第24話 暇様
一台の馬車が、『リバスタ』の街並みの中央を突っ切って、俺たちの前へとやってきた。
周囲には500名ほどの護衛がついており、その先頭には見知った顔の男が馬に乗っていた。
せっかくなので俺は彼女を出迎える事にした。
ちなみにお母様は、書類の整理に忙しく、ユリウスとファリアはこの街の探検に行くと言っていたので今は俺1人だ。お母様の方は、『リバスタ』に来たばかりなので色々とやる事があるので仕方がない。
「おうレオルド、元気そうだな。」
「お久しぶりです、お父様。」
馬から降りたお父様は、いつもの鎧を着ていた。護衛任務に、こんなに豪華な鎧は必要ないだろっと突っ込みたいところだが、知識と論理の牙城ならぬ、プライドと華やかさの牙城であるサーマルディア王国軍なので仕方がない。王国軍とはこうあるべきだ、という理想が先行している。
すると、この男は俺の後ろに控える黒船を指差しながら言った。
「それよりなんだよこれは、こんなの聞いてないぞ?」
確かにお父様にはこの船の事を伝えていなかったはずだ。王国に取り上げられる事はおそらく無いと思うが、難癖を付けられたら嫌なので黙っている事にしたのだ。
見ると、お父様のお供として付いてきた兵士達もそれぞれ驚いた様子であった。
「お父様、後でお母様が説明して下さると思うのでまず先に彼女を馬車から降ろしてあげて下さい。」
「おう、そうだったな。忘れていたぜ。」
振り返ったお父様は、馬車の方へと歩いて行き、その扉を開けた。
すると眺めてから1人の少女が飛び出てくる。
「長旅お疲れ様でした、ヘレナ様」
少し頭を下げながら、手を差し伸べる。
すると、彼女は微笑みながら俺の手を取った。
「ご機嫌よう、レオルド様。あの日からずっと、会いたいと思っていました。あの日はあまりお話しできませんでしたので。」
「そ、そうですか。」
とびきりの笑顔でそんな事を言われ、思わず次の言葉が出なかった。何というか、純粋で世間知らずなお姫様といった感じだ。
紫色のドレスに、胸の辺りまで伸ばした黒い髪がとても似合っている。似合ってはいるのだが、旅行行くとき普通ドレス着るか?
「お父様はここでお母様からの使者をお待ち下さい。」
「あぁ、わかったここで待っていればいいんだな?」
「はい、絶対に動かないで下さい。」
「ところでレオルド、その船には乗ってもいいのか?」
・・・・・・日本語が通じない。喋っているのは日本語じゃないけど。
俺3秒ぐらい前にここを動くなって言ったぞ。
「何もせずにお待ち下さい、お父様。動くとお母様に迷惑がかかりますよ?」
「わ、わかった。」
お父様は、しぶしぶ了承した。お父様にとってお母様は天敵であり、名前を出せばたいていの事をやってくれる。
はっきり言って便利だ。
俺は、ヘレナの手を取って、その場を去ろうと試みる。
「さぁ行きましょう、ヘレナ様。船を案内いたします。」
「是非お願いします、レオルド様っ!」
可愛い返事が返って来たので、俺は『テンペスト』を案内する事にした。
とは言っても、それほど周る場所は無いが、楽しんでくれたら幸いだ。
✳︎
「ここが、メインコントロールルーム、簡単に言うと操縦席です。船全体を見回せるために高いところにあります。」
俺は、『テンペスト』の見せてもいいところを案内した。動力源や武器庫などは見せられないが、羅針盤や舵取りなど見ても仕組みがわからないと思う物は見せても大丈夫だろう。
「確かにいい眺めですね、船は初めて乗りましたが素晴らしいですね。」
「あそこの大きな布に風が当たる事によって船が前に進みます。そしてここを回すと進む方向が変わります。」
「レオルド様は物知りなのですね、私が見たことない物ばかりです・・・・・・」
「私もあまり物知りではないですよ。この世界はまだ知らない事がたくさんあります。」
蒸気機関だけでなく、風の力も利用しているので間違ってはいないが、少し心が痛む。
俺と同じぐらいの年齢である彼女に、蒸気機関の大切さや仕組みが理解できるとは思えないが、できる事なら蒸気機関の存在を勘付かれそうな行動もしたくない。
この『テンペスト』でもその辺は徹底していて、動力についてはブラッグボックスになっている。
「他に見てみたいところとかはありますか?」
「これは今動かせないのですか?」
「動かせない事もないのですが、今は食べ物や鉄の受け渡しをしている最中なので難しいです。」
蒸気船は、その性質上、急に発進させたり停止させたりできない。やんわりと断っておく。
すると、予想外の返答が返ってきた。
「それなら、私もレオルド様と一緒にハーンブルク領へと向かってもいいですか?」
「はい?」
「実は私、一応王女の1人ではありますが、私は兄妹の中でもあまり仕事がない方で、暇なんです。是非私をハーンブルク領に招待していただけませんか?」
「ヘレナ様、お気持ちはわかりますが、ヘレナ様のお父上から許可をいただかないと・・・・・・」
「そこは安心して下さい、既にもらっております。」
すると、背後に控えていた護衛と思われる女騎士が、俺に一通の手紙を渡した。
嫌な予感がする。
受け取った手紙をその場で開き、黙読すると、恐ろしい内容が書いてあった。
いやらしいのは断れないところである。
例の宰相の入れ知恵だろうか、長期滞在をお願いして来た。
そしてこの手紙を渡すタイミングである、明らかに俺の回答を予想していた。一歳年上とはいえ、ただの暇なお姫様なのかと思っていたが、意外と頭が回るのかもしれない。
まぁ既にイレーナという爆弾を抱えているので、それが2つに増えただけと考える事にしよう。
「わかりました、ではお母様の許可をもらいに行きましょう。」
「はい、よろしくお願いします、レオルド様」
今日1番の笑顔でそう言われた。
ならば、このお姫様を利用する方向に調節するとしよう。
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どうでもいい話
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