第6話 手法

「想像よりも忙しいな、この生活・・・・・・」


俺は最近、バビロン宮殿にいるからといって平穏な生活を送れるというわけではないという事を改めて実感していた。次々に飛んで来る報告、それを目の前の地形図と手元の資料を参考に、情報を処理する。

部下に指示を出して駒を動かさせたり意見を聞いたりしながら、最善手を模索した。


「第203大隊、予定通り第8目標ポイントを制圧、休暇を取り次第、第14目標ポイントへと急行する予定です。」


「了解、そのまま頼む。」


「第211大隊、第7目標ポイントの制圧に苦戦、現存兵力でも時間を掛ければ制圧が可能だが、可能であれば援軍を求むとの事です。」


「待機中の第217大隊を応援に行かせろ。任務完了し次第、第217大隊は前線基地へと一時帰還、第211大隊は予定通り次のポイントへ迎え。」


「了解、そのように伝えます。」


「ふぅ〜」


俺の脳は、過去最高レベルに疲労していた。

現代で言うところの軍事用コンピューターのような役割を担い、ほとんど寝ずに脳をフル回転させる日々が続いた。

最初のうちは、シュミレーションゲームをやっているようで面白かった。しかしすぐに、それが間違いである事に気付かされた。ゲームのシュミレーションゲームよりも、段違いで難しい。そして何より、盤上にある駒が実際の人間であるという事実が、俺を苦しめた。

戦場であれば、俺という個の力を使った強引な突破もできるが、今回はそうはいかない。

無線通信機は存在するが、各小隊ごとに渡せるほどは小型化はされていない。そのためハーンブルク軍では現在、大隊ごとに通信機器を渡している。基本は大隊ごとに動いてもらい、大隊長はその通信機器を使って周りと連絡をとったり最高司令本部と連絡を取ったりする事ができる。

これによって、ハーンブルク軍の作戦遂行能力は格段に向上していた。


「だいぶお疲れのようですね、レオルド様。紅茶をお持ちいたしました。」


「あぁありがとう、ヘレナ。」


紅茶を受け取った俺は、それを一度で飲み干した。そして、一時期意識が飛びそうになっていた事を思い出した俺は、今の身体の状態をアイに尋ねた。


【現在の私の稼働率は67%、このまま行けば1分毎に1%ずつ稼働率が下がり、稼働率が20%になった段階で身体保護のために睡眠状態へと移行する予定でした。この辺で休息をとる事をお勧めします。】


ここまで何も食べずに8時間ほど格闘したので、そろそろ限界が近いとは思っていたが、その通りだったようだ。先ほどまではずっと80%台を保っていたが、どうやら結構危ない状態に差し掛かっていたようだ。

ここは、アイの言った通りに休息をとった方がよさそうだ。そう判断した俺は、早速休息をとることにした。


「俺は一旦席を外す、何か問題があったら非常ボタンを押すか、メイドを通して連絡してくれ。」


「「「了解しました、お疲れ様です!」」」


人間は、一日のうちに3時間程度の睡眠で活動できると聞いた事があるが、実際その通りであった。ちなみに、俺以外のメンバーは4チーム12時間制で働いており、俺だけは疲れたら寝るという生活を送っていた。もちろん大変なのは俺の方だ。こんな無茶苦茶な生活を続けられたのはアイのおかげという部分ももちろんあるが、俺の一番の心の支えは妻達と子供達だ。俺は、家族のおかげで今日も頑張れる。





「お身体は本当に大丈夫なんですか?」


「あ、あぁ、もう何ともないぞ。昨日の夜はかなり、いやちょっと危なかったがもう何ともない。ある程度回復した。」


「もう少し自分の身体を大事にして下さい、レオルド様。」


心配そうな顔をしながら、ヘレナは俺を優しく抱きしめた。彼女の温もりに触れた直後、俺は奇妙な感覚に襲われた。全身の筋肉の緊張が一気に緩まる感覚、こんなに身体が悲鳴をあげていたのか、と改めて思った。

あんまり無理はしない方がいいらしい。


「ふふふ、やはり相当お疲れだったようですね。良かったらここ、使って下さい、レオルド様。」


俺を心配したヘレナは、膝に手を当てながらそう言った。どうやら、久しぶりに膝を貸してもらえるらしい。まぁ、久しぶりといっても3日ぶりといった所だが・・・・・・


「じゃあお言葉に甘えて・・・・・・」


「どうぞ。」


俺は、ヘレナに甘える事にした。

そしてそのまま目を閉じて、意識をだんだんと薄めていく。

きっと、寝心地は最高だろう。





「・・・・・・眠ってしまったみたいですね。」


「ありがとうございます、ヘレナさん。」


「いえいえ、妻として夫の疲れを癒すのは当然の事ですよ。」


気持ちよさそうに眠る夫の寝顔を眺めながら、私は彼の頭を優しくなでた。


「私としても、息子は最近頑張りすぎている気がしていました。いくら、アイさんのサポートがあっても精神へのダメージはかなり大きいはずです。だからこれからも、貴女が私の代わりにあの子をサポートしてあげてください。」


「はい、わかりました、お義母様」


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どうでもいい話


新PC、中々に優秀

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