第4話 援軍

「困った、非常に困った。」


「どうしたんですか、レオルド様。何かあったんですか?」


偶然、二人分の紅茶を持って来たクレアが口を挟んだ。なんというタイミング、ちょうどいいからクレアに軽く相談してみることにした。

背中越しで、会話を始める。


「次の戦場は、ガラシオル帝国になるでしょ?今後の戦況を考えたらシュヴェリーンを離れて、ガラシオル帝国とまでは言わないけどトモタカ辺りにはいた方がいいんだよ。だけどそんな事したら・・・・・・」


「カエデに会えなくなるって事ですね。鉄道が開通したとはいえ、やはりまだ距離がありますから・・・・・・」


ハーンブルク領のような通信手段を持っていないファルティオン王国は、今回の一件に対して対応する手段は限られている。その中で最も可能性が高い選択、それはシンプルに援軍を派遣する事だ。多少のイレギュラーは起こるかもしれないが、首を突っ込んで来る事は間違いなかった。

そうした時に、迅速に対応するためにはどうすればいいか。答えは実に簡単だ、俺ができるだけ近い位置にいればいい。

だけどそうなれば、俺はまた家族の下を離れなければならなくなる。


「あ~あ、今ほど瞬間移動魔法を使えたらなと思った事はないな・・・・・・」


「レオルド様が、そんな非現実的な話をするなんて珍しいですね。誰よりも現実的なお方なのに・・・・・・」


「俺の事をそんな風に思っていたのか?」


自分で言うのもなんだが、俺は結構理想主義だと思っていた。第一に俺自身が、異世界からの転生者であり、ファンタジーの塊のような存在だ。もちろん、神様だって信じているし、勇者や魔王だっていると思っている。

だけどどうせなら、もうちょっとチート要素のある転生がしたかったなという思いはある。


【私じゃ不満なんですか、マスター】


い、いえ、全然全く、そんな事はございません。

いつもお世話になってます、わりとまじで。


「ふふふ、ごめんなさいレオルド様。だけど私としては、カエデの為にも私たちのためにも、頑張ってきて欲しいと思っています。」


「クレア・・・・・・」


俺が後ろを振り返ると、彼女は俺の事を後ろから優しく抱きしめた。優しい香りが、俺の鼻口をくすぐる。

これが、妻と子を残して単身赴任する父親の気持ちなのだろうか・・・・・・

寂しいけど、これが俺のやるべき事だ。ハーンブルク家の当主となった以上、こうなる事は覚悟していた。


・・・・・・メイ悲しくないもん。


俺は男だ、これぐらいっ!


【素晴らしい決意を表明していただいた所申し訳ございませんが、別にマスターがトモタカに行く必要はありませんよ。】


え?


【何のために電信技術と鉄道網を発達させたと思っているんですか、マスター。】


そりゃあ、物流を良くして人と物の流れを充実させるためじゃ・・・・・・


【それもありますが、マスターがシュヴェリーンから指示だけ出していても大丈夫なようにするためでもあります。】


た、確かに・・・・・・

よくよく考えて見れば、俺行く必要なくね?


【ご安心下さいマスター、今のハーンブルク領であれば十分可能でございます。確かにマスターは現地にいた方が判断力が高いというデータがありますが、今回は仕方ないですね。】


俺のさっきの決意は何だったんだろうか・・・・・・

うん、もう気にしない。


「家族の団欒を楽しむぞー」


「怠けてばっかじゃダメですよ、レオルド様」


早速俺は、遠征部隊の編成と指揮系統の再確認を行った。

ちなみに、シュヴェリーンに残る選択をしても、仕事の量は変わらないどころか増えた。

いつもの業務+戦争指示をするんだから当たり前な話だが・・・・・・

というか、何だったんだよこの茶番。


【全く、私を軽視するから、こうなるんですよ。】


俺が、政務に追われている後ろで、アイがそんな事を呟いた気がした。





「報告します。指示通りハーンブルク軍の先遣隊1師団が『トモタカ』に到着したそうです。体調不良による離脱者が1名出た点以外は特に問題なく到着したそうです。」


「そうか・・・・・・」


アイから軽いお叱りをいただいた日から1週間後、ついにハーンブルク軍の先遣隊が今回の作戦の前線拠点を置いた『トモタカ』に到着した。ここシュヴェリーンから指示を出しつつ、結果を待つ日々が始まった。


「予定通り第二艦隊は既に寄港しているため、休憩を取り次第乗艦し、パラス王国へと向かうそうです。」


「了解した、健闘を祈る、と伝えてくれ。」


「了解致しました。」


今回の作戦は、ひとまずハーンブルク領単独で行動する事にした。

西方統一同盟として支援する事になれば、戦争の規模が急拡大する事は避けられない。できるだけ、敵を刺激しすぎないようにしながら、相手の出方を伺う事にした。


ちなみに、ハーンブルク海軍の第二艦隊を構成する6隻の軍艦には全て無線装置がついており、『トモタカ』を経由していつでもここシュヴェリーンや他の軍艦と連絡が取れるようになっていた。

今回は、固まって動くのではなく、戦艦の強みを活かしてまるでローラーのようにパラス王国の北海岸を制圧予定だ。もちろん、ただ襲撃するだけでは無い。

彼らには、隠密作戦が求められた。


____________________________________

どうでもいい話


茶番回でした。

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