第28話Ⅰ-28 迷宮前夜
■バーン南東の荒野
巨大なクレイジーライナーをストレージに格納した俺達は東へ向かって再出発した。
15時過ぎだったから、あと1時間足らずで目的地へ着くはずだ。
日が暮れるまでに移動は終えておきたい。
倒したライナーは見た目でいえば1トンぐらいありそうだった。
角を切り取ると言っていたが、剣ではとても貫けそうにない硬い皮膚に覆われている。
ミーシャが必要なら、電動のこぎりを使ってやれば、解体が楽になるかもしれない。
ミーシャはお金に困っているのだろうか?
あれだけの腕があれば魔獣討伐だけでも食べていけそうなものだが。
サリナと同じで言い難い理由があるのかもしれないな。
嫌われない程度に後で聞いてみよう。
目指す迷宮は東に見える山の方角のはずだが、少し前から進行方向に気になる物が見えるようになって来た。
塔? いや崖?
なにやら尖った岩の塊のようなものがある。
距離感的には迷宮があるぐらいのところだが、ひょっとするとあれが迷宮なのか?
ミーシャは迷宮についての情報は持っていなかった。
だが、旅団が迷宮を目指すのは宝探しが目的と聞いているそうだ。
宝? 金銀財宝なのだろうか?
目の前の岩の塊がどんどん大きくなってくる。
やはり、あれが迷宮のようだ、俺は勝手に地下ダンジョンをイメージしていたが、塔のような物なのかもしれない。
いずれにせよ、狭い場所での近接戦闘はリスクが高い、装備も含めて慎重に準備しよう。
俺は無傷で狩りをするのがポリシーだ。
■第一迷宮
塔のような岩の塊が迷宮で間違い無かった。
近くで見ると、蟻塚のような岩の塊だったが周囲は開けていて、魔獣は見える範囲には居ない。
岩の塊は建物でいえば10階建てぐらいはあるのかもしれない、ところどころに穴が空いていて、遠くから見たときは人工の塔のようにも見えた。
だが、近くから見た穴は不規則な形、大きさになっていて、天然であることがわかる。
地面に面した部分に大きな開口部が1箇所だけあったが、開口部は上ではなく下に向かって伸びている。
一旦下がってから登る構造なのだろうか?
開口部の前に旅団が野営を行ったと思われる跡もある。
焚き火をした跡がテニスコートぐらいの広さの四隅に残っていた。
獣を寄せ付けないために火で野営地を囲んだのだろう。
テントに使った木の残骸と真ん中付近でかまどの様に石を組んだ後も残っている。
ここに、サリナの兄さんもいたのか・・・
既に日がだいぶ傾いていたので、迷宮探索は明日にすることにしてキャンピングカーを野営地跡に出した。
サリナにはクレイモア地雷を車の周りに8箇所設置するように指示をした。
嫌がらずに直ぐに着手してくれる。
この辺りは現世の15歳女子と違って素直でよいところだ。
そういえば、怖い時以外はほとんど文句も言わない。
ミーシャにはサリナの護衛をお願いして、俺はストレージの中の整備を行うことにした。
明日は狭い空間で戦うことがあるかもしれないので、手榴弾とスタングレネード(閃光音響弾)、催涙弾を多めに準備する。
ヘッドライト、暗視装置等も稼動するかチェックしておく。
開口部があると言っても迷宮内の明るさはわからないから視野の確保は必須だ。
アサルトライフルとサブマシンガンもレーザーサイト付を用意する、暗闇でもピンポイントで狙えるようにしておきたかった。
思いつくことを色々やっておき、『武器の部屋』に取り出しやすく並べておいた。
どれだけ準備しても不安だったが、思いつくことがなくなったのでサリナたちの様子を見に行くと、既に地雷の設置は終っていた。
指示通りに点火ケーブルを左右の窓から4本ずつ引き込んでいる。
野営地にしていた場所の外側に向けて8個あれば、爆発音で魔獣よけぐらいにはなるだろう。
対応できない大型獣が出れば、ストレージから大型火器を出して対応すれば良い。
「サリナ、ミーシャさん、ありがとう。そろそろ食事にしようか」
もうすぐ日没だ、何も無ければ今日は早めに休んで日の出と共に迷宮へ入ってみよう。
「ミーシャさんは、何か食べたい物がありますか?」
「食べられれば何でも良いが・・・、できれば肉などがありがたいな」
「サリナは何か食べたい物ある?」
「最初の日のお肉!!」
