第6話 書状

『ガラシオル帝国、帝都ベネサ』



帝都ベネサの中心にして、人類側の国の中で一、二を争う軍事力を持つガラシオル帝国の強さの象徴でもあるベネサ城の謁見の間にて、1人の男が父である皇帝に代わって部下からの報告を受けていた。


「報告にあった、ハーンブルク家から正式な使者が来たという話は本当か?」


「はい、間違いありません。ハーンブルク家とは、以前から商人を通して交流がありましたが、正式な使者はこれが初めてです。」


海の向こうの国、サーマルディア王国のハーンブルク領というところで作られた珍しい物を、独占して売っていた商会がある事は、もちろん帝国上層部も把握していた。

とは言っても帝国上層部の狙いは、大量の塩や砂糖ではなく、それらを運んでいた巨大な船であったが、帝国は色々な方向からその船を手に入れるために動いた。しかし、結果はすべて失敗、その船の所有者が、商会では無く国(ハーンブルク家)である事が判明すると、帝国は潔く手をひいた。

中には、強奪しようという考えを持つ者たちもいたが、一般の商会に貸す事ができるほど大量に船を持つ相手と敵対するのはまずいと判断された。

それに、ガラシオル帝国は現在、お隣のパラス王国と戦争中である。ハーンブルク家と敵対する事になれば、2正面作戦を強いられる事になるので、この計画は白紙となった。


そんな中での突然の来訪、もちろん帝国は大きな関心を示した。


「それで、用件は何だったのだ?」


「はい、正式に国交を結びましょうという話でした。こちらに、書状を預かっております。」


部下の男は、ハーンブルク家から渡された書状を、近くに控えていた側近を経由して渡した。

ハーンブルク家からの書状はこれが初めてだが、手触りだけでこれが上質な紙である事が窺える。

そして、ハーンブルク家を表すマークが書かれていた。


「なるほど・・・・・・ところで、ハーンブルク家の代表は今何処におられる。」


「はっ!帝国を訪れる際に使用したと思われる船の中にいらっしゃいます。船は一隻のみですが、帝国が所用するどの船よりも大きく、例の商会が持っていた船よりも大きいです。また、どのような武装があるかは不明ですが、たったの一隻で訪れた事から、民間の船ではなく軍用の船であると考えられます。」


領土の割に、海岸線が長いガラシオル帝国は、ギャルドラン王国の2倍ほどの海軍を揃えていた。現在戦争中である、パラス王国としか国境を接していないが、海からの攻撃は十分に考えられたからだ。

だが、帝国が所有するどの船よりもハーンブルク家の船は大きくて速かった。


「なるほど、ハーンブルク家には目を疑いたくなるほど巨大な船があるという情報が入っていたが、どうやら本当の話のようだな。それで?その使者は今何をしている。」


「現在は、ハーンブルク家と帝国の橋渡し役を担っていた商会と取引を行っているそうです。」


「なるほど・・・・・・あそこか・・・・・・まぁいい、ひとまずこれを読んでみるとするか。ハーンブルク家が使者を寄越した理由が書いてあるかもしれん。」


そう言って、男は先程手渡された書状を広げた。すぐに目を通す。


そして、男はその内容に、思わず驚きの声を上げた。


「まさか・・・・・・」


「いかがいたしましたか?」


「この書状によると、ハーンブルク家は大陸西側における絶対的な優勢を確立したそうだ。そして、それの報告と同時に貿易の提案をして来た。」


「自分も、ギャルドラン王国とサーマルディア王国が戦争になったという話は聞きましたが、連戦な上数で劣るサーマルディア王国が勝ったのですかっ!」


サーマルディア王国とギャルドラン王国の間で戦争が勃発し、その同盟国同士の間でも連鎖的に戦争が始まったという情報は、もちろん帝国にも届いていた。

しかし、連戦な上、数で大きな差があるサーマルディア王国側が負けるだろうと帝国は判断した。


欺瞞ぎまん情報の可能性は?」


「いや、それは無いだろう。第一、我が国に嘘を言ってどうする。おそらくこれは、事実だろうな。」


「・・・・・・」


「おそらくハーンブルク家は、サーマルディア王国とギャルドラン王国に正面から殴り合いをさせて、両国の力が弱まった隙をついて勝利を掻っ攫ったのだろう。西大陸全体を巻き込んで、確実で最大の勝利を得たのだ。」


ハーンブルク家の大まかな戦術は頭に浮かぶ。しかし、このプランでは弱っていたとはいえ敵の首都を攻撃するだけの軍事力が必要になる。

つまり、それだけの力をハーンブルク家単体で持っているという事だ。


「そんな事が・・・・・・」


「それと、おそらくこの書状の意味はそれだけはないはずだ。」


このタイミングでの使者、意味が無いはずがない。

それは・・・・・・


「まさか、牽制・・・・・・」


「あぁ、ハーンブルク家の力を見せつけるとともに、こっちには手を出すな、と宣言されたという事だ。ハーンブルク家の総大将は、14歳の子供という話だったが、全然子供じゃない。彼は、化け物かもしれない。」


その後、ハーンブルク家とガラシオル帝国の間で、貿易が開始された。軍事同盟は結んでいないものの、経済支援や武器の輸出入が可能となった。


そして、ハーンブルク家とガラシオル帝国の仲はだんだんと深まっていく。



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どうでもいい話



次話から、久しぶりのシュヴェリーンです。

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