第23話 来航

 黒船来航のアメリカ側の気持ち考えた事はあるかい?


 俺はもちろんない。だが、それを実際経験してみて、何とも複雑な感情に包まれた。

 まず、俺たちを一目見ようと領民たちがたくさん集まっていた。

『リバスタ』の方に、来航する事は伝えてあったが、もちろん領民にまでは伝わっていない。

 普通に暮らしていたら突然巨大な黒い船がやって来たのだ。そりゃあ、不思議に思って近づくだろう。

 そして、領民達は大騒ぎである。

「悪魔がやって来た〜!」と騒ぐ奴もいれば、「敵が攻めて来たぞ〜!」と騒ぐ奴もいる。

 だがこういう時、役に立つアイテムがある。

 それは・・・・・・


「おいっ!見ろ!ハーンブルク家の旗だぞ!」

「本当だっ!という事は味方なのか?!」

「味方みたいだぞっ!」


 旗というものは優秀である。

 ハーンブルク家を示す巻きついたような白と黒の龍が描かれた旗、この旗によって敵か味方かを区別するので、ハーンブルク領にある港を利用する船には必ず付けるようにさせている。

 戦争する時は、是非とも敵の旗を掲げて内部から崩してやりたいものだ。まぁ味方に撃たれるかもしれないが・・・・・・


 やがて、黒船級輸送船『テンペスト』は、『レバスタ』の港へと泊められた。


「思ったよりも早く到着しましたね。私の予想ではもう少しかかると思っていましたが・・・・・・これは世界が変わります。」


 お母様は、『テンペスト』のメインコントロールルームから外の景色を眺めながら呟く。

『テラトスタ』を出てから今日で7日目、同じぐらいの距離にある王都まで馬車で15日かかったのを考えると、いかに速いかがわかる。

 休憩が必要ない事や、夜の間も移動可能な事がこれほど早く着いた理由だ。

 ちなみに俺は、『レバスタ』に来るのはこれが初めてだったりする。そのため、黒船がどうこうよりも、街を早く見て回りたいという気持ちであった。お母様もここがハーンブルク領になってから初めて訪れたらしい。


「降りましょうか、お母様。」


「そうですね、1週間も海の上にいたので、流石に陸が恋しくなってきました。」


 だが、船を降りようとした俺達に待ったがかかった。


【マスター今のうちに黒船の今後の体制について意見の擦り合わせをしましょう。】


 えー船降りた後で良くね?


【周りに人がいない今だから聞ける事です。そして、並行して火器の運用についても聞いておいて下さい。】


 少し気は乗らないが、まぁ仕方ない。

 俺は、メインコントロールルームを出ようとするお母様を引き留めた。


「お母様、降りる前に一つだけ方針の擦り合わせをしましょう。この黒船ですが、量産を行う予定ですか?」


「・・・・・・悩みますね。量産したい気持ちもありますが、石炭の消費量が想像していた量よりずっと多いです。石炭の輸入を増やすか、増やさないなら4隻程がベストでしょうか。」


 非常に便利で優秀な黒船だが、中には羅針盤や蒸気機関といった、画期的かつ最新鋭の装置がたくさんだ。最悪、船ごと乗っ取られる事も考えられる。

 一応この船にも、武力に長けたSHSのメンバーが100名ほど在籍しているが、集団で囲まれたらどうなるかわからない。



「配備したいのはやまやまですが、蒸気機関を盗まれたくないので、2隻程度が妥当だと思います。それと、武器も配備させましょう。新型の兵器がもう少しで完成するのでそれを搭載する予定です。」


 まるで俺が答えたみたいになっているが、これももちろん『アイ』からの提案だ。

 蒸気機関が一般化されれば、ハーンブルク領の経済成長に悪影響を与えてしまう恐れがある。勢いが止まってしまうかもしれないというリスクを考え、蒸気機関は出来るだけ限定的に使いたいのだ。


「黒船の武装化ですか・・・なるほど、そのために大量の火薬が必要だったのですね。」


「はい、火薬を使った兵器の運用が、今後の方針です。」


「わかりました、許可します。それと、黒船の建造はこのテンペストを含めて4隻とします。その内の2隻は『シュヴェリーン』と『ミドール』にそれぞれ秘密裏に停泊させて、いつでも出撃できる状態にします。それにこの船、おそらくですが結構な頻度で整備が必要ですよね?」


「どうしてわかったのですか?」


 俺は思わず驚いた。そう、この船のもう一つ弱点は、こまめに整備する事が必要だ。

 最先端故の弱点と言ってもいい。

 俺がどうしてそこに気づいたのかを聞くと、流石な回答が返ってきた。


「ふふふ、私もただ新型の船に乗りたかった訳ではありません。私は自分達を守るための武器は、どんな武器でも一通り試すようにしています。計測なども自分でやった方が信じられますからね。それに、最大の理由は船長室に緊急自沈用のボタンがあった事です。」


 確かに取り付けてある。もちろん何重にもロックがかかっているが、確かにそれは俺が命令してつけたものだ。


「自爆スイッチがあるという事は、そのような状況に陥る危険性があるという事です。そして、その理由は・・・・・・」

「情報漏洩を防ぐためです。」


 お母様に被せて、俺は答えた。


「そういう事です。というわけで、鉄に余裕があるのであれば4隻作るべきだと思います。」


「ではそれでお願いします、お母様。」


 まさか、予備の戦艦を作る許可をもらえるとは思わなかった。しかし、これを活かさない手はない。


「火薬の方も私が何とかします。通常のルートではなく、極秘ルートを使って大量に輸入し、我が領が火薬を使った新兵器の製造を行っている事を秘密にします。」


「ならば、軍事拠点を作りませんか?兵器の実験なども行いたいので、領内に侵入禁止区域を作ってそこで集中管理するというわけです。」


「ふふふ、レオルドは面白い事を考えますね。その案も採用いたしましょう。特に最近はきな臭い噂が広まっています、いつ戦争になっても耐えられるだけの戦力は持ちましょう。王都から援軍が来てくれると言っても、それを過信しすぎてやられるのは弱者の選択です。」


「わかりました、お母様。」


 そんな結構大事な小話を交えつつ、俺たち親子は船を降りた。その後から、お母様の護衛達や俺の姉弟であるファリアとユリウスが降りてきた。

 ちなみにクレアもイレーナと同じように今日はお休みだ。彼女には、俺が監督を務めるサッカーチームのサポートをしてもらっている。

 しかしもちろん、家族で気ままな船旅とはならず、めっちゃ護衛がいる。

 これでは自由にできる時間は無さそうかなーと思いながら、新設された領事館に向かうのであった。


 その日は、例によってハーンブルク家の重役や家臣達による宴会が行われた。

 俺やユリウスのような子供組は、隅っこの方でそれを眺めていただけであったが、今日は『テンペスト』の初航海記念らしい。

 今日俺は初めて、自分の母親が酔うのを見たが、どうやらお母様はお酒に強いらしくあまり酔っていなかった。

 しかし部屋に着くとすぐに寝てしまった。



 ✳︎



 そして、次の日のお昼頃、そろそろお昼ご飯を食べようとした時に、あのお姫様がここ『レバスタ』に外遊にやってきた。


 ________________________


 どうでもいい話


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