第218話Ⅱ‐57 海へ行こう!

■セントレアから南へ向かう街道


 念のため希望は聞いたのだが、海へのバケーションは全員参加希望となった。俺、サリナ、ミーシャ、リンネ、ハンス、ショーイ、ママさん、リカルド、それにエルとアナの総勢10名の大所帯だ。正直、リカルドが行くのは意外だったし、ママさんは喜ばなかった。ゆったり乗れる高級ミニバン2台に分乗して、いったん水の国で南に向かってから炎の国に入ることにした。


 女王に替わって入国制限がどうなったかわからないが、首都のムーアを避けて行った方が無難だという判断だ。セントレアから南に向かう途中のエドウィンを通り過ぎるときに、気になっていたことをハンスに聞いてみた。


「この町にサリナといたんだよね。サリナを火の国に渡そうとしたやつらってまだここにいるのか?」

「いえ、もういないはずです。炎の国へ逃げたと思います」

「そうなのか。ところで、旧教会の信者たちはどうやって連絡を取っているんだ?」

「それは・・・、一部の教会を通じてです。表立ってのやり取りは控えていますが、教会の中に志を同じにする者たちがおりますので、ほとんど口伝えで連絡します」

「ふーん。今はどのぐらいの人数がいるんだ?」

「どうでしょうか・・・、各地に散っていますから数百名というところでしょうか」


 ―古い教会の教え、魔竜や勇者を信じる人々・・・。


「その集まりは誰がリーダーなんだ?」

「今はリーダーがおりません。ですので、まとまった動きがほとんどできていないのです。それぞれ顔見知りや伝手つてを頼っているだけの状態です」


 ―すでに組織としては機能していないのか・・・、心変わりする奴がいても不思議ではない。


「ママさんは水の国の女王を教皇と呼んでたけど、女王も同じ志の人じゃないの?」

「それは・・・、私にはわかりません」


 古い教会の考え方がこの国にとって有益かどうかわからなかったが、ハンス達の活動=俺(?)の使命である魔竜討伐を本当にやるなら、仲間は多い方が良いだろう。機会があれば、女王様にも聞いてみることにしよう。


 車は順調に走り続け、昼前には火の国の国境へと近づいた。国境の手前で車を止めて検問を双眼鏡で覗いてみると、以前とおなじように兵士たちがしっかりと砦を守っている。さて、どうするべきか?


 選択肢は・・・

 1.道を外れて船を使って迂回する。

 2.車でそのまま通り抜ける。(止められても突破する)

 3.車から降りて、歩いて通り抜ける。


 人数が多いから船の乗り換えは面倒だし、歩いても止められると確実に戦闘になる気がするし、やっぱり2.車のままだな。


「サリナ、車のまま行くから俺についてこいよ。止められても通り抜けるからな」

「うん、わかった! 先に風で吹き飛ばしちゃおっか?」

「いや、先制攻撃はしないようにしよう。ミーシャ、念のため警戒しておいてくれ」

「承知した」


 俺の車を先頭に2台の車で進んでいくと、武装した兵士たちが砦から6人飛び出してきた。10メートルぐらい離れたところで車を止めて、窓から身を乗り出して兵士達に声をかける。助手席のミーシャはいつでも撃てるようにグロックを抜いてセーフティーを解除している。


「悪いけど、火の国の南のほうに行きたいからここを通してくれよ」

「お前たちは何者だ! それに、その、その四角い馬車はなんだ!」

「ああ、俺達か・・・、何も聞かずにって・・・言っても無理だよな。一応、勇者ご一行ということかな・・・、嫌だけど」


 最後のほうは自分に向けた愚痴が混じっていた。


「勇者? それは何だ? 何を言っているのだ?」


 話している男以外の兵士達はすぐに剣を抜ける体勢で、俺とのやり取りを聞いている。このままだと不本意ながら、強引に突破しなければならないが・・・。


「私は王宮にいたマリアンヌです。そこをどきなさい」


 いつの間にかサリナの車から降りてきたママさんが、俺の車の横に立っていた。


「マリアンヌ?王宮魔法士のマリアンヌか!? 王を連れ去った犯人だな! 貴様、よくもぬけぬけとこの国に戻ってきたな!」


 ママさんの名乗りで火に油を注いだようですが・・・、どうする気?


