第287話Ⅱ-126 魔法力の強さ

■ ネフロス神殿の森


 大地は突然に跳ね上がった。体が一瞬にして宙に浮き、手にしていたアサルトライフルの銃口が空へ向いている。


 -何だ!?


 飛び上がった体を追いかけるようにしたから地面が迫ってくる。俺の体が落ちているのでは無い、地面がまだせり上がろうとしているのだ。


 -飛べ!


 頭の中でイメージすると、仰向けのまま体が上昇し始めた。ストレージから船を出して飛び乗り、船に乗ったまま上昇した。サリナはせり上がる大地の上で転がっているが、残りの3人は見えなかった。せり上がっている地面はテニスコートぐらいの大きさだったが、そのテニスコートの形が変形していくのが見えた。


 -あれは・・・、頭か!?


 高くなっていく地面は大地から作り上げられる巨大な土人形ゴーレムの一部だった。地面から首の部分だけ出ているとイースター島のモアイが巨大化したイメージだが、首から下も徐々に形を現わそうとしている。


「サリナ! こっちへ乗れ!」


 空飛ぶ船をサリナの高さに合わせて、船べりから右手を伸ばした。土人形ゴーレムの頭はグラグラと揺れていて、サリナはふらついていたが、何とか俺の手を両手で握りしめたので、全力で引っ張り上げた。


 -サリナ、お前重いぞ・・・。


 思ったより重かったサリナを乗せた後は船を上昇させて、少し離れた場所から土人形ゴーレムが見ていると、既に胸の下までが完成しつつあった。


「魔法でぶっ飛ばす?」

「いや、ママさん達がどこにいるか分からないから駄目だ」

「そっか・・・」


 サリナにそういったが、このまま巨大化するのを待つよりは先に攻撃したいと俺も思っていた。


「リンネは何処にいるか見えるか?」

「うーん、見えないなぁ・・・。あッ! お母さんがいた!」


 サリナが指さす方向を見ると、ママさんは土埃で汚れた服をはたきながら木の根元にもたれていた。すぐに船で横に行って乗ってもらうと顔をしかめている。


「どうしたんですか? 怪我でもしましたか?」

「ええ、足をひねりました。でもそれは魔法で治療したからどうでもいいのです。服が汚れたし、サングラスがどこかへ行きました。それに埃っぽいのがちょっとね・・・」


 ママさんは既に腰まで作られている座高が50メートルほどある土人形ゴーレム にはあまり興味が無いようで、お気に入りのサングラスが無くなったのが気に入らない。


「タロウさんとリンネは何処ですか?」

「さあ・・・、私たちは持ち上がる地面の境目に居たので3人とも遠くに飛ばされたんですよ。それよりも、あの土人形ゴーレムはどうするのですか?完成する前に破壊した方が良いでしょう?」

「ええ、そうですけど。二人がどこにいるか分からないから、迂闊に攻撃できません」

「大丈夫ですよ。リンネは死なないし、父は死んでも構わないですから」

「・・・」


 リンネはさておき、自分の父親に対して無茶苦茶なことを言っている。


「とりあえず、どのぐらいの魔法力か試してみましょう」

「えっ!? 何するんですか!?」

『水の神、ワテルよ! 我に力を!』


 ママさんは大きな声で神に祈りを捧げて右手を振り下ろした。右手の動きに合わせて頭上に突如現れた氷柱がまっすぐに土人形ゴーレムの頭部に向かって飛んで行った。氷柱は尖っていないが、直径1メートル、全長5メートルほどの質量を凄まじい速度で土人形の顔面に叩きつける。


 -キィーン!!


 激突した氷柱と土人形ゴーレムから金属がぶつかるような高い音が森の中に響き渡った。氷柱はそのまま地面に落ちて行ったが、土人形ゴーレムの顔には傷一つついていない。


「これは、大したものですね。私の魔法力を上回っています」

「どういうことですか?」

「土で氷よりも固い人形を作っていると言うことですよ。普通の魔法ぐらいでは破壊できないでしょうね。それに、あの大きさですから・・・」


 既に膝ぐらいまでが地面から立ち上がっている土人形ゴーレムは大きいと思っていた神殿の柱を見下ろす位置にその頭部がある。


 -全長100メートルぐらい? モビルスーツよりでかいな・・・。


 ママさんの魔法が通じない相手への戦い方を考えながら、リンネとタロウさんを森の上空から探すと離れた場所で横たわるリンネを見つけた。倒れているあたりは地面と一緒に崩れた木が横倒しになっている。


「おい! リンネ! どうした!?」


 死ぬはずのないリンネが倒れたままというのが不思議だったが、船を地面に下ろして駆け寄ると、か細い声が聞こえた。


「何だかねぇ、ここに居ると力が抜ける感じがするんだよ・・・」


 神殿を見た時から様子がおかしかったが、この場所が死人しびとであるリンネに影響を与えているのだろうか?


