第202話Ⅱ‐41 戦後処理 3

■森の国 首都クラウス 王宮


 「何! 火の国の王と大臣、それに将軍を捕らえただと!?」


 翌朝は日の出とともに首都クラウスへ移動して、森の国の王に戦勝報告のためにミーシャと一緒に王宮へ出向いた。王は国の早馬では西の砦が破られたと聞いていて、戦況が厳しいと理解していたが、早馬などよりはるかに速い俺の”馬車“によりもたらされた情報で混乱していた。


「だが、王や大臣が前線に出向いてきているはずがなかろう?それに、そもそもどうやって火の国の兵を撃退したのだ?」


 喜びよりも戸惑いのほうが大きい王にミーシャが簡潔に伝えた。


「こちらにいるサトルが火の国の王宮で王と大臣を捕らえ、勇者の子孫であるサリナの魔法と私がサトルの魔法を使って火の国の大部分の兵を倒すことが出来ました。その際に将軍を捕虜として連れてきています」

「!・・・、だが、しかし・・・、それで・・・」


 王は話を聞いても思考がついていかずに、言葉が続かなかった。


「火の国の捕虜は表に連れてきていますから、一度お話しされますか?」

「捕虜? カーネギー王もここに連れてきているのか!?」


 百聞は一見に如かずということで、火の国の王に直接会ってもらうことを俺はお勧めした。王様は椅子から飛び上がって、すぐに兵を連れて王宮の外に出たが、門の外に停めた車の荷台に積まれている3人の捕虜を見て驚愕した。


「・・・王を・・・、このような檻に・・・、しかし誠であったか・・・」

「・・・」


 大型犬の檻の中にいる火の国の王カーネギーは悔しそうに唇をかみしめていたが、森の国の王を見ても何も言わなかった。命乞いもせず、強がることもなかったのは既に自分の力ではどうしようもないことを悟ったのだろうか?


「それで、この後は・・・、カーネギー王をどうするつもりなのだ?」

「水の国の王様に相談に行きます。事前に火の国の後始末を頼んでいたので、そのことも確認したいので・・・、森の国はどうしたいか希望がありますか?」

「水の国の王に! すでにそこまで・・・、ふむ・・・、いや・・・、できれば命は助けてやってほしい」


 森の国の王は良い人、お人好しなのかもしれないと俺は思った。日本の戦国の世なら生かしておけば騒乱のもとになりかねないと思うが、この世界はほとんど戦争もなかった世界だ。そういう感覚を持っている人間は少ないのだろう。もっとも、俺自身も殺すつもりはなかったが、かといって自由にしてやるつもりもなかった。問題はどうやって一生幽閉させるかだが・・・。


「私も殺すつもりはありませんよ。ですが、自由にするつもりもないのでどうするかを水の国で相談してきます」

「ふむ、わかった。お前たちの良いようにすればよい。それよりも礼がまだであったな、あまりのことで私も自分を見失っていたが、この度の戦での働きは見事であった。改めて国民を代表して礼を言う。もちろん、褒美も十分に用意させてもらう」


 ―褒美か・・・、俺は欲しいものはないが・・・


「ありがとうございます。欲しいものは無いのですが、しばらくミーシャを貸しておいてもらえますか?」

「エルフの戦士を? もちろん、本人が良ければ構わないが、何かやりたいことでもあるのか?」

「ええ、ちょっと片づけたいことがあるんですよ」


 ミーシャは少しだけ不思議そうな顔をしたが、特に何も言わなかったから不満は無いようだった。


 ―片づけたいことは休養だけどね。


■水の国 首都 セントレア 王宮


 水の国の摂政マクギーは王からの呼び出しに応じて王宮に来ていた。おそらく火の国の争乱についてのことだとわかっていたが、マクギーの元には北に向かった火の国の兵の多くが逃げ帰ってきたと報告が入っていたが、王の元には情報を集める使徒によるもっと詳しい情報が入ってきたのだろう。


「来たか」


 今日は庭ではなく広い応接間のソファーに腰かけて、膝の上に乗せた猫を撫でながら王は入ってきたマクギーに笑顔を向けた。王の横にはすました銀髪の美女―この国の女王マリンが座ってカップに入った飲み物を飲んでいたが、マクギーが入ってきてもそちらを見ることは無かった。


 ―マリン様が一緒とは・・・、かなりの大事があったのだな。


 この水の国では、王と女王の二人で国政を-といっても通常の業務は摂政であるマクギーが行っているが、国政の重要なことについては王が決めている。そして女王は王と同じ権限を有しているが、普段は王の行うこと口を挟むこともない。むしろ、王が判断に迷うときやこの国だけでなくドリーミア全体の行く末を案じたときに王と女王で協議して物事を決めている。その女王がいるということは、大きな話があるということだろう。まあ、今回の火の国と森の国の件は間違いなく女王が意見を言うべき局面でもあったのだが。


「王、そして女王。本日もご機嫌麗しく」

「ふむ、そなたも忙しいであろうに呼び立ててすまんな」

「いえ、滅相もございません。やはり、火の国の件でしょうか?」

「そうだ、火の国は既に敗北して王と大臣が捕らわれたらしいぞ」

「何と! では、あの若者の言っていた通りになったということですか!?」

「ふむ、わしの言った通りでもあるがな」


 確かに、王はあの若者は真の勇者だと言っていた。そして、火の国の王をその者が変えると言っているならそうするのであろうと・・・、だが、どうやって?


「それで、やはりあの勇者の一族がやったというのでしょうか?」

「情報を継ぎ足すと、ムーアでは巨大な怪物が王宮を襲い、勇者一族の魔法で王宮の兵達が吹き飛ばされて、最後は謎の馬車で連れ去ったということだからな、そういうことなのだろう」

「しかし、1万を超える軍勢をどうやって?」

「そっちは別のやつらだが、仲間なのだろう。すさまじい風の魔法で一度に何百人も飛ばすらしいぞ、そして見えない場所から何かが飛んできて、足や腕が貫かれるそうだ。魔法なのか新しい武器なのかは分らんが・・・、まあ、数がどれだけいてもあまり関係ないようだな」


 王はにやりと笑みを浮かべてマクギーを見つめていた。王の使徒たちの情報だから間違いは無いはずだ。細かい部分の経緯は違っても結果としてはそうなったのだろうとマクギーは理解した。


「では、火の国の統治についてはどうさせていただきましょうか?しばらくは私かランディが出向くことを考えていたのですが」


「それはまだ早いだろう。そのことについてはマリンが話してくれる」


 王はそう言って女王のほうに目を向けたが、女王はカップを持ったまま窓の外をみてマクギーを見ていなかった。だが、マクギーにはこの女王が何か深い考えがあってマクギーを呼んだことが分かっていたので、口を開かずに立ったまま女王を見つめていた。


 しばらくしてから、ようやく口を開いた女王が言ったのはマクギーが予想していない答えだった。


「火の国と森の国との戦いは終わりましたが、その背後にいるものとの戦いは始まったばかりです。まずは、勇者の一族を私のもとに案内してください。先の話はそれからです」

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