最初の日・・・、焼肉のことか。
「じゃあ、焼肉だな。良い肉を仕入れてあげよう」
カセットコンロと網焼き器、取り皿、フォーク、焼肉のタレを車内のテーブルに用意する。
タブレットで高級焼肉店のメニューから絞りこみ、特上中心に色々な肉をストレージから取り出して、キッチンのカウンターに並べた。
飲み物はサリナにコーラを、ミーシャの前にはコップに入れた水、ウーロン茶、コーラを並べた。
「一口飲んで見てください、気に入った物を追加で出しますから」
ミーシャは三択からウーロン茶を選択した。
網が熱くなって来たので、肉を網全体に置いていった。
肉の焼ける音と匂いが車内に広がっていく。
「サリナは自分で取って、どんどん食べてね」
ミーシャには、焼けたころあいの肉をサトルが取り皿に移してやる。
「小さい皿のタレにつけて食べてみてください」
ミーシャは、フォークで器用に肉を刺して口に運んだ。
「・・・! これは、昨日とは違う甘くて辛い・・・何ともいえない美味さだ!」
「でしょ♪ サトルの食事は世界一だから!」
ミーシャも焼肉に取り付かれたようだ、取り分けた肉を遠慮なく食べ始めた。
「お肉も無限にありますから、遠慮なく食べてくださいね」
二人とも頷くが口いっぱいに肉を頬張っていて返事は無い。
サトルは自分も肉を食べながら、ストレージからご飯を呼び出した。
タレをつけた肉を頬張り、白米を箸でかき込む。
美味い! やっぱり肉と白米は最強だろう!
口の中で幸せをかみ締めている俺をサリナが、いやミーシャも見つめていた。
「二人もご飯が欲しいの?」
「はい!」
「私も試させて欲しいものだ、それとお前が使っている棒のような物はなんなのだ?」
「ああ、お箸のことですかね」
俺はご飯(中)を二つストレージから取り出してサリナに、ミーシャには箸と一緒に渡した。
「割り箸は割れている方を両側に引っ張って、二つにするんですよ」
ミーシャは二つに割った箸を両手に持って眺めている。
「なぜ、この二本の棒を使ってお前は色んな物を片手で挟めるのだ?」
俺はドキドキしながら、ミーシャの右手を取って箸の持ち方を教えた。
手先が器用なのか、言った通りに親指、人差し指、中指の三本の指をうまく使えるようになって肉をつかめるようになった。
「すごいですね、覚えが早いですよ」
「そうなのか、少し変な感じはするが、挟めると言うのも便利なのだな」
「ええ、スープをすくったりは出来ませんけどね、ほとんどのものはお箸で食べることが出来ますよ」
「サリナも!」
俺は二人目の子供に箸の使い方を教えながら、ミーシャにきわどい質問をしてみることにした。
「ところで、ミーシャさんって何歳なんですか?」
「私は16歳だ。お前は何歳なんだ?」
- あれ? 俺より年下? それともエルフ年齢?
「僕は17歳です、ハーフエルフって何百歳も生きる種族なんですか?」
「いや、人より少し長い程度だな、120歳まで生きれば長命だろう」
「ってことは俺より年下ってことですか?」
「そうなるが、何か問題でもあるのか?」
- いや、こっちがずっと敬語を使ってたやん。損したわ。
「ああ、そうなの。いや、年上だと思って喋り方に気を使ってたんだけど」
「そうなのか? そんな物は不要だ、長幼などに左右される必要は無いぞ」
- それはアンタらの文化ですわ。
「じゃあ、これからはミーシャでいいよね」
「無論だ、私もサトルと呼ばせてもらう」
「ミーシャはお金を稼ぐためにバーンに来たの?」
「そうだ、事情があってまとまった金を持って行きたい場所があるのだ」
「どのぐらいのお金が必要なのかな?」
「そうだな・・・、金貨1000枚は必要だ」
「じゃあ、クレイジーライナーなら10匹かな?」
「そう・・・だが、あれは本来は人が一人で倒せるような物ではない。落とし穴などを作って、大規模な人数で討伐する物だ。サトルのあれは、なんと言うか、かなりおかしいのだ」
「そう、サトルの魔法はおかしい! 人のできることじゃないの!」
確かにそうだろう、他に出来る人が居たら困る。
そんなヤツが居ないことを前提にここに来たのだから。
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