第298話Ⅱ-137 神殿の洞窟3

■神殿の洞窟


 何故、亀がもう一度登場したのかは判らないが、今度の亀は生きている・・・というか動いている。それに、さっきの奴よりもデカいと思う。足の太さだけでも50㎝以上はあるし、通路からでは全体の大きさは判らなかった。反対に部屋の大きさはさっきよりも狭い感じがするのだが、床に転がしたフラッシュライトだけでは確実なことは言えなかった。


 -まずは偵察だな。


 俺達が居る通路よりもはるかにデカいから、こちらに入ってくることは無いと判断して、慎重に情報を集めることにした。ラジコンカーにライトを2本ずつ乗せて、10台を次々に亀の間へと送り込んだ。亀はゆっくり動いているがラジコンカーは特に敵視しないのか、踏みつぶすことも無く部屋を巡回していた。ライトの明かりで部屋の反対側にも通路があるのが判り、部屋全体は直径30メートルぐらいの広さと言うのが確認できた。


 前回の失敗があるので天井付近を確認するためにドローンも飛ばして、カメラで様子を探ろうと送り込んだ。ドローンのカメラは下部についていたので天井の高さが判らないまま、通路から部屋に入ったところで高度を上げた・・・途端にカメラの映像が途絶えた。


「飛んでたのは落ちたよ・・・なんか刺さってる」


 通路から部屋をのぞき込んでくれていたサリナの後ろから覗き込むと白いドローンの機体は通路から入ったところで破壊されて灰色の棒のようなものが2本刺さっていた。


 -地面付近は大丈夫だが、ある程度の高さで矢が飛んでくる?


 ドローンをもう少し飛ばして矢を全部撃たせるか?いや、それでは全部撃ち終わったか判らない。もっと効率よく矢を撃たせるには・・・、的を沢山送り込んでやろう。


 ストレージから発電機、大型送風機を取り出して送風機を部屋の方向に向けてスイッチを入れた。強い風が部屋へと注ぎ込むが亀さんは気にならないようだったので、ヘリウム入りのゴム風船を風に乗せて飛ばしていく。風船は通路の壁や天井にあたりながら部屋へ入った・・・と同時に割れて行く。鉄の矢が上から飛んでいるのがライトではっきりと見えている。だが、次から次へと部屋に入って行く風船は徐々に部屋の中心に向かって進んで行っている。入り口付近を狙う矢が尽きてきたのかもしれないが、まだまだ安心できない。無限に出てくる風船を20分ぐらい送り続けると天井から溜まった風船で通路の高さまで埋まって来た。


 -これだけ埋まれば上からの攻撃は大丈夫かな。次は・・・。


 送風機を片付けて、いつも通りに地面の安全を確かめるために手榴弾をばら撒くことにした。6連装のグレネードランチャーを左脇に抱えて、利き手とは逆の左手で6発全弾を部屋の向こうへと放ってジュラルミンの盾の後ろに隠れた。


 連続する爆音とともに狭い通路に爆風が吹き荒れて、持っているジュラルミンの盾を激しく叩いた。砂埃が落ち着く前に部屋の中に向けてライト付ラジコンカーを再度入れておく。先に入れたライトは手榴弾で全滅している可能性が高いからだ。


 砂埃が落ち着き、ライトの明かりで見えてきたのは・・・やはり亀。だが、さっきと違って甲羅の中に手足を入れている。部屋の真ん中付近で置物のようになっていた。普通の亀なら・・・ってそんな訳はない。デカさもそうだが、この洞窟に居るんだから大人しいペットでは無いだろう。手榴弾程度では傷もついていない甲羅が15メートル程向こうに見えているが、さっきの部屋と同じように重機関銃を使うには部屋の入り口まで体を入れないと銃がセットできない・・・なんだか嫌な予感がする。


 亀の甲羅を見ながらそんなことを考えていると俺の想いが通じたのだろう。亀さんは甲羅から首を伸ばしてこちらを見た。俺は曲がり角から体を出してアサルトライフルを構えたが、慌てて元の位置に戻ってサリナとママさんを通路の奥に押し戻そうとした。


 -バシィ! -バシィ! -バシィ! 


