第296話Ⅱ-135 神殿の洞窟 1

■神殿上部の洞窟


 -魔法に頼らずに戦うためには・・・火薬の量で勝負だ!


 普段からストレージの中の銃弾は必要以上に置いてあるつもりだが、念のために整理してサリナ達にも手伝わせてグレネードランチャーやアサルトライフルのマガジンへ銃弾を装填してから、二人の装備を整えることにした。


 二人にはコンバットスーツにタクティカルベスト、ヘルメット、ゴーグル等を装着させて胸と頭にはフラッシュライトも取り付けた。暗視ゴーグルで行こうかとも思ったのだが、視界が狭くなる気がしたので、照明を増やしていきながら慎重に進むことにした。


 武器はグロックを2丁ずつ渡して、予備のマガジンを二本と手榴弾も4個ベストに入れて置いた。ママさんが希望した“剣”はお飾りで無いのが中々見つからなかったが、東南アジアの軍隊で支給されている“サーベル”型の物で我慢してもらった。試しに大根を切ってもらったが、綺麗に切断で来たところを見ると人間相手でも役立つはずだ。


 それと耳の保護のためにヘッドホン型の無線をヘルメットの上から装着することにした。会話は全てマイクとヘッドホンを通じて行うつもりだった。二人にポリカ―ポネートの鎮圧用楯を渡すと一通りの装備が整った。


「じゃあ、奥に進もう。俺、サリナ、マリアンヌさんの順番で。後ろを特に注意すること。良いか?」

「大丈夫!」


 サリナから元気な声とママさんから頷きが返って来たのを見て、俺は手榴弾のピンを抜いて洞窟の奥へと投げ込んでからジュラルミンの盾の影へと隠れた。


 -1.2.3.ドゥオーン!!


 狭い空間に爆音と爆風が吹き荒れる。砂埃が落ち着くのを待つ間に携帯型のLEDカンテラを壁際に並べて置く。視界が確保されたところで30メートル程進んで、もう一度洞窟の奥に向かって手榴弾を投げ込む。すぐに盾に隠れてやり過ごしてからカンテラを・・・。俺は敵が居るかいないかを確認する代わりに手榴弾を使っていくことにした。万一、落とし穴などの仕掛けがあっても手榴弾で破壊するか起動させることが出来るだろう。


 -念には念を・・・、慎重に・・・。


 LEDカンテラも5つ並べると高い天井が見えるほどの輝度で周囲を照らしてくれた。安全と視界の確保を行いつつ慎重に進んで行くが、俺の慎重さの成果が発揮できないまま安全に通路を100メートル程進むと二股になっている場所にぶつかった。左は下り、右は上りという感じだ。


「サトル。右だよ!」

「なんでだ?」

「なんとなく!」

「・・・」


 何の根拠も無く自信満々のちびっ娘の言うことに従って、右の通路に向かって手榴弾を投げ込んだ。爆音後に慎重に右の通路に近づくと・・・落とし穴だ。さっきまであった床が無くなり、底が見えないほど深い穴が見えている。


「右は違ったかな・・・」

「違ったな」


 サリナの勘とは逆の左通路を手榴弾&GOで200メートル程進むと暗い大きな空間へと通じた。アサルトライフルに付けたフラッシュライトの明かりを向けるが天井や向こうの壁がぼんやりとしか確認できない。


「広い場所だな。何があっても不思議じゃない」

「何か居るかな?」

「さあ、何が居るとしてもやることは同じだからな。投げる数が増えるだけ」

「そうだね。サリナも手伝おうか?」

「ああ、練習のためにやっておくか?」

「うん! やってみる!」

「できるだけ遠くに飛ばす感じでやってみろ」

「少し上向きだよね?」

「そうだ」


 6連式のグレネードランチャーを受け取ったサリナは斜め上に向けて構えている。後ろにいるママさんは今まで通ってきた方向から誰も来ないことをちゃんと見張ってくれていた。俺達が通った印にLEDランタンの明かりがはっきりと見えている。


「よし、左右にばらまく感じで3つ撃ってみろ」

「うん!」


 サリナは俺が立てたジュラルミンの盾の影から少し出てランチャーの引き金を引いた。


 -シュポーン!-シュポーン!-シュポーン! 


 軽い発射音が連続して擲弾てきだんが暗い部屋の向こう側へと飛んで行った。ヘッドホンをしているために床に落ちた音は聞き取れなかったが、サリナと楯のうしろにかくれると連続した爆発音と激しい振動が伝わって来た。


「もう大丈夫かな?」

「いや、まだまだだ。もう少し近くにも投げておかないとな」


 心配性の俺は部屋の広さに対して火薬の量が足りないと思っていたので、サリナに楯をもたせて追加で手榴弾を3発×2回投げ込んで様子を見ることにした。周囲は死臭と火薬のにおいが混じる砂埃に覆われてほとんど何も見えないが、俺達のつけているライトに映る範囲で動くものは何もないようだった。


 砂埃が落ち着いたところで中の最終確認をするために大き目のフラッシュライトをラジコンカーにダクトテープで固定させて走らせた。部屋は向こう側まで50メートル程ある円形で、手榴弾で多少えぐれた部分はあるが落とし穴等の仕掛けは無いことが判った・・・が、部屋のど真ん中に何かがある。フラッシュライトでは全体像がつかめないが、丸い台のような物で高さは1メートルぐらいに見えた。


 発電機と投光器を出すのが面倒だったので、3輪バイクを取り出してヘッドライトの明かりで台のようなものを照らして確認した。


「あれは・・・」

「何かな? テーブルじゃないよね。上が平らじゃないもんね」

「うーん・・・、大きさが変だけど、あれは亀だな」

「亀? 川とかに居るのだよね?」

「ああ・・・」


 ライトに浮かび上がっていたのはどう見ても亀の甲羅にしか見えないものだった。足は出ていないが、甲羅の下の部分には少し色の違うところがあるから中に引っ込めているのだろう。既に死んでいる甲羅の可能性もあるが、生きているとしたら手榴弾程度ではビクともしないということだ。


 -全長4メートルの亀か・・・、何の武器で行くかだな。


 動かない相手でも容赦なく破壊するのが基本方針だ。ストレージから12.7㎜弾を発射できるブローニング重機関銃を取り出して地面にセットした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る