第185話Ⅱ-24 親子の再会 4
■森の国 西の砦 近郊の森
ミーシャは土人形たちが来る方向を大きく北側から回り込んで背後を突こうとしていた。森の中に多数の人間が居ることは気配でわかっている。土人形の後ろに兵を集めて守りを固めながらミーシャ達を倒すつもりなのだろう。
サリナはバギーを良い感じの速度で走らせて、土人形がついて来れるように南へ誘導している。ミーシャが手にしている大きな銃と背中の大型リュックは走るのには邪魔だったが、使える強力な武器と安心できる銃弾の数を手放すことはミーシャには出来なかった。歯を食いしばって森の中を素早く移動していき、土人形の背後が見える位置までたどり着いた。
-居た。あれだな・・・、魔法士と弓兵・・・歩兵もかなり囲んでいるのか・・・
500メートルぐらいの距離で木立の中を歩く部隊の人数を数えると100名は超えている。
-まずは魔法士だな。殺すなと言われているが・・・、魔法士に手加減はしない。
ミーシャは50口径の対戦車ライフルを脇に置き、リュックに入れていたアサルトライフルとマガジン、それに銃弾が入った箱を地面に並べた。マガジンに銃弾をすべて装填してから、アサルトライフルの銃床を伸ばして先頭を歩いていた魔法士の頭へ銃口を向けた。アイアンサイトで顔の中心に照準があった瞬間にトリガーを引いた。
黒いローブを着た魔法士は右手を土人形へ向けて歩いていたが、その場で崩れ落ちた。立て続けに、木と木の間に見えている魔法士の頭を撃ち抜いて行く。トリガーを引いた数だけの魔法士が力なくその場に倒れて行った。
10人目を撃とうとしたときに、魔法士達がミーシャの撃っている方角に気が付いたようで、木の陰に隠れてしまった。それでも、見えている歩兵や弓兵が大勢残っていたので、マガジンが二つ空になるまで撃ってから。荷物を持って東の方向へ森の中を素早く移動した。敵は弓の届く距離を警戒しているから、ミーシャが居る場所ははっきりとは判っていなかった。
5分ほど走り続けて、さっきの場所と90度違う角度から敵の動きを見ていると、さっきまでミーシャがいた方向に向けて土人形が動き出していた。だが、動いている土人形は既に一体だけだった。ミーシャの計画通りに魔法士を倒すことで土人形を操れなくなるようだ。
サリナのバギーの方角には弓兵と歩兵が駆け足で向かっていた。敵も部隊を二つに分けて追って来たと言う事だ。
土人形の後に続いている魔法士は無視して、サリナの方に向かった弓兵達を先に倒すことにした。距離は500メートルからどんどん遠ざかっていくが、ミーシャにとってはすぐそこぐらいの距離だった。
アサルトライフルのアイアンサイトだけを頼りに敵兵の首を狙って、背後から一人ずつ倒して行った。距離による銃弾の落下と緩やかな風の影響で狙い通りに右肩に着弾して、前のめりに倒れて行く。30人を倒すのに30秒は掛かっていないはずだった。30発入りのマガジンが空になる頃にようやく背後から討たれたことに気付いて地面に伏せたり、木の陰に隠れようとしたりしている。サリナの方に向かって走る兵は誰もいなくなっていた。
マガジンに銃弾を装填しながらもう一つの部隊を見ると、土人形を先頭に森の中をミーシャから見て右方向に進んでいた。
-魔法士が7人、弓兵が10人、歩兵が20人と言ったところか・・・300メートル程だな。
ミーシャは魔法士の中で一番後ろを歩いていた魔法士の頭を撃ち抜いて、そのまま前方を歩く魔法士を7人連続して倒して行った。魔法士の後ろを歩く弓兵や歩兵は目の前の魔法士達の頭から血しぶきが飛ぶのを見て、その場にうずくまって隠れようとしている。
-何かが変だったが・・・、確実に全員の頭に当たったはずだ。何だろう・・・?
ミーシャは地面近くにいる弓兵と歩兵の見えている手足を撃ちながら、先に倒した魔法士を撃った時に感じた違和感を思い出していた。
考えながらも目と手は休むことが無かった。敵兵の体の一部でも隠れた木の幹や下草からはみ出していれば、確実に5.56㎜弾で撃ち抜いた。手足から血を流した兵士は地面を這いながら必死で来た方向へと戻り始めた。既に土人形も動きを止めているから、土人形に率いられた部隊も壊滅したと言って良いだろう。
逃げようとしている兵は見逃してそのまま立ち去るのを待つことにした。20分ほどするとサリナとミーシャの間に居た火の国の兵士達は全員動かなくなったので、サリナに無線で連絡を取る。
「今からそっちに向かうが、まだ生きている兵が居るかもしれない。サリナも用心して東に向かってバギーを進めてくれ」
「わかった! ミーシャも気を付けてね」
耳の中からサリナの元気な声が聞えて、ミーシャは思わず笑みをこぼした。戦いの最中でもサリナはいつもと変わらない。明るく元気で素直な良い娘だ。
荷物をリュックの中に収納して、結局使わなかった重たい対戦車ライフルを持ってサリナが来るはずの方角へ森の中を歩き出した。
-サリナの言う通り早く終わるかもしれないから、カフェオレは今日から好きなだけ飲ませてやろう・・・。
■森の国の街道
ピックアップトラックは平均時速80㎞〜100㎞ぐらいで街道を爆走していた。ほとんどが平野のこの国では道も真っすぐで見通しの良いところが多いが、何といっても舗装されていない地道なのだ。車は大きく揺れてブレーキを踏むとタイヤはすぐに滑り出そうとする。ハンドルを持っている俺の手のひらは緊張による汗でぐっしょりと濡れていた。時折、ズボンの太ももで拭きながら、道を外れないように前方の道へ必死で意識を集中させていた。
王都バーンを抜けるのが最短コースだったので、脱出した王都の検問をもう一度通り抜け、北側の検問は車をぶつけて小屋を破壊しながら通過してきた。火の国の中にあった関所では兵達が立ちはだかろうとしたが、俺が一切速度を落とさなかったために、最後は横っ飛びで道の外に逃げて行った。
車の中では路面からの激しい突き上げが感じられていた。後ろに積んだ二人は死ぬことは無いだろうが、骨ぐらいは折るかもしれない。まあ、死んだところで誰も困ることも無いはずだ。
森の国に入ると火の国に向かって歩いている多くの兵とすれ違った。怪我をしているのは馬にのった騎兵が多いようだったが、俺の車が走って来るのを見ると騎兵も歩兵もすぐに道の外に逃げ出してくれた。
-たぶん、ミーシャにコテンパンにやられたんだろう。
この世界の人間は銃の事をまだわかっていないから、数百メートル先から一撃で命を奪う武器を相手にした戦い方などは想像もできないはずだ。銃弾も矢とは比較にならない数を持ち運ぶことが出来る。それに、何といっても撃っているのはミーシャだった。矢でも100メートルの距離から目を射抜けるが、銃を持たせれば500メートル圏内なら100発100中だ。
ミーシャなら銃弾を撃った数=倒した相手の数となるはずだった。だが、ゲルドはこちらの事を警戒して、死んでから攻撃してくるつもりだ。銃による距離のアドバンテージが無くなってしまう可能性が高い。俺は心配性だから相手が
いずれにしても、ここで心配していても意味は無い。何とか早く二人が居るところにたどり着きたかった俺は100km/hを超える速度で走り始めた。
-どうか無事でいてくれよ・・・。
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