第98話Ⅰ-98 水の国 王都
■王都 セントレア
水の国の王都セントレアは、遠くから見てもその大きさが良くわかった。高い建物がたくさん並んでいて、その数も大きいと思ったバーンとは比較にならない。周辺は豊かな穀倉地帯だったので、畑を避けながらピックアップトラックで進んで行った。王都に入るときは目立ちたくないので、最後の3㎞は街道を歩いて進んだ。エルとアナは歩く速度も俺たちと変わらないから、疲れも見せずに王都までついて来ることができた。ミーシャの解説によると王都には入市税等は無い、水の国は商業を栄えさせるために、昔はすべての都市で市税などはなかったそうだ。最近は魔獣討伐の報奨金で金がかかるために、王都以外は市税などが作られたが王都に関しては今でも入場フリーになっている。バーンのように城壁もない街道からつながっている王都の入り口には長い槍を持った兵が10人ほどゲートの下に立っているが、誰かを呼び止めたりすることもないようだ。お飾りのようなものなのかもしれない。
王都に入った後は最初にハンスが向かったイースト商会へ行きたいのだが、ミーシャもサリナも場所は知らないと言う。ゲートを近くで通りすがりの親切そうなオジサンに聞くと、教会の右へ進んでいけばすぐわかると言われた。協会は何処か?それは聞かなくてもわかっていた。この町の中心にある巨大な塔が3本立っているのがそれだ。王都はその塔で見つけたといっても間違いではない。
王都の中は碁盤の目のように整備された大きな通りが石畳できれいに整備されている。大勢の人や馬車であふれている通り沿いには商店や露店がたくさんあった。人混みを避けながら少女4人を連れて歩くと教会までは30分ほどで到着した。この教会は王宮としても使われているとミーシャから聞いていたが、兵士で囲まれているわけでもなかった。大きな尖塔が3本立っているが中央の尖塔は10階建の建物ぐらいの高さがありそうだ。外からも見ることができた1階のホールにはたくさんの長椅子が奥に向かって並んでいたが、人はほとんど座っていない。礼拝の時間しか人が集まらないのかもしれないが、宮殿という割には誰でも入れる場所が多いようだ。
教会を左手に見ながら進んでいくとイースト商会の建物はすぐにわかった。他とは大きさが全然違う建物が一つだけあるのだ。5階建てぐらいの石造りの建物で、1階の左半分は荷捌きをする場所のようだ。馬車がたくさん繋がれていて、大勢の人間が荷物の積み下ろしをしている。右半分には入口と思われる大きな扉があったので中に入ってみることにする。
建物の中はギルドのホールに似た感じだ。10個ぐらいの四角いテーブルが並んでいて、熱心にいろんな話をしている人たちがいるから、商談中なのだろう。突き当りはカウンターになっているが、座っていたのはおばあさんといってもいい感じのオバサンだった。あまり仲良くしたいとは思わないタイプだが他に選択肢は無さそうだ。
「スミマセン、私はサトルといいますが、こちらの商会主にハンスっていう人がお世話になっていると思うのですが、どこにいるかご存じないですか?」
オバサンは俺とその後ろに続く少女たちを座ったままジロジロと眺めてから、ある程度予想していた回答をくれた。
「そのような方はこちらにはおりません。何かの間違いでは無いでしょうか?」
「そうですか、こちらの商会主と親しいと聞いてきたのですが、商会主に取り次いでもらえないでしょうか?」
「ご主人はお約束のない方とはお会いになりません」
予想通りの回答が返ってきた。
「サリナ、お前は誰か知っている人はいないのか?」
「外の人はお兄ちゃんが会ってたから、わかりません」
こっちもダメか・・・、
他の手段だと何がある?商会だから商売かな・・・
「じゃあ、この商会で何か仕入れたいものは無いですかね?」
愛想のないオバサンに再度トライしてみる。
「何か売りたいのですか?でしたら最初からそう言いなさい。 リンク、ちょっとこっちに来なさい!」
偉そうなオバサンは奥に座っていたオジサンを偉そうに呼んだ。脂ぎった赤ら顔のオジサンが、腹を掻きながらオバサンの後ろに立った。
「この人達が売りたいものがあるって言ってるの。話だけでも聞いてあげなさい」
「こいつらがか?・・・ウチは奴隷を扱ってないぞ?」
脂ぎったオッサンが半笑いで言ったセリフで俺は切れた。
「なんやと、このボケが!イースト商会はこの国一番の商人やって聞いとったけど、こんな役立たずばっかり雇ってんねやったら話にならんわ!商会主が人を見る目が無いんやったら、こんなとこすぐにつぶれるで!」
俺はホールに響き渡る関西弁でオッサンとオバハンを罵って、中指を立ててから
死なない催涙弾ぐらいなら投げ込んでも良いんじゃないか? ・・・ダメに決まっているな。そんなことで武器を使いだしたら、すぐに歯止めの利かない人殺しになってしまう。
勢いよく出てきた俺に続いて4人とも出てきたが、ミーシャとサリナは目を見開いて驚いていた。俺が大声で怒っているのを見たのが初めてだからだろう。エルとアナはサリナの影で少しおびえているようだ。4人を見てると急に恥ずかしくなって、冷静になってきた。怒っても仕方ないし、何の解決にもならないのは分かり切ったことだ。関西弁で怒鳴っても翻訳されたらこちらの言葉になるだけだ。
さて、偉そうに啖呵を切ったものの、これからどうするかはノープランだ。ハンスが嘘を言っていたとも思えないし、ここの商会主が現れるまで表で待つか?それとも自宅へ押しかけるのが良いのか?個人情報保護なんてなさそうだから、個人の家もすぐにわかるような気がする。
「あのぉ、何か売っていただけるものがあるなら、私が話を聞きましょうか?」
考え事をしている俺の後ろから声がかけられた。振り向くと俺とそんなに年齢が変わらないようなお兄さんが立っていた。商会の中から追いかけてきてくれたようだ。
「いえ、それはもう結構です。この商会ごときでは私の商品はもったいないので」
思い出したらやっぱり腹が立ったので、偉そうに返事をしてやった。
「そうなのですか、確かに色々と珍しいものをお持ちのようですね。靴や・・服・・・鞄なども見たことが無い物のようですね。商会の中で何か失礼があったようなので私からお詫びいたします。もう一度、お話しを聞かせていただけないでしょうか?」
若いお兄さんは話の分かる目の肥えた人のようだった。物腰も丁寧なので、俺も反省して態度を改める。
「いえ、こちらこそ。大きな声を出してすみませんでした。でも、本当はこちらの商会主の方に会いたくてお伺いしたのです」
「なるほど、そういう事でしたか・・・。それでは、売っていただけるものはお持ちじゃあ無いのですね?」
「いえ、欲しいものがあれば何でも用意できますけど」
「そうですか!では、これと同じものをお願いできないでしょうか?」
若いお兄さんは、肩から斜めにかけていたカバンを開けて赤い袋・・・上白糖のビニール袋を取り出してニヤリと笑った。
どうやら、俺が売ったと確信しているようだ。若いが仕事ができる人なのだろう。
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