 亀の甲羅から鋭い何かが俺が居た場所に向けて何本も飛んできた。俺が隠れたのはそれだけが理由ではなかった、亀の口が開いて赤い物が見えていたからだ。


「下がれ! 下がれ!」


 俺は後ろにいたママさん達を突き飛ばすように通路の奥へと押し戻した。振り向いてジュラルミンの盾を構えて隠れたときに通路全体が赤い炎に包まれた。チリチリと髪の毛が焼ける感覚がしていたのは2秒ぐらいだと思う。亀の口から吹き出された炎が俺達を包み込んでいた。炎が消えて服等には引火していなかったが、焦げ臭い匂いが立ち込めている。


「サトル! 今のは!?」

「亀さんが怒ってるらしいな」

「髪の毛が焦げてしまいましたよ。魔法が使えれば細切れにしてやるところです」


 ママさんは毛先を見て怒りをあらわにしているが、こっちはそれどころでない。火を噴く前に飛んできたのは甲羅のあたりからだと思うが、ロックオンされた状態では身を乗り出して銃を構えるのは難しくなった。遮蔽物を置いて銃を構えても炎を出されるとどうしようもない。


 -手持ちの武器では厳しいな・・・、初めてだけどやってみるか・・・。


 銃と手榴弾と言う主戦力では上手くいきそうになかったので、使ったことは無いがあらかじめ調べていた物を使うことにした。亀さんはラジコンには攻撃してこないと信じて、大きなラジコンカーにC-4プラスチック爆弾を5kg乗せて、タイマーの雷管を2分後にセットして送り出す。曲がり角から鏡を使って覗き込むと亀さんは手足を出して立ち上がっていたが、ラジコンカーは無視して鏡に向けて棘を飛ばしてきた。最初に見た時は単なる甲羅だと思っていたが、甲羅の周辺部には鋭い棘が横向きに立っている。鏡の横を通過した棘は岩肌をえぐりながら地面に落ちた。落ちた棘を素早く拾って確かめたが、思ったより重量のあるもので当たると人体なら串刺しにできそうだった。


 ラジコンカー2号車のタイマーを1分後、3号車のタイマーを30秒後で送り出し、亀さんの足元で停車していることを確認して、部屋からできるだけ遠くまで行ってジュラルミンの盾に隠れた。隠れると同時に轟音と共に1発目の爆風が盾を持った俺を吹き飛ばし、後ろのサリナに倒れ込んでしまった。仰向けになった俺達に逃げ場を失った爆風がさらに2回襲い掛かる。密閉された空間で使うには15kgは量が多すぎたのかもしれない。ヘッドホン型のイヤーマフをしていても、耳なりがしている。


 土埃の量もすさまじく、ゴーグルが砂だらけになって何も見えなくなっていたが、ゴーグルは外さずに手で埃を拭って起き上がり、下敷きにしていたサリナを引き起こした。


「大丈夫か!?」

「うん・・・、お尻打ったけど平気だよ。サトルは大丈夫?」

「ああ、マリアンヌさんは?」

「大丈夫です。でも、お水をください」

「ええ、どうぞ」


 ペットボトルの水を二人に渡して、俺自身も水を口に含んでうがいをして大量の砂を吐き出した。何度もうがいをしていると埃が落ち着いて来たので、装備をチェックして3人とも新しいゴーグルとフェースマスクに付け替えてから、亀の間に戻って鏡で覗き込んだ。期待通りに亀の姿は見えなくなっている。正確に言うとバラバラになって四散していた。直接頭を出して除くと、すぐそばにも甲羅と足の一部が落ちている。


 亀は解決できたと判断して、部屋の入り口まで入って天井へライトを当てて、仕掛けと敵が居ないかを再度確認した。天井には矢を放った細かい穴が沢山開いていたが、危険な相手はいなかった。既に風船は爆風で浮いているものは一つも無く、空気の抜けた風船の残骸が地面にたくさん積み重なっている。


 -これでこの部屋はクリアで良いかな・・・。


 アサルトライフルを構えて、反対側に見えている通路に向かって亀の間を通り抜けようとして、足元の亀の甲羅の残骸に目を奪われた。亀の甲羅は6角形の板がつなぎ合わされたような模様になっているが、その6角形の中にネフロスの紋章-六芒星が描かれていたのだ。


 -亀とネフロス? 何の関係が・・・。

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