第87話Ⅰ-87 未開地 その1

■未開地の入り口


 黒の旅団にとって初の縄張りとなる未開地の入り口あたりで、遠征最初の二日間はキャンピングカーの中で過ごすこととなった。あたりの様子を見たかった訳ではない。この世界に来てからはじめての雨だったのだ。それもスコールと言うやつだろうか、大粒の雨が大地に叩きつけるように降り続き、水の無い荒地だったところに小さな川ができるほどの量が二日間降り続いていた。


 車の中なら濡れないから少し奥に進もうかとも思ったが、結局やめることにした。視界が悪い中で動くのはリスクが大きい。見えている未開地の森は低い木が多いが、白の旅団たちが縄張りとしていた森とは違って、木の密度も低いから車で移動することが出来そうだった。だが、下草が多く生えているので、魔獣たちが隠れるのにおあつらえ向きの環境でもあるのだ。


 双眼鏡で見ていると、デスハンターや見たことの無い四足の恐竜がたまに見つかる。未開地自体は広くないから、目指している最後の迷宮がある山地までは、車なら4時間で到着するだろう。もちろん途中で止らなければの話だ。雨がやめば一気に未開地を通過するべきか、それとも途中で野営すべきか・・・それが悩みどころだった。


 §


 3日目は前夜の内に雨がやんで、今までの雨が嘘のように快晴になった。地面がぬかるんでいる場所が多いので、サリナにはゆっくり走るように指示をして、いよいよ最後の迷宮に向かって車を走らせる。


 俺とミーシャの手元には7.62mmNATO弾が使えるセミオートの狙撃銃がある。途中で獲物を見つけたらもれなく撃っていく方針にしてある。未開地の恐竜に火力がどの程度通用するのかを確認しておきたかったのだ。戦わずに奥まで行ってから銃弾が通らないのは避けたい。時間は掛かるが、確実に倒しながら未開地の奥に進んで行くつもりだ。


 ミーシャはさっそく見つけたようだ、サリナに車を止めさせると、すぐにサプレッサーで押し殺された発射音が車内に4回響いた。


「何がいたの?」

「らぷと・・・デスハンターだな。4頭倒したが、残りは逃げていった」


 俺は左の助手席から、ミーシャは右の後部座席から両側で獲物を探すが、俺の視界にはターゲットが中々入ってこない。スマホとPC画面に毒された現代人の視力では、ハーフエルフに適うわけは無かった。それでも、ミーシャが車を止めるとたまに見つかる獲物に向かって狙撃銃で倒していく、練習の成果もあり500メートル圏内なら打率が4割ぐらいはあるはずだ。ミーシャはおそらく倍の射程で打率10割かもしれないが、比べても仕方が無い。


 俺が倒した獲物は全部4つ足で首の長いヤツだった、体長は5メートルほどで動きは遅いが長い首の先には大きな口に鋭利な歯が並んでいるのがスコープから見えていた。デスハンターも見つけていたのだが、動きが早くて仕留め損ねた。初物は念のために側まで行って確認すると、トカゲに似た種類だが固い鱗に覆われた体表にトカゲより長い足と長い首がついている。伸びた首の先は左右に3つずつ並んだ目の下にぞっとするような大きな口があった。獲物の部屋に入れておき、仮称:クビナガ大トカゲと命名した。


 俺が6匹、ミーシャがその10倍ほどの獲物を倒しながら2時間ぐらい進むと、未開地の中の小高い丘の上まで車が進んできたので、車を止めさせて未開地の奥へ双眼鏡を向けた。


「山の手前で飛んでいるのが翼竜だな」


 運転席と助手席の間に身を乗り出してきたミーシャの声で、双眼鏡を上に向けて探すと・・・、居た・・・、デカイ!

