第10話 圧迫

さて、問題が発生した。

正確に言うと、発生していた。



家族揃って夕食を食べ、後はもう寝るだけという状態で、俺は部屋で1人考え事をしていた。正確にはアイがいるので2人だが・・・・・・


久しぶりに入ったバビロン宮殿の風呂で、お母様から聞いた情報を頭の中でまとめる。

簡単に説明すると、テラトスタの地価と物流がやばい事になっているという話だった。


原因は実に単純だ。


ハーンブルク領、特に首都シュヴェリーンを含むハーンブルク鉄道の駅の周辺の人口が爆発的に増加した事と、周辺の様々な商会がテラトスタやシュヴェリーンに本拠地を移した事によって、地価は高騰し物流が圧迫された。

話によると、元々は急行を走らせるために作った内側の2車線が、現在では完全に貨物用となっているにも関わらず支障が出ているそうだ。

もちろん、外側の2車線、つまり乗客を運ぶための線路を使おうという案もあったが、混乱を避けるために却下した。確かにそれならば、物流の問題はある程度解消できるかもしれないが、いずれまたすぐに問題が発生するだろう。


まぁそもそも、ハーンブルク鉄道1つで、もっと言えば路線1本でハーンブルク領全体をカバーするのが無理な話であったのだ。


さて、この問題はどのようにして解決すれば良いのか・・・・・・


【もう既に案はまとまっていますよ、マスター。というか、デュークス島に行く前に作戦を共有したじゃ無いですか・・・・・・】


実はそうなんだよなー。


今回の問題は、急に発生したというわけではない。ギャルドラン王国戦が始まる前から、少しずつ危惧されていた事であった。


ならばもちろん、対策も行い始めている。工事も始まっているし、お母様もそれを知った上で、早く完成させてほしいというお願いだったのだろう。


「じゃ、明日あそこを訪れてみるか。」


【わかりました。では今日はもう寝ましょう。明日から、やらなければならない事が山積みです。】


了解っ。

明日の事を想像しながら、俺は眠りについた。



✳︎



翌日、何故か朝起きた時に俺のベッドの中に入り込んで寝ていたヘレナの存在に驚きつつ、朝食を取った俺はヘレナ、クレアの2人+護衛を連れて、ハーンブルク領研究所を訪れた。

ちなみに、イレーナは今日、ユリアにハーンブルク領首都シュヴェリーンを案内してあげるそうだ。昨日も鉄道の中からチラ見していたが、きっとシュヴェリーンの凄さを知ったら驚くだろう。

何せ、いくつかの都市をゲットした事、ハーンブルク領内の出生率が上昇した事、移民を受け入れた事によって、現在のハーンブルク領の総人口は350万人を超えているそうだ。

これは、前世でいうところの横浜市ぐらいある。

やばすぎ。


話は変わって、俺たちが訪れたハーンブルク領研究所では、いつものあいつが俺たちを出迎えた。


「お久しぶりでございます、レオルド様っ!それと奥様。いや〜本当に大きくなられて、ハーンブルク家に仕える家臣の1人として、とても嬉しく思います。」


「おぅ、久しぶり。元気だったか?」

「お久しぶりです。」


「はい、それはもうっ!レオルド様のご厚意で、ハーンブルク家の家臣に加えていただいてからは、研究がさらに捗りましたっ!」


「そ、そうか。それは良かった。」


俺がデュークス島にいる頃、俺はお母様にお願いして、アインを家臣に昇進させた。

アインの、ハーンブルク家への貢献度は半端ない。彼をしっかりと囲うためにも、家臣にするのが一番だったのだ。

もちろん家臣になってからもやる事は大した変わっていないが、予算が増えたり、ハーンブルク家の名を使って実験ができたり、機材を使用する際の優先権を得たりと、研究の幅が広がったため、本人としては大満足らしい。

今までは、自分の給料などは全部研究費に当てていたそうだが、最近は顕微鏡などの研究の道具を買って母校へ寄付しているそうだ。

あれ?本当にあんまり変わっていない・・・・・・


そしてもちろん、1人で時代を数十年進めた天才は健全であった。


「じゃあ早速、頼んでいた物のところに案内してもらおうか。」


「はい、早速参りましょう、レオルド様。」


アインに先導されて、俺たちは作るように命じていた物のところに向かう。

すれ違った研究員達に挨拶をしつつ、以前にも訪れた大きな倉庫のような所に入る。

扉を開けると、開口一番にそれが姿を見せた。


「これが・・・・・・」


「はい、レオルド様が期待しておりました最新作、電気機関車でございます。」


「実用可能段階まで来たのか?」


「はい、最高時速はあまり出ませんが、安定した走りが可能となりました。こちら、ご存知の通り電気がある場所でしか活躍できませんが、60kmならばすぐにできましょう。」


「素晴らしい。」


例の問題を解決する手段として、俺はまずテラトスターシュヴェリーン間の電動化を行う事にした。

以前、テラトスターシュヴェリーン間に有線による電信を行うための設備を作ったやつを改良して、電動化を可能にしたのだ。


電気機関車についても、俺が与えたヒントと無線通信機すら作ってしまうアインの頭脳があれば1年あれば作れるだろうと考えていたが、彼は見事にその期待に応えてくれた。


「良くやったアイン、これでまたハーンブルク領は一歩前進する。これは全て、君が一生懸命に頑張ってくれたおかげだ、感謝する。」


「もったいないお言葉を、どうもありがとうございますっ!」


それから、アインに今後の計画を話しつつ別れを告げると、俺は次の場所へと向かった。


_______________________________


どうでもいい話


ちょっと前まで石油の話をしていたのに、ディーゼル機関じゃなくて電気かよって思った方いるかもしれませんが、

現実世界では、ディーゼルよりも電気の方が先に運用されたそうです。


石油は発電に使っている的な・・・・・・

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