第216話Ⅱ‐55 火の国統治問題1

■セントレア 大教会


 サリナママの容赦ない尋問でも、影使いの口を割らせることは出来なかった。ゲルドと言い、このリウという男と言い、幹部クラスは口が堅いようだ。尋問を打ち切り、リウは俺のストレージでお預かりとした。その後は捕らわれていた娘たちを2台のミニバンに乗せて、途中の炭焼き小屋で捕虜を解放してからセントレアの屋敷に戻ってきた。


 屋敷のユーリは寝たままだったので、イースタンに金貨を返してから俺はサリナとミーシャを連れてセントレア大教会にいる摂政マクギーに会いに行くことにした。前回はいきなり王様のところに連れて行かれたから、火の国をどうするのかが決まっていなかった。この国の№2にノンアポで訪問したが、待たされることもなく執務室へ通してもらえた


「丁度良い所へ来てくれた。私も会いたいと思っていたのだ」

「そうですか、何かあったのでしょうか?」


 ―俺を待っていた?嫌な予感しかしないな・・・。


「うむ、他でもない火の国のことだが、われらが新しい代官を派遣する準備をしている間に新しい王が即位したのだ」

「新しい王!? それは誰なのですか?」

「カーネギー王の妃が女王として即位されたのだ」


 即位・・・、そうか、当然と言えば当然だな。俺が勝手に前王を連れて行ったからと言って、俺に任命権があるというわけではないのだからな。火の国には火の国で次の王を考えるということだ。


「それで、さっそくその女王から書簡が届いている。今後のドリーミアについて、話し合いを行いたいのでドリーミア四王での会談を希望しているのだ。火の国としては、今後は戦を行わず友好的に他国と交流したいということが添えられていた」


 ―友好的ねぇ、あの国が? だが、女王がどんな人かによるか・・・


「仕方ないですねぇ、もう一度戦争して、女王を引きずり下ろすのも気が進みませんから、しばらく様子を見ましょう。でも、火の国には条件を出してもらえませんか?」

「条件? どのような条件なのだ?」

「まずは、獣人やエルフを自分たちと同じ人として扱うこと。それに、人の売り買いを禁じることです。買った人間も牢につなぐようにしてください。これは、火の国に限らずドリーミア全体の決まりとしてください」

「獣人、エルフの件と、人身売買の禁止か・・・、なるほど。ならば、それは自分の口で説明してくれ」

「自分の口で? 王様の会議で話し合いするのでしょう? その会議で?ですか?」

「そうだ、わが王と女王はサトル殿にもその場に出席してもらうと言っている。そして、その旨を書状で各国の王に知らせているところだ」


 ―あちゃー、何だかどんどん面倒くさい方向に・・・だけど・・・


「判りました。それで、会議はいつ開かれるんですか?」

「2週間後の予定だ。場所はこの大教会の広間を使う予定にしている。確定したら招待状を送るから、その招待状を持ってきてくれ」

「わかりました。それでその女王はどんな人なのですか?」

「カーネギー王よりもずいぶん若い後妻と聞いているが、詳しい情報は無い。あの国は内務大臣も替わり、話しが通じる人間がいなくなってしまった」

「そうか・・・、女王のところに預けた火の国の王たちは、もう流刑地に送られたでしょうか?」

「ああ、その件もあったな。その件で女王が時間のある時に王宮へ立ち寄るようにと言っている。王からはいつでも用がなくても寄ってくれとの言伝も預かっている・・・。それに、何かあれば私のところもいつ来てもらっても構わない」


 ―王宮にいつ行っても良いって、何だか急にVIP待遇になったな。


「ありがとうございます。良くしていただいて・・・」

「いや、サトル殿達のことを王と女王は全面的に信頼しろとのことだ。お前たちがこのドリーミアの行く末に大きく影響を与えるはずだと。ならば、私は王の命を実行するだけだ。本当に遠慮はいらんからな。気が付いたら何でも言ってきてくれ」

「はい・・・」


俺は目に見えないプレッシャーを感じながら、摂政の執務室を後にした。


■セントレア 王宮


 火の国の前王達がまだいれば、新しい女王の情報を聞き出したいと思って、マクギーのところからそのまま王宮に向かった。マクギーの言った通り、俺達は顔パスになっているようで、門番、衛兵ともに丁重に俺達を女王のところに案内してくれる。女王は今日も応接間で茶を飲みながら、静かに俺達を迎えてくれた。