「とりあえず、船に乗ってくれ。おい、サリナ!」

「うん・・・」


 力の入らないリンネをサリナと二人で立ち上がらせて船に乗せると、船が揺れるほどの地響きが聞こえてきた。


 -グォーン! -グォーン! 


 土人形ゴーレムの方をみると、さっきまでは背が伸びるだけの人形だったが、今はこちらに向いて動き出している。慌てて、船を飛ばして離れた場所まで移動して、■ ネフロス神殿の森


大地は突然に跳ね上がった。体が一瞬にして宙に浮き、手にしていたアサルトライフルの銃口が空へ向いている。


-何だ!?


飛び上がった体を追いかけるようにしたから地面が迫ってくる。俺の体が落ちているのでは無い、地面がまだせり上がろうとしているのだ。


-飛べ!


頭の中でイメージすると、仰向けのまま体が上昇し始めた。ストレージから船を出して飛び乗り、船に乗ったままそのまま上昇した。サリナはせり上がる大地の上で転がっているが、残りの3人は見えなかった。せり上がっている地面はテニスコートぐらいの大きさだったが、そのテニスコートの形が変形していく。


-あれは・・・、頭か!?


高くなっていく地面は大地から作り上げられる巨大な土人形ゴーレムの一部だった。地面から首の部分だけ出ているとイースター島のモアイが巨大化したイメージだが、首から下も徐々に形を表そうとしている。


「サリナ! こっちへ乗れ!」


空飛ぶ船をサリナの高さに合わせて、船べりから右手を伸ばした。土人形ゴーレムの頭はグラグラと揺れていて、サリナはふらついていたが、何とか俺の手を両手で握りしめたので、全力で引っ張り上げた。


-サリナ、お前重いぞ・・・。


サリナを乗せた後は船を上昇させて、少し離れた場所から土人形ゴーレムが見ていると、既に胸の下までが完成しつつあった。


「魔法でぶっ飛ばす?」

「いや、ママさん達がどこにいるか分からないから駄目だ」

「そっか・・・」


サリナにそういったが、このまま巨大化するのを待つよりは先に攻撃したいと俺もおもっっていた。


「リンネは何処にいるか見えるか?」

「うーん、見えないなぁ・・・。あッ! お母さんがいた!」


サリナが指さす方向を見ると、ママさんは土埃で汚れた服をはたきながら木の根元にもたれていた。すぐに船で横に行って乗ってもらうと顔をしかめている。


「どうしたんですか? 怪我でもしましたか?」

「ええ、足をひねりました。でもそれは魔法で治療したからどうでもいいのです。服が汚れたし、埃っぽいのがちょっとね・・・」


ママさんは既に腰まで作られている座高が50メートルほどある土人形ゴーレム

にはあまり興味が無いようです。


「タロウさんとリンネは何処ですか?」

「さあ・・・、私たちは持ち上がる地面の境目に居たので3人とも遠くに飛ばされたんですよ。それよりも、あの土人形ゴーレムはどうするのですか?完成する前に破壊した方が良いでしょう?」

「ええ、そうですけど。二人がどこにいるか分からないから、迂闊に攻撃できません」

「大丈夫ですよ。リンネは死なないし、父は死んでも構わないですから」

「・・・」


リンネはさておき、自分の父親に対して無茶苦茶なことを言っている。


「とりあえず、どのぐらいの魔法力か試してみましょう」

「えっ!? 何するんですか!?」

『水の神、ワテルよ! 我に力を!』


ママさんは大きな声で神に祈りを捧げて右手を振り下ろした。右手の動きに合わせて頭上に突如現れた氷柱がまっすぐに土人形ゴーレムの頭部に向かって飛んで行った。氷柱は尖っていないが、直径1メートル、全長5メートルほどの質量が凄まじい速度で叩きつけられた。


-キィーン!!


激突した氷柱と土人形ゴーレムから金属がぶつかるような高い音が森の中に響き渡った。氷柱はそのまま地面に落ちて行ったが、土人形ゴーレムの顔には傷一つついていない。


「これは、大したものですね。私の魔法力を上回っています」

「どういうことですか?」

「土で氷よりも固い人形を作っていると言うことですよ。普通の魔法ぐらいでは破壊できないでしょうね。それに、あの大きさですから・・・」


既に膝ぐらいまでが地面から立ち上がっている土人形ゴーレムは大きいと思っていた神殿の柱を見下ろす位置にその頭部がある。


-全長100メートルぐらい? モビルスーツよりでかいな・・・。


ママさんの魔法が通じない相手への戦い方を考えながら、リンネとタロウさんを森の上空から探すと離れた場所で横たわるリンネを見つけた。倒れているあたりは地面と一緒に崩れた木が横倒しになっている。


「おい! リンネ! どうした!?」


死ぬはずのないリンネが倒れたままというのが不思議だったが、船を地面に下ろして駆け寄ると、か細い声が聞こえた。


「何だかねぇ、ここに居ると力が抜ける感じがするんだよ・・・」


神殿をみたときから様子がおかしかったが、この場所が死人しびとであるリンネに影響を与えているのだろうか?


