第73話Ⅰ-73 第4迷宮攻略 後編
■第4迷宮内部
先人の勇者の想いはさておき、汚れた布の下にあるお宝にはもちろん興味がある。二人も布を早くめくれと目で訴えているが、ここは効果音を入れてやろう。スマホでドラムロールの効果音を入れた瞬間に二人は後ずさったが、無視して最後は自分で叫びながら布をめくる
「ジャ、ジャーン!!」
布から出てきたのは地味な槍だった。炎の槍と言うものだろう。木製の柄に黒光りする鋭い穂先が取り付けられ、反対側には金属製の石突が突いている。残念ながらこれも神の拳とは異なる物だ。
「炎の槍だよな」
「ああ、そうだろう。神の拳ではないな・・・」
そうなると、ハンス達が必要としていた魔法具はこれでほぼ揃ったのか?後は・・・、雷があるって言っていたか?この迷宮にはまだ未探索エリアが残っているから、ひょっとすると他にもあるかもしれない。残りを潰していこう。だが、この槍の穂先は黒っぽいが、ライトの光を綺麗に反射して輝いている。せっかくだチョット試してみるか・・・。
「サリナ、この槍から炎を出すのはグレン様にお願いすれば出るのかな?」
「うん、そうだよ。炎なら同じはず!」
ちびっ娘の言う事を信じて、俺は神様にお願いしてみることにした。
-炎の神グレン様、槍の穂先に炎の力を与えてください。
「ファイア!」
サリナと同じ合言葉を唱えた瞬間に、槍の穂先が炎に包まれた!
「サトルもできた! 凄い!スゴイ!」
出来た俺自身が一番驚いたが、槍の穂先の炎は勢い良く燃えている。穂先を壁のほうに向けて振っても炎は消えない。燃え続けろと祈った覚えは無いが、穂先自体が燃えている感じだ。
「サリナ、槍の炎はどうやったら消えるんだ?」
「サリナは知らなーい、祈るのをやめたら消えるんじゃない?」
既に祈ってはいないのだが・・・、逆か!消えるように祈れば消えるんじゃないか?
-グレン様、ありがとうございました。槍の炎を消してください。
心の中の祈りで穂先の炎はすぐに消えた・・・、これで良いの!?いまだにしっくり来ない。ゲームやアニメの知識に支配されている俺としては、魔道書、魔法陣、呪文詠唱、修行などが無く祈りだけで魔法が発動するってのが納得できないのだ。それでも、出来ちゃってる以上はそう言うことなのだろう。この世界には魔法を叶える神が居る。何とか割り切っていくしかないな。
炎の槍と包んであった布切れをストレージに収納して、来た通路を戻ることにした。残りは3つの横穴があるから、他のお宝が残っているかもしれない。この迷宮は島の下に作られているだけで、今のところは深い階層が無い。魔獣も蛇以外がいなければたいした事は・・・、余計なことを考えてしまったようだ。明るい日差しが差し込む迷宮の中心部には、うごめく影が既に見えていた。
通路を進むのを止めて、姿勢を低くして様子を伺うと会いたくないやつ-ラプトル-だった。3匹ぐらいが日差しの中でチョロチョロ動いている。この通路は一本道だから、背後は安全だが、手元のサブマシンガンの4.6mm弾では威力が弱すぎるだろう。ストレージにある7.62mm弾のアサルトライフルに持ち替えた。後ろのサリナも使って、一気に殲滅するプランで行くことにする。
「サリナ、今度は思いっきり風出していいから、あそこにいるやつらを炎でふっ飛ばしてくれ。風多めにって風の神様に祈ってみろ」
「風多め・・・、風多めね! わかった! 風多めのふぁいあで頑張る!」
通路の出口まで3メートル位のところで、1匹が俺と目があった。俺は出口の手前まで進みながらフルオートで銃弾をラプトルの顔のあたりに全弾叩き込んだ。
「サリナ、今だ!ファイアでぶっ飛ばせ!」
マガジン交換する間の安全を確保するために、サリナの魔法で援護してもらうつもりでサリナを呼んだ。俺の横に来たサリナは炎のロッドを迷宮内のラプトルに向けて叫ぶ。
「ふぁいあ!」
ロッドの先から突風となった炎がラプトルに叩きつけられて、ラプトルの胴体を引きちぎりながら吹っ飛ばした。炎の風がぶつかる向かい側の土壁も
「サリナ、止めろ!力強すぎ!!」
「え!?どうして?まだいるから、これを焼くまで待ってよ!」
そういいながら、そのまま二匹目のラプトルに胴体を引き裂く風をぶつけて吹っ飛ばした。
「もう大丈夫!全部やっつけたから!サリナは凄いでしょ♪」
「凄い、お前は確かに凄いが、凄すぎるだろう!」
「なんで!?サトルの言った通りにしたのに、何で怒るの!?ちゃんとやったのに・・・」
強く言い過ぎたようだ、ちびっ娘の目がうるうるしている。しかし、この世界の魔法では戦えなかったのでは無かったのか?こいつの魔法はいつの間にか恐ろしい破壊力になっている。
「怒ってないよ。お前の魔法が凄すぎて、驚いただけだ。だけど、迷宮の壁まで壊したら、俺達が生き埋めになるかもしれないだろう?加減を覚えないとみんな死んでしまうぞ」
「サトルは怒ってないの?」
「怒ってないよ、サリナはちゃんと出来てるからな。次はもう少し勢いを抑えてやってくれ」
「サリナはちゃんとできるから大丈夫!次は風を弱くしてやってみるね♪」
娘の機嫌が直ったので良しとする。問題は目の前の奴らが何処から出てきたかだが、池を泳ぎ、3メートルの土壁を跳び越えてきたとは思えない。未探索通路のどこかが地下で陸地まで繋がっているのだろう。残りの探索は非常に危険になったが、お宝が残っている可能性がある以上は諦めたくも無い・・・、もうチョットだけ頑張ってみるか。
「ミーシャ、右の通路に入るから、俺が呼ぶまではさっきのが入ってこない様に入り口を守って」
「わかった、お前達の背中は任せておけ」
男前のミーシャ様の返事を合図に隣の通路を覗いて、通路へ踏み込んで行く。ミーシャも通路に入ってから外へ銃口を向けて背後を警戒してくれた。入った通路は最初に入った通路と同じで生き残りの蛇が地上を這い回っている。アサルトライフルで短く連射して切り裂きながら、奥へ進んで行くと通路は左に曲がっていた。
後ろのミーシャを呼び寄せてから、曲がり角の先を覗くと目の前にでっかい口が見えた。反射的にアサルトライフルでそいつの喉元を押し上げながらトリガーを引絞った。7.62mm弾30発が喉元から背中に突き抜けて血しぶきが飛び散る。だが、もう一匹が倒れたヤツの向こうから来た。マガジン交換をして倒れたラプトルの陰から腹に向けて連射する。恐竜相手でも7.62mmNATO弾なら十分に効果があるようだ。内臓が引き裂かれ血まみれになって前のめりに倒れてくる。
襲ってきたラプトルは近くで見ると通路を何とか通り抜けられるサイズだった。俺達が進むのに邪魔になるので、ストレージに二匹とも入れて通路を奥に進んでいく。通路は残念ながらすぐに左に曲がっていた。角から覗くとラプトルは居なかったが、遠くに通路の出口が見える。また、振り出しだ。だが、残りの横穴はひとつで、その通路からラプトルが沸いて来ているのは間違いないだろう。そして、その通路は陸地まで続いているなら1km以上は確実にあることになる。
進むのは大きなリスクがあるが・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます