第242話Ⅱ‐81 風の精霊ブーン
■エルフの里
俺とリンネのコンビでレントンとリウからは情報を引き出せたが、ゲルドとハイドはだんまりのままだったので、尋問はいったん終了した。ストレージから出て広場に戻ると宴会も終盤なのだろうか? エルフ女子は減っていて、ドワーフの男たちが飲んで踊っている。サリナ達も肉を焼く量を減らして、座ってコーラを飲んでいた。
「ああ、も、戻ったのか? 二人で何処へ行っていたのだ?」
ミーシャが少しぎこちなくサトルへ話しかけてきた。サリナは珍しく俺の方を見ず目を合わせてこない。
「うん、捕まえた死人達に尋問していたんだよ。魔石がどこに埋まっているかを聞き出したくて」
「そうか!? で、判ったのか?」
「いや、魔石の形とどんな形に埋めたかだけだ。例のネフロスのシンボルの形で6か所に埋められているらしい。あの闇使いがいた場所の近くにも一つあるはずだ。そこを北西の角として里を囲んでいる」
「うん、わかった。じゃあ、手分けして探そう。大体の場所さえわかれば、足跡や埋めた跡を見つけられるだろうからな」
「そうなの!? 大体の場所で大丈夫?」
「ああ、もちろんだ。聞き出してくれてありがとう。それで・・・、リンネはどうして・・・」
「リンネ? リンネも俺の部屋に入れるか試してみたかったんだ。それに、俺だけで聞くよりも二人で聞いた方が、特に同じ
「そうか、そういうことだったのか。うん、わかった」
「それがどうかしたの?」
「いや、うん、何でもないのだ。お前の姿が見えないからな、どうしたのかなと。前に行っていたが、私たちはその・・・お前の部屋には入れないのだな?」
「ああ、生きている人は俺以外入れない」
「ずるーい! 私もサトルの部屋に行きたい! 」
黙って座っていたサリナが我慢できずに吠えている。なるほど、ミーシャが俺のことを気にしてくれていたのかと少し喜んでいたが、こっちのちびっ娘の方だったか。
「仕方がないだろ。俺の魔法はそういう魔法なんだからさ。お前やミーシャは入れないんだよ」
「そんなぁー。リンネだけがサトルの部屋に入れるなんてダメだよ・・・」
殆ど泣きそうな顔でむくれているが、無理なものは無理だ。
「ねえ、リンネ。サトルの部屋はどんなだったの?」
「ふーん、部屋って言ってもねぇ。ソファーがあって、自在にいろんなものが呼び出せるけどねぇ。外が見える訳でもないしね・・・。いつも寝ている車の中とそんなに変わんないよ」
「そうなんだ・・・、でも、私も見てみたい!」
「じゃあ、写真を撮ってきてやるよ。それなら中が見えるだろ」
「写真! そっか、そうすれば見れる・・・けど、私は入れない・・・」
ああ、なんて面倒くさい。どうすればこのちびっ娘は満足するのか? そもそも、こいつを満足させる必要があるのか?自分でも疑問に思ったが、なんとなく放っておけない気がしてしまう。わがままな妹を持つとこんな気分なんだろうか?
「じゃあ、今度どこかに家を作るから、そこに遊びに来いよ」
「家を? 作る? ・・・サトルが?」
思わず口にしてしまったが、そろそろ拠点を作った方が良いと思っていた。決して拠点に引きこもるつもりも無かったのだが、キャンピングカーだけの生活も飽きてきたので、プレハブで良いから、作ってみようと思っていた。実は場所の候補も考えてある
「ああ、そうだ。作ったらお前を一番先に入れてやるからそれで良いか?」
「一番? サリナが一番? うん! やったー!」
良し、これでわがまま娘の件は解決だが、その前にやることがいくつもある。
§
翌朝はエルフ達は総出で魔石の捜索に向かった。ミーシャもハイドを見つけた場所を中心に探すらしい。サリナが破壊してしまったのであそこが一番大変だとミーシャは言っていた。魔石の捜索はミーシャに任せて、腕輪のことを確認するために俺は風の谷にいるブーンに会いに行くこととにした。昨日からテントのそばで寝ていたシルバーにサリナと一緒にまたがって連れて行ってもらったので5分もかからなかった。
風の谷は今日も心地よい風が緩やかに吹き続けていた。ピラミッドの上には俺達がつく前から、子供の形をした精霊がふわふわと浮いている。
―やあ、来たんだね。エルフが戻れてよかったね。
「ええ、ありがとうございます。ブーンのおかげです」
―それで、今日はどうしたの?