「そうです、ですが王都ムーアや王宮に用はありません。黙って通せば、この砦とあなたたちを吹き飛ばさないようにしてあげます。もう、新しい女王になったのでしょ?古い話は忘れて仲良くしてくださいな」

「何をふざけたことを!」


 兵士達はかなり頭に来たようだが、ママさんは知らん顔で言いたいことを言っている。だが兵士達は取り押さえる自信が無いのか、襲ってくる気配がなかった。


「火の国の女王からの手紙では、他国に戦は仕掛けずに友好的にするって書いてあったけど、お前たちは聞いていないのか?」

「女王からの・・・、確かに争いをするなと・・・」

「そうだろ? 俺達も戦いたくないんだよ。戦うのは簡単だけど、怪我人や死人がでるからね」


 もちろん、怪我するのは兵士達で俺達のつもりは無いのだが・・・


「わかった。通れ・・・」


 後ろにいた兵士達はざわついたが、話していた男が首を横に振ると剣を鞘に納めて道を開けてくれた。


「ありがとう! 女王にも君たちの働きを褒めておくからね、これからもその調子で頼むよ!」


 俺は精一杯明るく声をかけて、恨めしそうにこちらを見ている兵士達の間を通って火の国へと入った。


 ―新しい女王は本当に戦う気が無いのだろうか?善人か?


 途中の見晴らしのいい草原で遠足のようにマットを広げてランチをして、火の国の南にある巨大な森には15時前に着いた。森から先は広い道が無かった、というよりは人があまり通らないのだろう。雑草が伸び放題の荒れた道っぽいところがあるだけだった。ミニバンではこれ以上進めないところまで行って、4輪バギー3台に乗り換えた。俺、サリナ、ミーシャが運転をしている。そのまま日暮れまで走ったが、森を抜けることが出来なかったので、いつものように適当な空き地にキャンピングカーを2台出して野営することにした。


 これまた、いつものように焼肉パーティーをしたのだが、人数が多いからか、いつも以上にサリナは張り切っていた。特に怖い思いをしたエルとアナに甲斐甲斐しく肉を焼いてやっている。やはり、面倒を見る相手がいると振舞いも少し大人に感じる。俺もそうなのだろうか?サリナの世話をしてやることで成長しているのだろうか?


 間違いなく成長しているはずだ。この世界に来て数か月だが、今までの17年間とは全く違う意識で生活している。この世界ではすべてを自分の判断で決めて行かないといけない。決めたことが正しいか、正しくないかも誰にも聞くこともできないから、自分で考えることが本当に多くなっているのだ。それに、サリナだけじゃなくミーシャやみんなの安全も考えるから責任も重い。学校に行っても絶対に与えられない責任だから大変だが、その分得られる経験も多かったと思う。


 もちろん、神から多大な援助があるから生きていけるのは間違いない。手ぶらでここに来れば、1週間ぐらいで野垂れ死にしていても不思議じゃないからな・・・。だが、物だけあれば幸せというわけでもないのも良く分かった。独りぼっちよりも仲間と一緒に食事ができるのは幸せなことだ。


 みんなの食事を眺めながらこの世界のことも考えていた。俺の成長はこの国への想いに左右されると女王は言っていた。この世界の人たちが幸せになるには・・・、やはり戦争も犯罪も無く、そして衣食住が整っていることが基本だろう。幸せの基準は他にもあるだろうが、まずは基本的な生活が安心できなければ、その先も無いのだ。


 ―俺にできることは・・・。だが、その前にみんなの水着はどうしよう?

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