第5話 造船

数日後


 

「ふ〜ふふ〜ん」


電車から降りた際、久しぶりに2人きりに成れたからか、彼女はご機嫌なようであった。

誰もが思わず見入ってしまうような真っ赤な髪を持つ少女は、俺からの視線に気づいたのか、一度その場に止まり振り返った。


「何よ。」


「いや、別に。鼻歌歌っているの珍しいなって思っただけだよ。」


「は、はぁ?べ、別に歌ってないわよ。」


「嘘つけ。」


「ま、まあいいわ。さっさと行きましょ。」


少し顔を赤くしたイレーナは、俺から目を逸らしながら言った。

そして、俺の左手を取ると自らの方に引き寄せた。

そしてそのまま・・・・・・


「お、おいっ!」


俺の忠告を無視して正面から抱きついて来る。


「ふふふ、最近私に構ってくれなかった罰よ。」


抱きついたまま、イレーナは嬉しそうに笑った。ちなみにだが、今日は朝からずっとこの調子で、電車の中でもずっとイチャイチャしっぱなしであった。

だけど・・・・・・


「あ、あぁ・・・・・・えっと・・・・・・一ついいか?イレーナ」


「何よ。」


「ここ駅のホームだから周りから丸見えだぞ。」


「え?」


俺の言葉を聞いたイレーナは、顔を出すと慌てて周りをキョロキョロと見始めた。

そして、だんだんと状況を理解し始める。


「なっなっなっ、何で言わなかったのよっ!ばかっ!」


イレーナの顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。それを隠すように、イレーナは俺を強く抱きしめた。


これが前世なら、動画撮られた上でSNSで拡散されるだろうなぁ〜

ほんと、今思えば凄い時代に生きていたよな〜

と、そんな事を考える。


「あんまり馬鹿って言っていると馬鹿になるぞ。」


「あんたに言っているのよっ!」


「じゃあ離れるか?」


「いやっ!このままがいい。」


「はいはい、わかったよお姫様。」


俺は自身に身体強化をかけると、わがままお嬢様を抱っこし、駅前に停めてあった馬車へと運んだ。

馬車に乗る直前、連れて来ていた文官の1人が言った。


「レオルド様、この出来事を明後日にハーンブルク新聞の記事にしてもよろしいでしょうか。」


俺がどうしようか少し悩むと、答える前にイレーナが口を挟んだ。


「ダメに決まっているでしょっ!」


「いや、いいよ。最近は戦争ばかりだったしたまには楽しいニュースも必要だしな。」


「ちょっとレオルドっ!」


「ありがとうございますっ!レオルド様。明後日のハーンブルク新聞を、是非楽しみにして下さいませ。」


「いやっーー!」


イレーナの悲鳴を聞きながら、文官の女はお辞儀すると、上機嫌に去っていった。

おそらく明後日には、イレーナの恥ずかしい記事が新聞に載り、領民に広まるだろう。



✳︎



シュヴェリーンから6つ目の駅『クューレ』で降りた俺達は、馬車を使ってある場所へと移動した。

それは・・・・・・


「いや〜久しぶりにここに来たけどすごいねぇ。」


「そ、そうね。」


馬車の中で心を落ち着かせたイレーナであったが、今もしっかりと俺の左手を握っていて離さなかった。


ここ『クューレ』には、ハーンブルク海軍の基地と造船所が建設されている。海軍の本拠地はシュヴェリーンにあるが、基本的な作戦の立案などはここで行われている。

また、バビロン宮殿並みの大きさの基地の周囲には、たくさんのハーンブルク家を示す旗が掲げられていた。


「ようこそいらっしゃいました、レオルド様、イレーナ様。」


「あぁ、元気そうだな、ヨルク。」


「はい、レオルド様も元気そうですな。」


元は漁業研究班のリーダーとして活躍していたヨルクであったが、今ではハーンブルク海軍のNO.5ぐらいの立ち位置にいる。

ちなみに研究班は海軍に取り込まれた。


「んじゃ、お偉いさんへの挨拶とか面倒だから早速例の場所に案内してくれ。」


「わかりました。おい、お前ら!例の場所にレオルド様を案内するぞっ!」


「「「おうっ!」」」


・・・・・・凄い一体感だな。


なんというか、ハーンブルク海軍、特にヨルクの近くにいる者達は熱血な奴が多い。

それとマッスルな奴らも多い。


彼らに先導されながら、俺達は造船所へと向かう。

途中で、基地内を警備している若い2人組の軍人が目に入った。

それぞれ『M-1』を装備しており、警備の高さが窺える。


「やぁ、ご苦労様。」


「「ありがとうございますっ!」」


俺が試しに声をかけると、2人はすぐに敬礼をして挨拶をした。

なんというか、軍隊って感じだ。


そしていよいよ、お目当ての物が見えて来た。


「こちらが、新型輸送艦『マウントシリーズ』の『富士』でございます。そして隣から順に『北岳』『穂高』『荒川』でございます。」


「素晴らしいっ!」


ハーンブルク海軍が抱える課題の一つに、輸送艦が無い事が挙げられた。黒船などの輸送船を使うのも一つの手ではあるが、軍用の輸送艦が欲しいという要望がハーンブルク海軍から上がり、造艦される事となった。


『マウントシリーズ』には、前線に食料や弾薬、兵士を輸送する事が期待されており、強襲上陸を行うための強襲揚陸艦としての活躍も期待され、4艦とも既に完成していた。

今日、俺が訪れた理由は、『マウントシリーズ』の進水式を行うためで、あった。


「既に準備はできております、レオルド様。」


「そうか、では始めてくれ。」


「はっ。・・・・・・進水っ!」


「「「了解っ!」」」


合図と共に、4艦全てが滑るようにそして、ベール河へと進水した。

彼らが活躍する日は、そう遠くないだろう。





______________________________


どうでもいい話


メインヒロインはヘレナなのか、イレーナなのか、はたまた別の誰かなのか。

皆さんは誰推しですか?

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