「こんにちは、女王様」

「こんにちは、サトル殿、それに、サリナさん、ミーシャさんでしたね。イースタンの息子の件は大変でしたね」


 女王は笑顔を見せないが、俺達の近況も知っていてねぎらいの言葉をかけてくれた。


「ええ、ゆっくりしようと思っていたのですが、そうもいきませんでした」

「そうですね。ですが、無事に解放されたのでしょう?」

「無事・・・、いや、体は傷一つありませんが、ユーリは何かの術がかかっているようです」

「術? どのような状態なのですか?」


 俺は状態とママさんによる見立てを女王に伝えた。


「なるほど、マリアンヌが言う通りでしょうね。何かの薬か虫を使った術だと思いますが、術士を見つけなければ解決しないでしょう」

「黒い死人達の本拠地を探しているのですが、具体的な場所が分かりません。西の火山付近だということまでしか・・・、そこに行けば術士の情報も得られると思うのですが」

「あまり焦らない方が良いでしょう。一度に一つずつです。まずは、火の国の問題を片付けましょうか。まだ、カーネギー王達は地下に居ますから、あなたが聞きたいことを聞いてきなさい。終わったら、ここに戻ってきてください。二人はそれまで、ここで私とお茶を飲んで待っていましょうね」


 女王は何故か俺一人を地下に向かわせ、サリナ達と女子会を開くつもりのようだ。


 ―なんだ?女3人で俺の悪口でも言うつもりなのか?


 少し気になったが、言われるがままに地下へ衛兵と共に降りて、倉庫に閉じ込められている3人と対峙した。3人は食事を与えられ、きれいに整えられたベッドで不自由なく・・・、いや、手かせ足かせをつけておとなしくしていた。


「元気にしているか?」

「・・・」

「なんだ、元王様は俺とは話したくないのか? もう聞いたのか?火の国の新しい王について?」

「あ、新しい王? お前が王になるのか?」

「いや、違うよ。お前の奥さん?が新しい女王になったらしいよ」

「「「ま、まさか!?」」」


 火の国の王、大臣、将軍だった3人はそろって驚きの声を上げた。


「そんなバカなことがあるか!? わしに万一の場合は第一王子が即位するはずだ!」

「そう言われてもなぁ、俺も聞いただけだからな・・・。じゃあ、その奥さんはどんな人なんだ」

「イージスは・・・、その・・・。それよりも王子のエミリオはどうしているのだ!?」

「いやぁ、それは聞いてこなかったな。その王子が後継者だったのか・・・」


 何故、王位継承権的なものが変わってしまったのか俺にはわからなかったが、相続争いのようなことがあったのだろうか? いずれにせよ、書状の真偽を確認する必要があるようだ。


「そうだ、エミリオが正当な後継者だ。文武に優れ、皆から慕われている。親の私が言うのもなんだが、私よりも立派な王になれる器だ。近衛侍従は何をしておるのか!?」

「それで、イージスさんは女王になるはずでは無かったと。で、さっき言いにくそうにしていたが、イージスさんはどんな人なんだ?」

「イージスは・・・、貧民街の出だ。だが、わしがムーアの町で見染めて、側室にして、先の妃がなくなった後に正室になったのだが・・・、間違っても女王になど・・・」


 ―貧民街? あの黒い死人達のアジトがあったところだな。これはレントンに聞いた方がよさそうだな。


「頼む! わしの事はどうなっても構わんが、エミリオに罪は無いのだ。何とか助けてやってほしい」

「助ける? 何から助けるんだ? 別に俺はあんたの息子に何かしようとは思っていないよ」

「いや、そうではない。もし、イージスが女王になるというのが本当であれば、エミリオは捕えられたのだろう。ひょっとすると・・・」

「いやぁ、さすがにそれは俺の知ったことじゃないな。まあ、エミリオがどうなったかの情報が判れば、教えてやるぐらいのことはしてやるよ」


 元敵国の王子を助けてやるほど俺は優しくも暇でも無かった。何といっても、俺にはバケーションが待っているのだ。


 ―やっぱり海だな! ミーシャにも水着を着てもらって・・・、思いっきり楽しもう!

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