第6話 音楽
薄暗いパーティー会場に流れる優しい音楽に合わせて、多くの男女が社交ダンスをしていた。
演奏されている曲はこの世界独自の曲だが、使われている楽器はハーンブルク領ウィートンで作られたピアノだ。
数年前に王家にピアノを売ったところ、大好評で色々な貴族や商会に是非売ってくれと言われた。現在ウィートンでは、1週間に2台ほどのペースで作られ、ぼったくりな値段で王都で売られている。本体も高いが、メンテナンス代も取っているので実はボロ儲けしている。
特に、自称音楽に理解がある貴族達はいい鴨だ。
また、社交ダンスは王都に住む貴族の数少ない娯楽の1つであり、ハーンブルク領産のピアノを持っていないだけで下に見られる風潮ができつつある。
特に、領地を持たない貴族である宮廷貴族の間では社交ダンスはとても重要だ。
そして、俺はその美しい音色に耳を傾けながら・・・・・・
「楽しいですね、レオルド様」
「は、はい、そうですね。」
そんなパーティー会場の一角で、俺はヘレナ様とペアを組んで簡単な社交ダンスをしていた。
あの、俺ちょっと重要な用事が・・・・・・
なんてセリフはもちろん言えない。
向かおうと思ったらすぐにヘレナ様に捕まった。
「私、ずっとこの時を楽しみにしていました。愛する人とダンスを踊るのが夢だったんです。」
「私もヘレナ様と踊れて嬉しいです。」
とりあえず笑顔で返しておく。
ヘレナ様がずっと部屋に引きこもっていたのは昔の話、今では普通に生活している。
だが、言われてみればヘレナと踊るのはこれで2回目だ。
【マスターは毎回あの手この手を使って回避していますものね。】
そこは言わんでいい。
だいたい元現代日本人の俺に社交ダンスなんか求めるな。基本的に1回寝たら全部忘れるんだよ、こっちは。
何ならこんな感じのパーティーだって久しぶりなんだぞ。
【その割には上手に踊れていますね。】
たまたま?
時間が余った的な?
まぁたまには一緒に踊ってあげるのも悪くないかなって・・・・・・
【男性のツンデレは需要ありませんので茶番に走らずにダンスに集中して下さい。】
はいはい、わかっていますよ。
そんな事を頭の中で考えていると、何故かバレた。
「レオルド様、今他の事を考えていたでしょ。今は私に集中して下さい。」
「は、はい・・・・・・」
音楽はゆったりとした曲調からだんだんと速くなっていった。
ちなみに楽譜などは、前世同様ドレミファソラシドで統一してある。
元々あった曲なども全てハーンブルク領の音楽家が楽譜に起こしてくれた。
これのおかげでピアノの販売が促進したのでありがたい限りである。
数分後、最初の曲が静かに終わった。直後、会場内は凄まじい量の拍手に包まれる。
俺たちは、お互いに見つめ合いながら、息を整えた。
「一生の思い出になりました、レオルド様。」
「はい、私もすごく楽しかったです。たくさん練習した甲斐があったな。」
「はい///」
とびきりの笑顔でそう微笑んだ。
1つ歳上の彼女は、大満足であったようだ。
そして、この熱気によるものか、少しお互いの顔が赤い気がした。
なんだかんだで楽しんだダンスが一区切り付き、あの人の所へと向かおうとした時、俺は何故かある女に捕まった。
「いやぁ〜レオルド様、こんな所で出会える何て光栄です。」
「いや何でいるんだよ、お前。」
「はい、先日の『リング通り』で行われたコンテストで優勝した事が評価され、演奏家として今回のパーティーに招待されたんです。」
彼女の名前はミレヴァと言って、元はただの領民であったが、テラトスタに作られた高等学校を主席で入学した天才で、その才能を是非とも科学の発展に貢献してほしいと思っていたら何故か入学当初から音楽の道に進み、翌々年にウィートンで行われたピアノのコンテストで優勝し、ハーンブルク領一のピアニストの座を手にした。
ショートカットの茶髪に整った容姿を持つ彼女は、黙っていれば美人だと思う。
ちなみに、シュヴェリーンの主席はマッドサイエンティストのアインだ。
「そうだレオルド様、何か曲を披露して下さいよ。」
「やだよ、俺下手だし。」
「そんな事言っちゃって〜本当は超上手い事知っていますよ?」
「うぅ・・・・・・」
この通り、こいつには人を敬うという事ができない。誰にでもフレンドリーなのはいい事だと思うが、王族も参加するパーティーに参加させるのはいかがななものか。
人選ミスってるだろ。
【ですが、彼女の音楽が素晴らしいのも事実です。この年齢でこのレベルまで上手くなるのは異常です。間違いなく歴史に名を残すピアニストになると思います。】
そうなんだよなぁ〜
こいつピアノに関してだけは神なんだよなぁ〜
【神という存在を、軽々しく口にしない方がいいですよ。】
はいはい。
「で?俺に何を弾かせたいんだ?」
「どうせなら連弾しない?ほら、この前レオルド様に楽譜をもらったあの曲、練習したけど私と合わせられるピアニストがいなくて弾けてないからさぁ〜どう?」
「はぁぁ・・・・・・しゃーないやるか。」
「その意気だよ、レオルド様」
俺たち2人は、注目を集めながらピアノの前に立った。
そして2人でお辞儀して椅子に座る。
椅子は1つなので、普通は2人で座るとなると少し狭いが、俺はまだ10歳なので少し余裕がある。
鍵盤に手を当てる。
じゃあ頼んだぞ、アイ。
【了解です、マスター。】
P・チャイコフスキー作曲
『くるみ割り人形』
俺たちは、弾き始めてから1秒とかからず、会場全体を一瞬にして虜にした。
そして多くの人が、社交ダンスを踊るのを忘れ、聴き入っていた。
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どうでもいい話
私あるあるですが、全く物語が進まずに終わってしまいました。
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