 距離が離れていて正確には測定できないが、翼を広げた状態で4メートルではないはずだ、倍はあるだろう。そうすると長いくちばしは2メートル? ダメだな、絶対に近寄らないようにしないといけないが、あの下を通らないと次ぎの迷宮にはたどり着けない。


「左の下の方には、大きいヤツが何頭もいるぞ。1kmも離れていないだろう」


 裸眼で次々と見つけてくれる声にあわせて双眼鏡を下に向ける。確かに居た、4つ足で動く小山のような背中には尖った背びれのような物が立っているからステゴザウルスか?確かに大きいが、それなら草食系だろう・・・違うな。あの口と牙で草食という事は無さそうだ。こちらを向いた口にはデスハンター並の鋭い歯並びと口の中に納まらない鋭い牙が下に向かって突き出していた。それでも足が短いので動き遅いだろうから、何とかなるような気がしている。


 偵察が終ったので、新しい馬車を投入することにした。サリナの足が届く範囲でチョイスしたおんぼろピックアップトラックだが、後部の荷台部分に重機関銃が搭載されている。テクニカルとかガンワゴンと呼ばれているもので、紛争地域の軍やゲリラ、麻薬組織なんかが使っている兵器と凶器の間ぐらいの乗り物だ。

 重機関銃はソ連製23mm口径の2連装になっていて、1分間に400発を発射することができる。車の進行方向には水平射撃が出来ないのが難点だが、破壊力は20メートル級の恐竜でも倒せると踏んでいる。狭い荷台にミーシャと二人で乗りむと、サリナの新しい馬車は丘を緩やかに下り始めた。


 サリナはくぼみや立ち木を縫うようにゆっくりと車を走らせてくれるが、それでも荷台で立っていると倒れそうになる。ミーシャは運転席の後部を掴んで前方を警戒してくれている。


「来るぞ!」


 ミーシャが左前方を指差してから、狙撃銃を構えてすぐに撃ち始めた。まだ距離は500メートル以上あるが、上から見ていたステゴサウルスもどきが低い木を押し分けながらこちらに迫ってくる。サリナが車を止めたが、角度が悪くて重機関銃が撃てない。


「車を右に回して!」

「わかった!」


 車の方向転換は荒地で練習済みだ、回せというと90度回転するようにサリナの体へしみこませてある。重機関銃の銃座に座って、安全ボタンを解除して銃身をステゴもどきに向けて回転させる。仰角を合わせ照準器越しにターゲットを頭の上辺りにして、発射レバーを短く絞った。


 小さな爆発が連続するような発射音が鳴り響き、ターゲットの後ろに生えていた木が吹っ飛んだ。仰角を調整しながら今度は顔の下辺りに狙いを付けて、もう一度発射レバーを短く絞る。発射音と巨大な空薬莢が荷台で飛び跳ねる音が響く中で、曳光弾を含んだ射線が縦にターゲットに吸い込まれていった。ステゴもどきは肉片を飛び散らせながら、膝を折って顔から地面に突っ込んで止った。


 しかし、倒れている位置は200メートルぐらいまで近寄られている。重機関銃は破壊力抜群だが、慣れていないこともあって、銃口を向けて狙いを付けるのには時間がかかるのが弱点だろう。それでも、400発/分の発射能力と23mm弾があれば距離を確保しながら大物を叩けるから、見つければこいつをまずは使うつもりだ。


 サリナに車を動かしてもらって、エモノの確認に行く。 全長は25メートル以上ある。背中に尖っているのは背びれと言うより、尖ったギヤの歯のようだった。足は2メートルぐらいだから、バランス的には短い足だが意外と接近されたことから見ても、走る速度も侮れないと言うことだ。口は俺達が3人入ってもお釣りがくるかもしれないサイズで、下に向けてセイウチのような牙が突き出している。間違いなく肉食系のはずだ。こいつもエモノの部屋に入れておくことにしよう。仮称:ステゴもどきと命名する。


 ミーシャとサリナは辺りを警戒してくれているが、近くに危険なヤツはいないようだ。車で移動していると、車より小さい奴らは逃げ出してくれる。出てくるのは大物だけと言うことだ。


そろそろ俺もいいところを見せないと、二人の奴隷になるかもしれないからな。

大物を連続でガンガン狩って行くつもりだ。

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