第8話 混乱

レオルドがエラリア王国からの使者を迎えている頃、ラトシア王国軍の本陣にも使者がやって来ていた。

しかしこちらは、ラトシア王国の王都からであった。


「将軍っ!今すぐ退却して下さいっ!」


「どういう事だ?」


使者の男は、身を乗り出しながら言った。彼の慌て具合がよくわかる。


「裏切りですっ!」


「待て待て、そう慌てるな。何があったのか順番に話してくれ。」


ラトシア王国軍の将軍は、慌ててやって来た使者を宥めながら尋ねた。


「はい、先日エラリア王国とグニルタ公国がまるで示し合わせたかのように同時に我が国の王都に侵攻を始めました。」


「何だとっ!」


使者からの情報は、将軍にとってまさに寝耳に水であった。エラリア王国とグニルタ公国は互いに仲が悪く、牽制ばかりしていたが、まさか合同で侵攻してくるとは思わなかったからだ。

その時、将軍はある事に勘づいた。


「まさか、両国がハーンブルク家を通して同盟を結んだのかっ?!」


「い、いえ、そのような情報は得ておりません。しかし、ハーンブルク家とエラリア王国が同盟を結んだという情報は掴んでおります。」


エラリア王国の王宮は、ハーンブルク家(連邦共和国)との同盟成立を、大々的に発表した。

その事実は、周辺の国々にすぐに広まり、大陸北部のパワーバランスを一気に狂わせた。そしてもちろん、ラトシア王国にも同様の情報が入ってきていた。


「なるほど・・・・・・それで、国王陛下は何と?」


「はい。陛下より、すぐに王都に戻って来い、との書状を預かっております。」


将軍は、使者からの言葉を聞きながら、違和感に気づいた。何故か、話が噛み合っていない気がした。


「言いたい事はわかる、だがハーンブルク家の対処はどうするのだ?」


「ハーンブルク軍についてはデルミアン要塞にいる部隊だけで対処せよ、との事です。」


「そんな馬鹿な話があるかっ!我が軍からの使者が王都に届いていないのかっ!」


「どういう事ですか、将軍。」


大きな違和感の正体、それは両者の間に大きな情報の差があった事であった。


「デルミアン要塞は既に陥落した。そして、勢いに乗ったハーンブルクがすぐそこまで来ている。」


「そんなはずはない。あのデルミアン要塞ですぞっ!かつて10倍の兵力差すらも跳ね返してのけたと言われていた・・・・・・」


「事実だ。デルミアン要塞は、ハーンブルク軍に対してなすすべも無く陥落した。そして、何とか食い止めようとしている我が軍にも甚大な被害が出ている。」


将軍も、自分達の軍の状況はよくわかっている。恐ろしいほどの命中率と連射性を合わせ持つ敵の銃という存在に、味方の兵達のほとんどが戦意を失っており、脱走兵も何人か出ている。

特に、先頭に立って兵達を鼓舞する役割である指揮官の多くが戦死していた。

そして、ラトシア王国一の戦士と呼ばれていた若将軍も、敵陣に突撃して来ると言ったきり、戻って来る事は無かった。

勇敢な者が先に死に、臆病者が生き残った結果、軍の状態はどんどんと悪い方向に傾いていた。もちろん、将軍とて立て直しを図った。しかし、もうどうする事もできない状態にまで追い詰められていた。そんな時に舞い込んで来たのが、今回の国王からの書状だ、耳を疑わずにはいられない。



一方の使者の方も将軍の話に驚かされていた。

今回の戦争、話が最初に持ち上がったのは約1年前のこと、サーマルディア王国の戦勝から始まった。

大陸西側の覇権争いは、思わぬ形で終着し、世界に激震が走った。戦争によって領土変更が行われる事はよくあるが、片方が併合され片方も属国となるほどの大勝利は珍しい。

これに危機感を覚えたのは、周辺の諸国である。ギャルドラン王国を筆頭に、彼らはすぐさま大規模同盟を結んだ。そして、相互協力と相互不可侵を約束し、サーマルディア王国に対抗しようと動いた。

しかし、同盟を結んだはずのグニルタ公国とエラリア王国から同時侵攻を受けた。運が悪い事におよそ3万の兵を対ハーンブルク家用としてデルミアン要塞に送っており、王都の守備隊はどうかき集めてもわずか1000の兵と近衛騎士団(100名ほど)と武器を手にした事がない国民のみであった。

エラリア王国とグニルタ公国の連合軍は、およそ2万5000の兵力でどう頑張っても勝ちようが無かった。

そのため、何とか前線から兵士を王都に送ってほしいと考えていた。

もちろん、デルミアン要塞陥落の知らせは王都には届いておらず、予定通りハーンブルク軍の足止めに成功していると思っていた。

そのため、この事実に驚かずにはいられない。


「そんな話が・・・・・・」


「この書状が陛下からの命令である以上、儂は帰らねばならない。しかし、ハーンブルク軍にここを突破されれば元も子もないぞ。」


退却しても、どっちみち王都で再び迎え撃たなければならない。

しかもそうなると、エラリア王国とグニルタ公国とも同時に相手をしなければならないので、さらに厳しい。


こうなると、道は1つしか無いように感じる。

2人の会話を隣で聞いていた男が尋ねた。


「いかがいたしますか、将軍。」


将軍は目を閉じて静かに考える、ラトシア王国が生き残る道はどこかにないか・・・・・・

そして、決断した。


「やむを得ない、ハーンブルク家と和睦をしよう。彼らが引けば、エラリア王国とグニルタ公国も引くかも知らない。」


「わかりました、そのように手配します。」


「それと同時に、撤退の準備を始めろ。この戦争、我々の負けだ。」


ハーンブルク家の情報操作によって、ラトシア王国軍は大混乱に陥っていた。

指揮系統は崩壊し、脱走兵が後を絶たなかった。


数日後、ハーンブルク家とラトシア王国は和睦のための協議を開始した。



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