第119話Ⅰ-119 婚約者は?

■エルフの里


 結局のところ、ヘタレの俺は席替えをしたいと言い出せないままに歓迎会がお開きとなったようだ。終了の合図は判らなかったが、ミーシャが俺を呼んでくれたので、長老達を見ると笑顔で頷いた。エルフ達も立ち上がって建物から出て行き始めていた。


 外に出ると屋外での宴会はまだ続くようだが、ドワーフの酔っ払い中心で俺のお目当てのエルフ女子は殆どいなかった。我慢していたトイレの場所をミーシャに聞くと、少し離れた場所にある衝立の奥を指さしてくれた。そこに行ってみると予想通りに穴があるだけだった。


 すっきりしてから、暗い夜道をライトの明かりを頼りにミーシャの家に一緒に向かう。ミーシャの家には歓迎会の前に行ったのだが、平屋のワンルームだった。俺は別の所で寝るからいいとして二人でも狭い家だ。しかし、散らばって建っている他の家も似たような大きさだから、屋根さえあれば良いという考えなのかもしれない。町にある家などを見て、広い家に住みたいとは思わないのだろうか?


「ミーシャ、エルフは里の外の人とも交流はあるんでしょ?」

「あるが、そんなに頻繁ではないな。外に行くものは少ないのだ。ひと月に2度ほど近くの村まで行って、狩りの獲物と野菜等を交換してくるぐらいだな」

「外から人は来ないのか?」

「ああ、めったに来ない。だから、みんなお前が来てくれて喜んでいたのだ」


 そうか、さっきの歓迎会での対応は失敗だったのか。せっかく歓迎してくれたのに、ほとんど話が出来なかった。もう一度機会を作ってもらえたら、他の美味しい物でも食べさせてやりたいな。


「明日は他のエルフ達と話をする時間はあるかな?」

「明日か? うん、少し困ったことがあってだな・・・」

「どうしたの?」

「うん、神の拳を使ってもらおうと思っていたやつなんだが・・・」

「ミーシャの、こ、婚約者だよね」


 自分の心を傷つけながら婚約者と言ってみた。


「そうだ、しかし、そいつが里を出て行っているのだ」

「出て行っているって・・・、何処に?」

「私を追いかけて南へ向かったそうだ」


 -ノロケ話かい!


「でも、どうするの?その人を探しに行くつもり?」

「いや、何処にいるかが判らないから、私は先にシルバーの手がかりを追いかけたいのだがな・・・、神の拳とそいつも王に届けねばならんしだな・・・、だが、そいつは私たちのように旅慣れてはいないから、すぐに戻って来るとも思うのだ」

「で、結局どうするのが一番良いのかな?」


 -ミーシャにしては煮え切らない態度だ。


「そうだな・・・、まずは神の拳を修理しておきたいな。そいつが戻ってくればすぐに王のもとに持って行けるようにしたい」

「じゃあ、何種類かの皮手袋と革を用意するから、風の石を里で取り付ければ良いんじゃない? 革を縫うのが得意な人は居ないかな?」

「それは大丈夫だ。うん、そうだな、ではすまんが、その手袋と修理道具を頼みたい。それが終わったら、できるだけ早く風の国へ行きたいのだ」

「エッ! せっかく戻って来たのにすぐに行くの? 神の拳と婚約者はどうするの!?」


 -オイオイ! 俺とエルフとの親睦もまだやで。


「それは、大丈夫だ。神の拳さえ修理できれば、戻り次第、長老が王都に行かせるだろうからな。私が居なくても良いのだ」

「戻って来なかったらどうするの?」

「その時は探しに行くか、他の使い手を見つけるかのいずれかだな」


 -えらい、アッサリと。


「もうちょっと、ゆっくりして行った方がお母さんも喜ぶんじゃない?」

「うん、それはそうなのだが、どうしてもシルバーの事が気になるのだ。やっと見つけた手がかりだからな」

「そうかぁ・・・」

「お前は、もう少し里に居てくれても良いのだぞ?」


 確かにその選択肢はあるが、いくつか問題がある。何といっても、俺の魔法を隠したまま暮らすと非常に不自由なのだ。ミーシャが居なくなって、ミーシャの家で母親と二人で寝るのも・・・、俺は良いがマズイ気がする。食事も出されると口に合わないものでも食べないといけない。ここは妥協案の提示だな。


「じゃあ、明後日の朝にここを出発しようか。ミーシャも1日ぐらい待っても、俺と一緒の方が早く着くから別に良いでしょ?」

「ああ、もちろんだ。そうしてくれるならありがたい。それで、明日は何をしたいのだ?」


 何をしたいのか? エルフ女子と仲良くなりたいのだ。どうやって仲良く? あれ? 女子と仲良くするには何をすれば良いんだろ? 残念ながらおれの経験値は0だった。

 

■シリウスの宿


「ああ、お尻が痛いねぇ。馬車ってのは乗ってるだけでも大変だね。あの子の変な馬車ならこんな風にならないし、あっという間に着くのにねぇ」


 リンネはベッドの上にうつ伏せになって、お尻をさすっている。日暮れ前にシリウスに着くために、御者は馬車を速く走らせてくれたから、サリナのお尻も痛かった。


「うん、サトルの馬車は特別だから」

「あんたも、あれの御者ができるんだろ?」

「うん、できるの!」


 そう、サトルは自動車っていう特別な馬車の運転もさせてくれた。最初は怖かったけど、すぐに慣れたし、風を切って走っていく自分より大きなものが思う通りに走るのが楽しかった。何時間運転していても飽きない。本当はボートも運転したかったんだけど。


 サリナの馬車って言ってくれたけど、私の馬車は元気かなぁ・・・。サトルが居ないと運転もさせてもらえない。でもサトルに頼るから、連れて行ってくれなくなったんだと思うしなぁ・・・。


 そうか! 明日は私が馬の馬車を運転できるように・・・、それも違う気がする。サトルは御者が出来ても馬の馬車にはきっと乗ってくれないもん。


 どうすれば、サトルは私と一緒に居てくれるんだろう・・・。

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