「これですよ」
俺はベストのポケットから取り出した腕輪を見せた。
―そうか、君の手元にたどり着いたんだね。それは僕の想いを封じ込めることのできる腕輪だよ。
「想いを封じ込める? ノルドさんからは風を
―うん、僕は風の精霊だからね。風を自由自在に操れるよ。だから風の力で君を空に飛ばすこともできるし。他の物を飛ばすことだってできる。
「そうですか・・・、飛ぶ・・・、飛ぶよりも飛ばす方から先に覚えたいですね」
―どうしてだい? 人は飛ぶのが夢じゃないのか? 前の勇者たちも飛べて喜んでいたよ?
「そうですかね、そうかもしれませんが。俺は高いところが嫌いなんですよ。なので、飛ぶっていうのが怖いんです」
―ふーん。怖いのは落ちる気がするから?
「そうです!そうです!崖の上とかでも落ちたらどうしようって思って怖いんですよ。それなのに、飛ぶなんて絶対に無理!」
―そっか。わかった。じゃあ、その腕輪をはめてごらん。飛ばす方からやってみよう。
「はい、わかりました。 こんな感じ・・・ウワー――――ア!!」
「サトル―!」
俺の体は地面から吹き上がる風に巻き上げられて一気に数十メートルの高さまで舞い上がった。地上にいるサリナが大声を出して手を伸ばしたが、届くわけもない。
「た、助けてくれ!」
パニックになって大声を上げたが、体は不思議なことに上空でふわりと停止した。丁度、うつ伏せになって地上を見下ろすような体勢になっている。
「おい! お前の仕業か!? 早く降ろしてくれよ!」
―大丈夫、慣れだからね。その腕輪をつけていれば絶対に落ちたりしない。
「そんなことが信用できれば、高いところが怖いなんて言わないんだよ! 良いから早く降ろせ!」
―もう、しょうがないなぁ。じゃあ・・・
「ダぁーーーー!」
俺の体はうつ伏せのまま一気に地面へと降下を始めた。みるみる地面が近づく、このままだと叩きつけられて確実に死ぬ!
「サトルー! あんたダメ! 吹き飛ばすわよ!」
サリナにはブーンの声が聞こえないが、サトルがブーンの力で持ち上げられて嫌がっているのは分かった。ポーチから炎のロッドを取り出してブーンの方に向けた。
―心配いらないよ。絶対にケガはさせないから。
「あれ?声が聞こえる?」
―うん、君に話しかけてるからね。ほら、見てごらん。
サリナは言われた方を見るとサトルは地上から1メートルぐらいのところでふわふわと浮いている。驚いた表情をしていて顔面は蒼白だった。
「大丈夫じゃない! 嫌がっているじゃない!」
―ふん、おかしいな? 楽しいと思ったんだけどね。その腕輪をつけている限りは絶対に地面には落ちないようにしてある。そこからは自分の意思でおりてごらん。
「ふざけるな! ほ、本当に死ぬと思った・・・」
―ちょっと、刺激が強かったのかな? でも、本当だからさ。そこから地面に立つように頭の中で考えてごらん。
恐怖と怒りで混乱していたが、深呼吸をしてブーンの言うイメージを持ってみた。足の方から下におろして・・・、おおっ! イメージ通りに足が下りて着地した!
「はぁー・・・。最悪だ・・・」
俺は思わず両手を地面についてうずくまった。
「サトル、大丈夫!?」
「いや、大丈夫じゃない。もうごめんだ。こんな腕輪要らない」
俺は腕輪を外して地面に投げ捨てた。
―えーっ! 捨てちゃうの? 空飛ぶ腕輪だよ!
「知ったこっちゃない!お前の言う事なんか信じられない。人の嫌がることをする精霊なんか人間の敵だ! サリナ帰るぞ!」
「うん、わかった・・・」
俺は離れて座っていたシルバーのところまで近寄ろうとしたが、シルバーは俺を避けて投げ捨てた腕輪のを二つとも咥えて俺のところに持ってきた。
「なんだ? これは俺が持っておかないとダメなのか?でも、俺は使わないぞ?」
シルバーは俺の足元に腕輪を置いてお座りをした状態でしっぽを振りながらじっと俺を見ている。背中に乗って行けと言う感じではなかった。シルバーが悪いわけではないが、俺の怒りは収まらなかった。
「じゃあ良いよ。歩いて帰るから」
俺は腕輪を置いたまま振り返りもせずに風の谷の出口に向かって歩き始めた。サリナは少し遅れて歩き出したが、シルバーの横に行くと首を撫でてから地面の腕輪を拾ってポーチの中に入れておいた。
「サトルが怒ったじゃない! あんたなんか大っ嫌い!」
最後にブーンを振り返って悪態をついてからシルバーと一緒にサトルの後を追いかけ始めた。
―やっぱり、まだ子供なんだな。勇者になるにはもう少し時間が必要か・・・。
宙に浮いていたブーンの体は空気に溶け込むように薄くなり、風の谷には誰もいなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます