第76話Ⅰ-76 置き去りにされた少女達
■第4迷宮北東の湿地帯
びくつく二人をキャンピングチェアに座らせてテーブルの上に栄養ゼリーを並べてやった。サリナが蓋を開けて飲み方を教えてやっている。目の前にいる二人は虎系の獣人だ。子供だからなのか肌には殆ど毛がないが、目つきは鋭く耳は頭の上についている。尻尾は・・・まだ見えていない。
二人とも鋭い目の上に長い
「サリナ、妹にも治療魔法を使ってやれよ。脱水症状か栄養失調を起こしていると思う」
「だっすい? しっちょう? わかんないけど、元に戻る様にお祈りしてみる!」
ロッドを妹に向けるとすぐに温かい風が流れ出し、妹の顔色がピンク色に変わってきた。
「お姉ちゃん、何をしてくれたの?体がすごく軽くなった!?」
「元気になった?サリナが治療の魔法をつかったの!気分が良くなったなら安心だね」
「私にも魔法を?」
姉のほうも自分が起き上がれた理由にやっと気がついたようだ。
「うん、頑張ったから足の骨も繋がってるでしょ?」
「・・・うん、ありがとう。大トカゲに噛まれて腐りかかっていたのに・・・」
それで歩けなくなっていたのか、よく生きていたものだ。ハンスもそうだったが、獣人のほうが強い生命力を持っているのは間違い無さそうだ。
「それで、良かったら二人の名前を教えてもらえるかな?俺はサトル、こっちはサリナ、向こうで見張ってくれているのがミーシャだ」
「私はエル、妹はアナ」
「エルが怪我をしたから置いていかれたの?」
「はい、アナには私を置いていくように言ったんだけど、エルもいう事を聞かずにここへ残ったの」
「何日ぐらい前から二人で居るの?」
「たぶん、5日か6日」
俺は二人の服装というか、首についているもので気になっていたことを聞いてみた。
「二人とも首に輪がついているけど、それは・・・」
「私たちは緑の旅団に買われた奴隷・・・」
やっぱり、そう言うことか。見るからに邪魔そうな大きな鉄の輪が首に付けられている。近くで見ないと確認できないが、二つの半円上になった輪を金具で固定している様に見えた。
「奴隷って言うと、ここから連れ出しても旅団に戻らないといけないのかな?」
「そうだ、奴隷は買ったやつの所有物だからな、その証として首輪を付けられている。もし他の人間が連れているところを見つかると、奴隷を盗んだことになるだろう」
ミーシャ先生が横から解説してくれた。ミーシャは扉を少し開けて、外の様子を伺いながら、俺達の話を聞いてくれている。
「誰の奴隷かはどうやったらわかるの?」
「首輪に数字と記号で記されている刻印があるはずだ、奴隷の所有者は購入した時の証明書を持っている」
「じゃあ、首輪を外せば奴隷とは判らなくなるかな?」
「そう・・・だが、首輪は特殊な工具が無いと外せない様になっていて、工具は奴隷商人しか持っていない。しかし、サトルなら何とかなるのかもな」
ミーシャも俺の不思議魔法を前提に物事を考える癖がついてきたようだ、良いことなのだろうか?
「首輪を見せてもらっても良いかな?」
おずおずと頷いたエルに近づいて首輪を見せてもらう。やはり二つの半円を二箇所で止めているだけの鉄の輪だが、止めている道具はボルトの様な形になっている。ボルトの頭は六角形ではなく丸い形で、いびつな星型の穴が開いていた。ここに工具を差し込んで・・・回すのか?不思議だったので、フラッシュライトを当ててつなぎ目を見ると、やはりネジになっている!?この世界で初めて見たが、ネジは存在していたようだ。ボルトの頭は手では回せないように膠で覆われているが、工具があれば外すのはそんなに難しく無さそうだ。
「これを外してやるから、しばらくの間は動かないでくれよ」
ストレージから、タオルとペンチを取り出して、タオルを首と首輪の間に巻いてやってから、ペンチで丸いボルトの頭を挟み込んで回そうとしたが、びくともしなかった。さび付いているのも知れない。取り出したスプレー潤滑剤をボルトのつなぎ目に吹きかけると、耳元で鳴った噴射音に驚いて、エルは涙目になっている。
「ゴメン、驚かせたか。もう少し動かないでくれよ」
タオルとサンドペーパーでボルトに付いていた膠を落としてから、もう一度ペンチで回そうとしたが、やはり滑ってしまう。ボルトに開いている穴を使わないと開けられないのかもしれない。試しに六角レンチを何本か試して行くと、ちょうど固定できそうなサイズで穴に入り込んでくれた。首輪を手で押さえてレンチを回すと・・・、回った。少し動けば後はスムーズに回り出してくれる。反対側も、アナのボルトも同じように外してやって、二人を奴隷から解放することができた。この国の文化や法律は良くわからないが、俺の中では奴隷と言う仕組みは無しだからスッキリした。
さて、それでこの二人をどうしたら良いんだ?
「これで好きなところに行くことができるけど、二人の親は何処に居るの?」
「バーンの町に・・・」
「じゃあ、バーンに連れていけば良いのかな?」
「・・・」
「その二人は親に売られたのだろう。親のところに行けば、同じところに連れ戻されるか、新しいところに売られるだけだろう」
またもやミーシャ先生の解説ですが・・・、そうなの?この世界ってそんな感じ?二人とも否定しないところを見ると事実のようだ。
「親のところに戻るのが嫌だったら、他に行く宛ては無いかな?親戚とか?」
「・・・」
お返事は無いですか・・・、困ったな。助けた後のことはノープランだった。最終的な解決策は先送りすることにして、ここからは移動したほうが良いだろう。日が暮れる前には湿原を抜けておきたい。この二人のことは夕飯を食いながら考えることにしよう。焼肉を食えばなにか良い知恵も浮かぶかもしれない。
俺の異世界での生活はどんどん変わっていくが、性格も楽観的になって来た気がする。
これも異世界マジックなのだろうか?
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