第5話 訪問

「久しぶりの王都ですね、レオルド」


「はい、そうですね。」


ゆっくりと街道を進む馬車の中から、外の様子を眺めながら答えた。

現在俺たちは、国王から招集を受け、王城へと向かっていた。

天気は曇りであったが、王城はとても賑わっていた。


話は1ヶ月ほど前に遡る。

ある日突然、ハーンブルク家に王都から使者がやって来た。

何やら王宮から手紙が来たらしい。


「お母様、王宮は何と?」


「戦勝記念のパーティーを行うから是非参加してほしいとの事です。おそらく、教国の問題にひと段落ついたのでしょう。」


「やはり、行かないといけないのでしょうか?」


俺が尋ねると、お母様は何か考えながら答えた。

おそらく王宮が貴族を招集した本当の理由を探っているのだろう。


「・・・・・・流石に今回は行かないといけませんね。戦勝記念という事で、全ての貴族を招待するようです。」


「わかりました、王都に向かう準備をします。」


「お願いします。それと、念の為SHSを使って、周囲の貴族の動向を監視して下さい。嫌な予感がします。」


「わかりました。」


数日後、先日完成した新たな『レインシリーズ』である『時雨』と『五月雨』を含む総勢8隻の大艦隊を引き連れて俺たちはリバスタに到着、そしてそこから馬車で王都へと向かった。


道中は大したトラブルもなく王都に到着した。強いていうならば盗賊に襲われたぐらいだが、襲う相手を間違えていると言わざるを得ない。

何事もなかったように退けた。


王都にたどり着いた俺たちは、自宅(別荘)で色々と準備を整えた後、王城へと向かっていた。

ちなみに後ろの馬車にはヘレナ様も乗っており、彼女も久しぶりに実家に帰れると、楽しみにしていた。

王都での暮らしよりもハーンブルク領での暮らしの方がご飯も美味しく、楽しい生活を送っていたが、両親が側にいない生活というのはやはり寂しい。

ハーンブルク領で暮らし始めてからもうすぐ4年の月日が経過するが、その気持ちはずっと変わらなかった。


また、同じ馬車にイレーナも乗っており、彼女もまた、久しぶりの王都を楽しみにしていた。


「やはり、街が少し廃れていますね。」


「はい、先の戦争における負担が大きかったのでしょう。もしかしたらこの光景を見せるために僕達をここに呼んだのかもしれません。」


「そんな事が・・・・・・」


久しぶりに訪れた王都は、少し変わっていた。かつての国内最大の都市は姿を消していた。

現在はかろうじて戦勝記念という事で活気があるが、所々に廃れた家や店が見える。

また、王都に住む国民の顔を見れば、ある程度どんな感じなのかわかる。


「家や仕事を失う者が増えているという報告が入っています。また、多くの商人がリバスタに流れた結果、人口も激減したそうです。」


「同情する気はありませんが、発展というのは恐ろしいですね。」


「はい、むしろ王都は良い方です。地方のあまり裕福でない貴族やその土地の領民達が重税に苦しんでいるそうです。」


お母様は他人に優しい。しかし、感情で動く人間ではない。

家族ならまだしも、赤の他人に手を差し伸べるような人間ではないのだ。


「なるほど、やはりそうなりましたか。となれば、今回の招集の目的は・・・・・・」


「はい、我々の予想通りでしょう・・・」



いつも通り顔パスで入城した俺たちは、執事の案内に従ってパーティー会場へと案内された。

既に多くの貴族がそれぞれパーティーを楽しんでいた。


俺たちが顔を出した直後、まるで俺たちを待っていたかのように多くの貴族達が俺たちの周りへと押しかけた。


「お久しぶりでございます、エリナ様。この度は戦勝おめでとうございます。」

「お久しぶりでございます、エリナ様・・・・・・」

「エリナ様、戦勝おめでとうございます・・・・・・」


と、このように多くの貴族が俺たち一行の周りに集まった。そして、彼らは決まってこう言うのだった。


「「「是非私の娘を、ご子息様の妻に・・・・・・」」」


・・・・・・どこかで見た事がある光景だな。


【地方の貴族からすれば、今回のパーティーは有力な貴族と繋がりを作る数少ないチャンスです、我慢して下さい。】


予想通り、か。

ハーンブルク領の入領審査はザルだ。何せ領土が広い上、島ならともかく陸路全てをカバーするのは不可能だからだ。

しかし、これが貴族となれば話は別である。貴族の掟の1つに、他人の領地を通る時は連絡をした上で許可をもらわなければならない。場合によっては通行料を取られる事もあり、色々と面倒くさい。

そして、お母様は基本的に貴族に対して通行を一切認めなかった。


そこで、普通なら貴族達は商会から欲しい物を買ったり頼んだりといった事を行う。

だが、ハーンブルク領と取引がしたいなら本拠地をハーンブルク領にしなければいけなく、ハーンブルク領に本拠地がある商会は、王都などの大都市ならばともかくわざわざ地方の貴族の領地を訪れるのは稀だ。


さらに、仮に商会が地方の都市を訪れたとしても、そこでの取引は相場の数倍の値段で行われている。

もちろん、これはハーンブルク家からの指示で行われているわけではないが、輸送費を考えるとそれぐらいが妥当だ。


トラックや航空機が無いこの世界では、人や物の移動は時間がかかる上、常に危険と隣り合わせな命懸けの仕事だ。


このような理由から、地方の貴族は大金を支払って商会を自分の領地に呼び寄せる。そしてそのお金はハーンブルク家の懐に入ってくる。

当然、全て計算通りであった。



ちなみに俺の隣には、常にヘレナ様とイレーナがまるで番犬のように結婚を申し込もうとする貴族達を睨んでいた。


「つまり、ユリウスが標的になったという事だ。」


「解説していないで、助けて下さいよ、兄さん」


俺の天使であるユリウスは、弱々しい声で俺に助けを求めた。


「頑張り給え、大人になるための試練ってやつだ。」


「そんなぁ・・・・・・」


ユリウスに試練を与えつつ、俺は目的の人物の下へ歩いていった。


______________________________


どうでもいい話


更新時間がズレた時は、

あのバカボタン押し忘れているな、

って解釈して下さい。

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