第210話Ⅱ‐49 人買いの村

■ルッツの村


 ルッツの村はマリアンヌの言う通りすぐに見つかったが、俺達も敵にすぐに見つけられてしまったようだ。まあ、見たことのない明るさの四角い馬車が走ってくるのが遠くからでも一目瞭然だったからな、仕方ないだろう。


 最初は矢、その次は大きな石が車のボディーを直撃した。せっかく高級な新車にしたのに!ボディに傷が!・・・って、どうでも良いな。また、色違いの新車を導入することにしよう。敵は左から攻撃してきたので、助手席のミーシャ様は窓を開けてアサルトライフルを突き出し、素早く撃ち始めていた。車を走らせたままだが、当たったのか?


「いったん、村を通り過ぎるところまで行く。何人ぐらいいるんだろう?」

「うん、走る車だと気配が分かりにくいが、4人いたのは見つけたから倒したはずだ」

「そ、そうか。じゃあ、10人ぐらい入るんだろうな」


 見つけた奴は全部倒したと言い切るのが凄い、俺にはどこにいるかも全くわからないというのに。ミーシャはどうやって気配を感じ取っているのだろう?今度個人レッスンを・・・。ヨコシマな考えを浮かべながら車を走らせていたが、村を500メートルほど過ぎたあたりで車を止めた。


「じゃあ、ここからは歩きで行こう。先に黒虎とラプトルを放とうか。襲ってくる奴は容赦なく噛んで良いから。リンネお願い」

「ああ、任せておくれ。もう、敵だけ襲うようにもできるからね」

「そうなの?いつの間にそんなことが?」

「ああ、この子達も何回もお願いしているからね。あたしの言うことが前よりも良く分かってくれるのさ。あんたの命令も聞くようにしておくから、思うように使ってごらんよ」

「それはすごい! 助かるよ! じゃあ、黒い死人達を見つけたら、足を噛んで動けないようにしてくれよ」


 いつもの手順で俺がストレージから出した黒虎とラプトルは暗闇へと素早く走って行った。死人ならぬ死獣使いもレベルが上がってきたということか、心強いことこの上ない。なんだか、俺一人が遅れているような気がする。無限の武器はあるが、使っているのは高校生だ。戦闘能力が高いわけではない、相手よりも単に強い武器を持っているだけ。やはり、ヨコシマな考えを脇においても、俺自身が何かレベルアップしないとこの先が心配だな。だが、まずはこの暗闇で敵を見つけなければ・・・。


「ライトはつけないからみんなも暗視装置を使ってみる?」

「いや、私は必要ない。前に見たが緑色でかえって見にくい」とミーシャ。

「私は必要ありません、見えなくても感じていますので」とママさん。

「あたしも獣たちが感じてくれるから必要ないよ、それにあんたの後ろ姿しか見るつもりもないからね」とリンネ。


 ―そうか、やはり俺だけが・・・。


 なんだか、落ちこぼれになった気分でヘルメットに暗視装置をつけて緑色の世界を村の方向に向けて歩き始めた。


■ボルケーノ火山 洞窟


 リウがいる小屋から影を媒介として首領たちが念話を行っていた。首領たちがいる洞窟にもリウは影の分身を一体置いてある。その分身を使って、首領たちと会話をすることができた。


「それで、お前の体から血が出ているというのはどういう意味だ?」

「血のような液体が止まりません」

「ふむ、お前の体の中から炎が出たということは、影が魔法具で貫かれたのだろう。おそらく、伝説の魔法石を使った魔法具だ」

「伝説の魔法石?」

「ああ、先の勇者がその魔法石を使って武器を作ったと言われているが、われらの調べでは勇者一族も持っていなかったはずだ。ならば、南の迷宮を攻略したのか・・・」

「どうすれば、血が止まるでしょうか?」

「止まらんな・・・、勇者の魔法具は闇の力を打ち消すのだ・・・、お前の体は死人として闇の力で動いているが、剣で貫かれた場所は闇の力が打ち消されているのだよ、むしろ生者の体へ戻ろうとして血のようなものが出てきておるのだ。その傷を癒すためにはネフロス様に新たな生贄をささげる必要がある」

「ならば、すぐにでもそちらに・・・」

「ああ、だが、そこにも追手が来ておるのだろう?」

「はい、先ほど手下から見慣れぬ馬車が通り過ぎて、4人ほど倒されたということです」

「ふむ、さっきの勇者達だろう・・・、あいつらは何故そこに来たのか判るな?」

「獣人の娘を・・・、判りました。この二匹を盾にしてここから立ち去ることにしましょう。生贄にも丁度良いと」

「うむ、まずは逃げることを先に考えろ。反撃はまたの機会で構わぬ」

「承知しました」


 影の念話が終わり、二人の男は目を合わさずにランプの明かりを前に低い声で会話を続けた。


「リウはもう終わりだな」

「うむ、影を貫く魔法具か・・・、厄介なものを持っておる」

「その魔法具ならわれらの体も・・・」

「同じであろう、傷つけば元には戻らぬのだろう」

「・・・」

「仕方がない、例の計画を今すぐ実行して、勇者たちの矛先を別に向けさせよう」

「ああ、では私が火の国へ赴くことにする」

「頼んだ」


 男の一人が立ち上がり、ランプの光が届かぬ場所へ行き闇の中へと消えていった。


 ■ルッツの村


 俺はミーシャに続いて、暗視装置の緑世界を村の方向に向かっていた。ミーシャの足取りは暗闇の中でも滑らかで音もせずに静かに進んでいく。俺はというと、木や草を踏んでガサガサと煩いことこの上ない。だが、すでに黒虎たちが獲物を見つけたようで、森の中では男たちの悲鳴が響き渡っていた。


 ―ば、化け物だ! 助けてくれ!

 ―ぎゃぁー、食われる! あ、足がぁ!


 村の建物が見えるところまで来ると、黒虎に引きずりまわされている男たちが何人もいたが、そのままにして村の中へと進んだ。村長の家は井戸の前の一番大きな建物・・・、確かに一つだけ土壁と立派な柱の家が井戸の前にあった。


 ―悪いことをして貯めた金で自分だけ良い暮らしか・・・


 建物の中からは外の騒動で起きてきたのかランプの明かりが漏れていた。俺は突入用の破壊槌をストレージから取り出して、警告もせずに木製のドアをぶち破った。ドアを蹴ってミーシャがアサルトライフルを持って家の中に入っていく。


「なんだ、あんたたちは!?」


 俺が中に入るとランプの乗ったテーブルに座った男とその後ろに脅えた女が一人男の背中にしがみついていた。


「あんたがこの村の村長か?」

「そ、そうだ。そっちは何者だ! こ、こんな夜中にいきなり扉を壊して、ただで済むと思うなよ!」

「ふん、なんだか不愉快な奴だな。お前が人買いの手伝いをしていることはわかっているんだ。女たちはどこにいるんだ?」

「ば、ばかなことを。ひ、人買いなんて聞いたことがないぞ・・・」

「そうか、じゃあ、表にたくさんいる黒い死人達の手下はなんだ?あれは通りすがりの人か?」

「・・・」

「素直に話せば、少し痛い程度で済むが、黙っていると死ぬよりつらい思いをするぞ?」

「・・・」


 また、だんまりだ。どうせ話すんだから最初から話せばいいのに・・・

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