第2話 変化
「可愛いな〜」
「本当に可愛いですね、あなた」
ユリアは、次女のアオイを優しくあやしながら答えた。彼女達は、自分の子は出来るだけ自分で育てるという協定を結んでいるらしい。何でそんな協定があるのか聞いた所、自分の子供から一番最初に名前を呼ばれたいかららしい。
うん、気持ちは分かる。
確かに俺も、自分の名前呼ばれたい。何なら、パパでもお父様でもいい。
うん、なんか想像したらちょっと羨ましくなってきた。
【どうやら順調に、親バカへの道を歩んでいるようですね。】
おいおい。
【否定する材料は出てきそうですか?】
お察しの通り1ミリも無いよ。
それに、親バカだって悪いだけじゃない、はずだ。うん、きっとそうだ。
「本当に小さいんだな・・・・・・」
俺が、アオイの手のひらに指を当てると、優しく握り返してくれた。想像よりもずっと強く握られており、簡単には抜けそうにない。
「こうしてみると、やっぱり寝顔も可愛いですね・・・・・・」
「きっと将来は、ユリアに似て可愛い子になると思うよ。」
「それを言うなら、貴方様の優しさもですよ。きっとこの子は、あなたに似て聡明で優しい子に育つはずです。」
前世では結婚すらした事がなかったが、今世ではこんなに可愛い娘と息子ができた、同時に俺にはこの子達が伸び伸びと暮らせる世界を作るという目標ができた。
西方統一同盟と東方亜人協商の2強時代は、俺の代で終わらせてやる。
自分で蒔いた種は、自分で摘むのが俺のやり方だ。
*
二分した世界、共に平和を望んでいるはずなのに、両陣営の心の距離は日を追う毎に離れていった。
どちらも、平和を望んでいる事は間違いない、だけどそれぞれの目指す平和に、共存という道は無かった。
両陣営が目指すのは、お互いがお互いの喉元に剣を向けるような平和ではなく、圧倒的に優位な立場に立った上での平和だった。
そして、西方統一同盟と東方亜人協商が敵対の道を進む事を象徴するような、戦争がついに始まったしまった。
「子供が産まれてから、俺の生活が前よりも楽しくなった気がするな。」
「私も、サクラ達が産まれてから人生が前より楽しくなった気がするわ。これが、母親になるという事なのかしら。」
「家に帰ったら子供達の顔が見れるという生活は、俺に大きな安らぎを与えてくれている気がするよ。まぁ、ここが俺の家でもあるんだけどね。」
「確かに貴方の言う通りね。サクラの顔を見ると、今日も頑張らなきゃっと思うわ。それと、物語の価値基準が少し変わった気がするわ。前は自分とハーンブルク領のために動いていたけど、今はあの子の事を最優先にしている自分がいるわ。」
確かにその感覚は、俺にもある。
日中は基本的に外出しているか、仕事部屋に篭っている事が多いので、平日は夜に寝顔を見る程度しか親子の時間を過ごせていないが、それでも俺の生活は前よりも楽しくなったのかも知れない。
イレーナは、その感情が俺よりも大きいのかもしれない。
私生活に大きな変化があったが、俺の仕事は変わらない。
「んじゃ、まずは状況の整理から始めるか。」
「そうね。発端はパラス王国からだと聞いているわ。パラス王国軍とガラシオル帝国軍は、それぞれの国境線沿いにそれぞれ軍隊を待機させていたのだけど、パラス王国のある小隊が独断専行で威力偵察を行った結果、それが飛び火して戦闘が本格的に始まったと聞いたわ。確かそれが、ちょうどサクラが産まれた頃の事ね。」
「威力偵察からの飛び火、か。そんな軽い気持ちで行った出来事に巻き込まれるこちらの身にもなってほしいな。」
お母様の手配で、その頃は一時的に、ガラシオル帝国の情報は俺の下に届かないようになっていた。出産間近と言う事で、気が滅入っていた俺を心配して、戦争に関する情報をシャットアウトしてくれていたわけだ。
もちろん、放置というわけではなく、お母様が捌いてくれていたらしい。
本当に感謝しかない。
「それで、戦況は?」
「ガラシオル帝国側が押しているわ。パラス王国側が先の戦争のおかげでだいぶ弱体化していたのもあるけど、一番の原因はお母様がデュークス島を経由して大量の軍事物資を輸出していたからね。おそらくだけど、だいぶ助けになっているはずよ。」
「東方亜人協商の様子は?」
「現地の諜報部隊によると、少しずつ軍事物資の供給が行われ始めたそうよ。このままいけば、貴方が想定する最悪になるわね。」
「そうか・・・・・・」
ここまでは予想通りだった。
俺が信頼するお母様なら、ガラシオル帝国が負けないように動くはずだ。すると当然、向こうも負けじとパラス王国への軍事物資の支援を行うようになる。
そして、ガラシオル帝国が劣勢になれば、今度は俺たちが支援を行う事になるだろう。
つまりはチキンゲームが始まるのだ。
世界的に見れば、まだ小規模な戦争だ。だけどこのままいけば、間違いなく大きく発展していくだろう。
ならば、早急に手を打たなければならない。
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どうでもいい話
今日届いた新しいPCの設定をいじっていたら、こんな時間になりました。
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