「とりあえず、船に乗ってくれ。おい、サリナ!」

「うん・・・」


力の入らないリンネをサリナと二人で立ち上がらせて船に乗せると、船が揺れるほどの地響きが聞こえてきた。


-グォーン! -グォーン! 


土人形ゴーレムの方をみると、さっきまでは背が伸びるだけの人形だったが、今はこちらに向いて動き出している。慌てて、船を飛ばして離れた場所まで移動した。


「タロウさんが見つかりませんね・・・」

「先ほども言いましたが、気にしなくて良いです。、まあ、なんにせよ。あの人は簡単に死にませんから忘れましょう。それよりも、あれは何とかできるのですか?」


ママさんが指さすゴーレムは空を飛んで逃げる俺達に向かって走り出していた。父親に対してあまりにも薄情だが、すぐに対応が必要なのはその通りだった。


「逃げるだけなら簡単なんですけどね」


 逃げるわけにはいかない。ミーシャを助ける為には術を掛けた奴を見つけ出す必要があるのだ。すでに霧が晴れている森の中で円を描くように飛んで土人形ゴーレムとの距離を確保しながら戦術を考えた。画期的な案が・・・浮かばない、いつも通りにやるしかないだろう。


「サリナ、お前の全力で良いから。あいつを吹き飛ばしてくれ。船が神殿のところまで行ったら、魔法を撃つんだ」

「うん! わかった! 火の魔法かな?」

「いや、水のロッドを使え」

「任せて!」


神殿にはまだ用事が残っている、神殿に被害を与える訳にはいかないから射線には注意が必要だ。土は燃えないから火よりも質量のある水の方が破壊する効果はあるはずだった。俺が操る風を纏った船は自在に空を飛べるが、飛行機のように早い訳では無かった。それでも、自動車程度の速度は出ていたので、すぐに神殿を背に土人形ゴーレムを狙える位置まで回り込む。


サリナは俺が合図しなくても、タイミングを見てロッドを頭上に構えて目を瞑っている。ロッドを振り下ろすと同時に目を見開き、大きな声で叫んだ。


『おーたー!』


ロッドの先から細い水が・・・、なんであんなに細いんだ! 水魔法で迸った水はロッドと同じぐらいの太さのまま土人形を捉えた。胸を直撃した水流は土人形ゴーレムの胸を穿ち背中から突き抜けて行く。だが、土人形ゴーレムはこちらに向かう速度が全く落ちない、むしろ加速したかもしれない。


「あれ!? おかしい! ちゃんと練習したのに!」

「いや、それでいい!そのままロッドで水の方向を下に向けろ!」

「うん! えいッ!」


サリナがロッドを下に向けると、胸を穿った水流は土人形ゴーレムの上半身を縦に切り裂きながら、左足の根元を破壊した。片足を破壊された土人形ゴーレムは走る勢いのまま、轟音と土煙を上げながら森の中に倒れこむ。


「よし、やったか?」

「壊れましたがね・・・」

「ん!?」


片足を失った土人形ゴーレムは片手をついて上体を起こすと、砕かれた足に胴体を運び元通りに足を取り付けた。すぐに立ち上がって、もう一度こちらへ向かってくる。


「多少壊してもダメみたいですねぇ」

「サリナ! さっきみたいに細い魔法じゃなくて、今までみたいにお前の全力で吹き飛ばせ!」

「わかった!」


さっきの魔法は練習の成果なのだろう、ピンポイントに魔法の力を発揮できるのは大したものだが、この土人形ゴーレムは中途半端に壊しても修復能力がある。立ち上がれないようにするには、もっと大きな破壊力が必要だ。


素直なちびっ娘はさっきと同じようにロッドを構えると大きく息を吸い込んだ。


-水の神ワテル様、風の神ウィン様、お力を貸してください!


祈りとともに叫びながらロッドを振るう。


『じぇっとおーたー!!』


神の力とサリナの魔法力で空を飛ぶ船から爆発するような勢いの水が土人形ゴーレムと周辺の森に叩きつけられた。何もない空間からダムが決壊したほどの水量が高速で襲い掛かり土人形ゴーレムは弾き飛ばされて、胴体を二つに分かれた状態で水流の中を転がっている。土人形ゴーレムだけでなく、森の木や大地も削られて濁流となり数キロ先まで森林を破壊していく。


-うん、更にパワーアップしたな。もはや、魔法のレベルじゃない気がする。


「マリアンヌさん、どれだけ壊しても無駄ですかね?」

「そうではありません。魔法士の魔法力を削る効果はありますからね。壊し続ければ復活することは無いでしょう」


-なるほど、徹底的にしつこく壊せばよいと言うことだな。


「もう一回やるの?」

「いや、お前の魔法は温存しよう。疲れにくいやり方でやることにする」


船をゴーレムが転がって行った方向に進めて、ストレージから大量の爆薬類を取り出した。土人形ゴーレムはなんとかなりそうな気がしてきたが、もう一つ気がかりなことを思い出した。


-そういえば、タロウさんは?

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