第9話 和睦
「では、まずはそちらの要望を聞きましょうか。」
「ハーンブルク家と和睦をしたいと思い参上いたしました。」
俺やイレーナ、クレア、その他の幹部達に囲まれながら、ラトシア王国軍の将軍を名乗る人物は言った。
は?和睦だと?
そっちが先に戦争を仕掛けて来たのに何様のつもりだっ!
っとここは怒るところかもしれないが、俺はそんな事はしない。もっと、寛大な心を持って、
「は?何言ってんの?」
有意義な交渉をしようと思ったら、イレーナがそれをぶち壊した。
鋭く、突き刺さるような視線で敵の将軍さんを睨み付ける。
正直俺も超怖い。
というか周りの幹部たちも若干引いているぞ。
あいつの夫となる人は苦労するだろうなぁ・・・・・・
【自分の事ですよ、マスター】
そうだったわ。結婚してるんだ、俺たち。
黙る将軍に対して、イレーナはさらに続ける。
「あなた、私たちハーンブルク家を馬鹿にしているのかしら。」
「い、いえ、決してそういうつもりわ・・・・・・」
「ここに来るだけでものすごくお金がかかっているの知ってる?もちろんその分も賠償してくれる、という事なのよね。」
「そ、それは・・・・・・」
「私はそんなに詳しくは知らないけど、あなたの国の国家予算何年分かしら・・・・・・」
今回の戦争にかかった費用は、ジア連邦共和国と合わせてると3兆マルクほどに上り、ラトシア王国の国家予算がどれぐらいか知らないが、間違いなくそれを上回ると予想された。
もちろん、イレーナもその事をわかっていて言っているのだろう。
このままイレーナに闘わせたら色々と不味そうなので、俺も口を挟む。
「それじゃあ、和睦の条件を聞こうか。」
「は、はい。我々の要求は戦闘行為の中止及び今後の戦争行為の禁止です。これを約束していただければ、我が軍は撤退し、デルミアン要塞を明け渡しましょう。」
普通ならばここで領土の割譲や賠償金を支払うなどして、矛をおさめてもらうものであるが、ただの将軍である彼にそれを決める権限は無かった。
そこで提案したのが、既にハーンブルク軍に占領されているデルミアン要塞を譲渡するというものであった。
しかしもちろん、それでハーンブルク側が納得できるはずがない。
「え?それだけ?」
俺は驚きが隠せず、思わず素で答えた。すると、ラトシアの将軍は、慌ててもう1つ追加した。
「く、加えて、私が自決をしましょう。」
「は、はぁ・・・・・・」
いやマジかよ。この世界にもあんの?死んで償う的な・・・・・・
死亡保険的なやつに入っている人が借金を返すために保険金目当てで首を吊るのはまだ何となく理解できたけどこれは無いわ・・・・・・
【この男の命にそれほどの価値があるとは思えません。是非別の案を出してもらいましょう。】
だよな。
「残念ながら、その条件で我々が合意する事はありません。」
「では、どのような条件をお望みで?」
「そうですね・・・・・・ラトシア王国の西半分を割譲するか、賠償金を4兆マルクつまり金2トン分を支払うかとかでしょうか。」
2トンという数字がどれほどのものか知らないかもしれないが、俺は伝えた。これには、ラトシア王国が提案した交渉に、簡単に応じるつもりはないという意味も含まれている。
【エラリア王国とグニルタ公国の連合軍が、現在進行形でラトシア王国の首都に進軍中です。それに間に合うように撤退しなければならないとなると、敵は遅くても明後日までにはここを出発しなければなりません。つまり、時間は我々の味方という事です。】
というわけで交渉を引き伸ばしまくって、こちらの無茶な提案を通させようという作戦だ。
そしてこれは、敵に対して効果バツグンであった。
「国土の半分ですとっ!」
将軍は驚きの声をあげた。まぁ当然だ、一応ラトシア王国はまだ負けていない。そして、この条件では敗戦国と何も変わらないからだ。
それに対して、俺はゆっくりと落ち着いた口調で話した。
「えぇ、やろうと思えば我々はラトシア王国全土併合も可能なのですよ。」
「うぅ・・・・・・」
「不平不満があるのならば、是非代替案を考えて来て下さい。また明日、お会いしましょう。」
「は、はい・・・・・・」
俺は早々に会議を終了させると、ラトシア王国の将軍に帰るよう命じた。
もちろんわざとだ。
おそらく彼は一晩中考えて、結局また何も思い付かずにやって来ると思ったからだ。
人間は、焦れば焦るほど、時として愚かな選択をしがちである。
そして、交渉開始から3日後、案の定ラトシア王国の将軍は、国土の半分を割譲する事を決めた。ただし条件として、これは正式なものではなく、ハーンブルク軍とラトシア王国軍の間で結ばれた秘密条約のようなものとなった。
✳︎
その後、条約通りラトシア王国軍は撤退を始めた。
その様子を見届けながら俺たちは、デルミアン要塞に戻り、今後の予定の話し合いを行った。
「よかったの?ラトシア王国軍と交渉するという形にして・・・・・・」
今回の和睦によって決まったのは、割譲された西半分にはラトシア王国軍が侵入しない、というものだ。
当然、王宮やこの地を治める貴族達にはその情報がいっていないわけで、あの将軍も王宮にこの事を報告しないだろう。それどころか・・・・・・
「間違いなく、戦争が終わったら攻めて来るだろうな。」
これは予想というより、確信に近い。大方、どこかの国みたいに知らぬ存ぜぬで怒り出すだろう。
「どうするのよ。」
「まぁ、ラトシア王国が健全であればの話だ。」
「っ!なるほどね・・・・・・でも万が一、ラトシア王国が勝ったら?」
「勝たせないために、軍事支援と義勇軍を派遣するさ。」
今回決めたのは、直接的な攻撃のみだ。グレーかもしれないが、ハーンブルク家が支援しているかどうかなど、ラトシア王国がわかるわけがない。
俺はクレアを中心とした義勇軍を、エラリア王国経由で派遣する事を決めた。
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どうでもいい話
小説家は基本的に『かまちょ』だと思っています。
構って〜〜
あ、それと130万PV達成しました。
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