第5話 参謀
バビロン宮殿の一角に作られた最高司令本部にて、俺は部下からの報告を聞いていた。
「報告しますっ!拠点の設営完了、被害は皆無なり、との事です。」
「そうか。ならこちらも予定通り、第二部隊と第三部隊の出撃準備を始めてくれ。ここからは、スピード勝負だ。」
「了解っ!」
南北に伸びたおよそ1000kmという長い戦線、ガラシオル帝国とパラス王国は、動員可能な全兵力を注ぎ込んで真っ向からの殴り合いを行った。数で劣るガラシオル帝国だが、前回とは違いパラス王国はかなり消耗していた。そしてさらに、突発的に発生してしまった戦争であったため、東方亜人協商からの支援がまだ行われていなかった。その為、不測の事態に備えて蓄えを用意していたガラシオル帝国が戦争を優位に進めていた。
対するパラス王国は、必死の攻勢に出ていた。蓄えの問題や先の敗戦で士気が下がっていたパラス王国軍は何としてもこの防衛ラインを突破する必要があった。ここで足を止めたり、敵に国境を突破されるような事になれば、国民の信頼を失う事になるので、それだけは避けたかった。
パラス王国軍の威力偵察から再び始まったこの戦争は、意図せずしてガラシオル帝国が優位を広げる展開となった。
「第二部隊と第三部隊の現在地は?」
「報告によりますと、第二部隊は現在『トモタカ』にて物資の積み込みを行っている最中であり、第三部隊はリバスタにて出撃命令を待っている所であります。」
「大軍の移動はやはり時間がかかるな・・・・・・」
ハーンブルク軍は新たに、師団制を導入した。約7000名の兵士を一つの大きな団体、師団として扱い、作戦行動などを行う形となった。ちなみにハーンブルク軍には現在8つの師団と4つの艦隊が存在しており、そのうちの6師団と3つの艦隊を投入する予定だ。
作戦は至ってシンプル、ガラシオル帝国に上陸して正面からパラス王国と殴り合うのではなく、ゼオン獣王国に降りて東側からパラス王国の王都に向けて一直線に攻撃するというものだ。
まずは先遣隊1師団をパラス王国の北海岸に上陸させて注意を引き、本命の第二部隊4師団を東から叩くという作戦だ。残った第三部隊1師団は先遣隊の援護をする予定だ。囮役となり、激しい攻撃を受けるであろう先遣隊を援護する役割だ。既にゼオン獣王には話を付けてあり、了承も得ている。
ちなみに、残りの2師団はジオルターンとリバスタに待機させてある。本拠地であるシュヴェリーンはガラ空きになるわけだが、累計500万人のハーンブルク領民とジア連邦共和国民が暮らす『黄金の三角地帯』を攻撃できるものならしてみろやって感じだ。海は世界最強の無敵艦隊『第一艦隊』が守っており、俺のSHSやユリウスのTKSETが四六時中飛び回っている。空から侵入しようとしても戦闘機が・・・・・・いや、戦闘機は飛び回っていない。ただ残念ながら、この世界にはハーンブルク領以外に航空機の技術を持っている国は存在しないので、そこは考慮しなくて良い。
「最優先すべき事は、早く方を付ける事だ。最悪の戦争を回避するには、これしか無い。」
「それが、パラス王国を敗北に追い込み、東方亜人協商を交渉に引っ張り出すという作戦なのね。」
「あぁ、東方亜人協商、特にファルティオン王国が本格的に援軍として参戦すれば、数の少ないハーンブルク軍では勝ち切るのが難しい。」
仮に、西方統一同盟vs東方亜人協商という最悪の戦争が始まったとしても、恐らく負ける事は無い。生産力が向上し人口が増加すれば、泥沼の戦争が始まる。おそらく後数年で戦車や爆撃機が完成し、東方亜人協商に対して圧倒的に優位な立場に立てる時が来る。だけどそれが完成しても、大陸の約半分を色塗りするのに果たして何年かかるかわからない。
というか、やりたくない。
【せっかくの人生の大半を、戦争に注ぎ込むのは誰だって避けたいですからね。】
「だから今なんだよ。これは、最後とは言わないけど戦争を避ける最大のチャンスだ。」
「なら、是非ともこのチャンスを掴まなきゃだわね。」
「あぁ・・・・・・」
と、そこまで話した所で俺は、ずっと引っかかっていた事を尋ねた。
「ところでイレーナ、何でサクラをここに連れて来てんだよ。」
「別に良いじゃない、赤ちゃんを連れ込んじゃダメってルールは無いはずよ。」
正面に我が子を抱き抱えたイレーナは、何を言っているの?と、驚くような顔をしながら答えた。いやいや、そっちこそ何してんの。
ちなみに、参謀本部に入る事を許可されている参謀やそれぞれの師団の代表、兵站や人事など各部門の代表達は、黙認していた。
まぁ、突っ込める人もいないわけだが・・・・・・
「いやいや、仕事場にまだ首が座っていない赤ちゃん連れてくる親がどこにいるんだよ。しかもここ、一応うちの軍の最高司令本部だぞ?」
「これは働き方改革よ。育児をしながら働く女性を増やしたいって、貴方言っていたじゃない。」
「そーゆー事じゃないでしょ。」
周りの部下達が、耐えきれなくなって笑っているのを片目に俺は突っ込む。
「誰も文句は言っていないから良いでしょ、それにこの子が可愛いんだもん。」
「確かにサクラは可愛いけどな・・・・・・」
この時点で、俺は自身の敗北を悟った。
何というか、場の雰囲気的に既に受け入れられている。赤ちゃんは最強なのかもしれない。
結局俺は、サクラの入室を認める事にした。
俺も、癒しが欲しかったからだ。
ちなみに翌日、女の子の赤ちゃんを連れて来た者がいたのは、別の話。
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どうでもいい話
同じく親バカなお嫁さん達4人でした。
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