獣人の顔色はわからないが、声を聞いている限り確かに元気になったようだ。

サリナは魔法を禁じられていたのか、勝手に強化してごめんなさい。


行くしか無さそうだ、何たってミーシャのお願いだからな。

だが、条件をつけることにしよう。


「判りました、いけるところまで迷宮を探索して見ましょう。ですが、二つ条件があります。

一つは危なくなったら、すぐにあきらめます。二つ目は、魔法具は魔竜が復活するまでは私が預かります。この二つの条件が飲めるなら一緒に行きましょう」


「サトル殿が魔法具を預かるのですか?しかし、それでは魔竜討伐が・・・」


「大丈夫!サトルは要る時には返してくれるから!」


「サリナ、お前はサトル殿をそこまで信用しているのか?」


「うん、お兄ちゃんと同じぐらい信じている!」


「ならば、サトル殿。私も信頼して魔法具をお預けすることにいたします」


この不思議ちゃんの勘を信じているのか?

確かに地下で兄を見つけた実績はあるものの、人を見る目があるとは思えないがな。

だが、条件を飲んでもらった以上、行くしかないか。


「わかりました、では、明日の朝から行って見ましょう。ハンスさん夕食の時に迷宮の情報を詳しく教えてください」


やっぱりこうなった。

聞く前からわかってた気がする。

勇者、魔竜、要らなくても居るなら仕方が無い。

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