第172話Ⅱ-11 パパ奪還作戦 (2)

■火の国 王の別邸


 別邸の正門から100メートルぐらいの位置で、対戦車ロケット砲のAT-4を取り出して安全装置を解除した。後方に人が立っていないことに注意しながら、右肩にロケット砲を担いで照準を門と土壁の間に合わせて赤い発射ボタンを押した。


 静かな森に発射の轟音と命中した爆発音が響き渡り、吹き飛んだ正門と土壁から派手な砂埃が巻き上がった。門の後ろに居たやつらは無事では済まないはずだ。


 俺が撃ち終わると同時にショーイが走り出したので、慌ててアサルトライフルを抱えて後ろを追いかける。リンネはかなり遅れながらついて来るが放っておいた。何かあっても、もう一度死ぬことは無いのだからある意味無敵だ。


 先行するショーイは砂埃の中で敷地に突入して、立っている人間が居ないかを見まわしている。矢倉の下でふらついている兵士を二人見つけて、容赦なく刀で襲い掛かるのが見えた。兵士たちは爆音で方向感覚が判らないまま、ショーイの刀の餌食となった。敷地内には他にも6人の兵が倒れているが、立ち上がれそうな兵は一人もいなかった。


 屋敷の方から兵が3人出てきたのが見えたので、俺がアサルトライフルで連射してその場に倒すと、ショーイは矢倉の下の小屋へ突入した。俺は背後を警戒しながら小屋の中を覗くと2段ベッドがたくさん入っている兵舎のようなものだったが、中に残っている兵士は居なかった。


-これで5+11で16人倒した。あと10人ちょっとのはずだ・・・


 ショーイは小屋を出て屋敷の方へと走り出した。俺は屋敷の2階を警戒しながら後ろへ続いて行く。ショーイが屋敷の扉を開こうとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。ショーイを下がらせてアサルトライフルの5.56㎜弾をフルオートで扉の中央に叩きこんで粉砕する。少しだけ扉を引いた隙間にスタングレネード(音響閃光弾)を投げ込んで耳を塞いだ。


 扉の内側から激しい爆発音が響いたのを確認して扉を開けた。直ぐにショーイが走り込んで内側でふらつく兵士3人を立て続けに切り捨てた。


「おい、ショーイ! 何処に閉じ込められてるか聞いてから殺してくれ!」


 ショーイは片っ端から殺していくが、情報が無いまま突っ込むとろくなことにならない。


「ああ、そうだな。次は殺さないように注意するよ」


 淡泊なセリフを吐きながら振り向いたショーイと俺が入り込んだ玄関ホールは2階までの吹き抜けと階段がある広い空間だった。


「先に一階を抑えておこう」


 俺の指示にショーイは頷いて左に伸びている廊下の方へ小走りに進んで行った。廊下の両側に扉があったが両方とも閉まっている。ショーイは右の扉を開けて飛び込んだ。だが、誰もいなかったようで直ぐに出てきて、向かいの左側の扉を開けて入って行く。


「動くな! 抵抗しなければ命は助けてやる。ここに捕らわれている男は何処いる?」


 左側の部屋は使用人たちの控室兼作業場のような場所だっが、中には一人の兵と使用人が3人テーブルの後ろに隠れているのが見えた。


「賊の言うことなど聞けるか!」


 素直でなかった兵は剣を振りかぶって踏み込んできたが、剣がショーイに届く前に両腕を斬り落とされていた。


「ギャァ―!!」


 両腕から血を大量に流しながら男が床に両ひざをついて絶叫し始めた。


「お前達はこうなりたくないだろう? 捕らえられた男は何処だ?」


 後ろに隠れている使用人に声を掛けると一番若そうなメイドが答えてくれた。


「に、二階です! 階段を上がって左の突き当りのお部屋に居ます」

「どうもありがとう」


 礼を言わずに部屋を飛び出したショーイの代わりに俺が礼を言っておいた。玄関ホールに戻るとショーイは既に二階に到達し、玄関からはリンネがゆっくりと中に入ってきた。


「外の兵は起きてきていないか?」

「あたしが見た限りじゃあ、居なかったね」

「そうか」


 短く返事をしてショーイを追って階段を駆け上がった。2階の廊下には既に倒れた兵が二人いて、その向こうでショーイが突き当りの扉を開けようとしている。


「ショーイ! 気をつけろよ!」


 俺の注意を無視してショーイが扉を開けた瞬間に、内側から飛んできた矢がショーイの左肩を捉えた。


「クフッ!」


 短い苦鳴を漏らして、ショーイが後ずさりして来る。


 -だから言ったのに・・・


 ショーイを押しのけて部屋を覗くと次の矢を番えた弓兵が窓の下に見えた。直ぐにその兵の足元へアサルトライフルで銃弾を叩きこむ。


「ダァー!!」


 何か変な声でのたうち回るのを確認して、一旦扉を閉じた。


「クゥウー! ちくしょう! 俺としたことが・・・」


 ショーイは既に自分で肩に刺さった矢を抜いていたが、傷口からはかなり出血している。俺は右手を傷口にかざしながら光の神に祈りを捧げた。


-アシーネ様、矢が刺さる前の状態にお戻しください。


「ヒール!」


 手のひらから温かい空気が流れて行き、出血が止まって行くのが感じられた。


「そうか、サトルも治療魔法が使えたんだな・・・、助かったよ」

「サリナほどじゃないけどね。怪我ぐらいは治せるようになった。あんまり、一人で突っ走るなよ。それで、部屋にはサリナの父さんは居たのか?」

「いきなり矢が飛んできたから、まだ見ていない」


 確かにそりゃそうだ、開けた瞬間に矢が刺さってたからな。やはり、扉を開ける前にはもれなくスタングレネードが必要だ。用心はしすぎと言うことは無いのだ。


 ショーイを引き起こして、扉を開けてスタングレネードを投げ入れた。聞きなれた爆発音が部屋の内側から伝わってくる。直ぐに扉を開けてショーイが飛び込んで行く。少しは学習したかと思ったが、あまり動きに違いは感じられない。結局は猪突猛進型なのだろう。


 部屋の中では剣を持つ兵が4人と弓を持つ兵が二人いたが、全員ふらついてたのをショーイが容赦なく斬り倒していく。5秒と掛からずに部屋は制圧できたが、肝心のサリナパパは居なかった。左手にある扉に向かっていくショーイへもう一度声を掛ける。


「おい、扉を開けるな! 俺が目くらましを入れてやるまで待て!」


 ショーイは振り返って立ち止まり、不満そうな表情を浮かべている。残念ながら学習効果は殆どなかったようだ。毎度の手順で少し扉を開けてスタングレネードを投げ込んでから左側の部屋に入って行くと、中は広い寝室だった。ベッドと応接セットが置いてあり、ソファーに二人の男が耳を塞いで坐っている。


「リカルドさん、無事ですか!? それにお前は!」


 ショーイが見分けがついた一人はサリナパパのようだった。スタングレネードの爆音と閃光で暫くはふらつくだろうが、後遺症は無いはずだ。なんとか、無事に確保できたようだ。


 それで、二人のうちのどっちがパパで、ショーイの知っているもう一人は誰なんだ?

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