第22話 side ヘレナ2
その日、私はいつもより早く起き、いつもより早く朝ごはんを食べ、いつもより早く部屋を飛び出した。
私は、専属の使用人達を引き連れて、目的地へと急ぐ。
私が支度を整えて、兵舎の前にやって来た時にはすでに出発の準備が出ていた。
「おはようございます、皆さん。」
「「「おはようございます、姫さま。」」」
私がやって来た事に気づくと、みんなは一斉に頭を下げた。
「か、顔を上げて下さい、ジルバート様。私はあなたの娘になるのですから、敬意を示さなくてもいいですよ。」
「いえ、そういうわけにもいかないのでして・・・・・・」
今回の旅の護衛として、国防軍幹部ジルバート・フォン・ハーンブルクとその部下500名が選ばれた。
将来的に私はレオルド様の妻になるわけだから、彼の娘になるという事だ。
私自身は、敬意を払われるような事をしているつもりはないが、一応王族の端くれなので仕方がない。
「ふふふ、わかっていますわ。今日はよろしくお願いします。」
「この命に代えても姫さまをお守りいたします。」
「期待していますね。」
私は、そう言ってから馬車に乗り込んだ。私はまだ馬に乗ることができないので移動は基本的に馬車だ。
そして私は、王都を出発し、王都の西にある港町リバスタへと向かった。
✳︎
レオルド様との婚約が決まってからというもの、私の生活は大きく変わった。
まず、私の下に色々な人が集まるようになった。どこかの貴族や商人、その子供達など数えたらキリがない。
私は、レオルド様がどんな人なのか気になった。一応、手紙を送ったりしたが、私の手紙が彼の手に届くまで早くても1週間ほどかかるのであまり話せない。
そこで私は城内にいる、彼の家族に印象を聞く事にした。
まず最初に聞いたのは、サルラックお兄様の婚約者となったスワンナ様だ。
彼女は、たいてい兵士に混じって訓練をしている事が多いので、すぐに見つけられた。
「レオルドの印象?」
「はい、あまりお話をした事がなかったので、どんな方なのかなと・・・・・・」
「ん〜一言で表すなら『天才』かな。」
「天才・・・・・・」
スワンナは、少し遠くを見ながらそんな事を呟いた。
「あいつはとにかく早かった。5歳も年上の俺より早く暗算ができるようになっていたし、魔力の扱いも上だった。はっきり言って悔しかったな、俺は女だし家督を継げないのはわかっていたが、何か一つでもあいつに勝ちたいって思った。」
スワンナは、素振りをしながら吐き捨てるように言った。
「結局、追い抜かれちまったけどな。まあ、俺はあんまり詳しくないからさ、お父様に聞きなよ。親目線だが、いい話が聞けると思うぞ。」
「わかりました、ありがとうございました。」
スワンナ様と別れた私は、次はレオルド様のお父様であるジルバート様の下へとかけつけた。
ジルバート様は、今まではハーンブルク領で暮らしていたが、レオルド様やユリウス様が大きくなったので、数年前に王都に戻って来たお方だ。おそらく王都で1番、レオルド様について詳しい。
「こんにちはヘレナ様、いかがいたしましたか?」
「本日は、レオルド様についてお聞きしたくて来ました。」
「レオルドですか?」
「はい、私はどのような方なのか知らなかったので、気になって・・・・・・」
私がそう尋ねると、ジルバートは少し考えてから答えた。
「そうですな、レオルドはすごいヤツですよ。俺はこの人生でこいつには敵わないと思った人は3人しかいません。その内の1人があいつです。」
「敵わない?」
「何と言ったらいいのでしょうか、あいつを見ていると遥か高みにいるような感覚に包まれるのです。自由で脅威的な発想力とどこまでも用意周到な実行力を持っていて、とても子供と同列に扱っていい人間ではありません。ヘレナ様も、現在ハーンブルク領が急速に発展しているのをご存知ですか?」
「はい、噂には何度か聞きました・・・・・・」
「その最大の原因がレオルドなのです。ハーンブルク領内に抱えていたいくつもの問題を解決して、その圧倒的な才覚の片鱗を見せました。親の私からすると将来が楽しみでなりませんな。」
「そうですか・・・・・・」
私はその後も、色々な人に聞いて回った。ハーンブルク領に最近行った事がある者たちは決まってこう言うのだ。
『ハーンブルク領はすごい』と、人口の方も急激に増加しているのを聞いた。
私は政治の事などよくわからないので何をしたのかは知らないが、多くの人が笑顔になった、とも聞いた。
✳︎
休憩を何度か挟みながら、馬車に揺られること2日間、ついに目的地である港町が見えて来た。
そこで私は、海に浮かぶ奇妙な黒い塊を見つけた。
「あれは何でしょうか・・・・・・船なのでしょうか。ですが船だとしたら大き過ぎます・・・」
私はそれが何なのかわからなかった。
丘を下り、だんだんと港の方に近づくとそれは鮮明になった。
船自体もまだ数回ほどしか見た事がなかったが、おそらく船と呼ばれるものだ。しかし、私の知っている船の数倍ほどの大きさがある。
やがて、私を乗せた馬車はその船の前に止まった。そして、扉が開く。
「長旅お疲れ様でした、ヘレナ様」
すると、ずっと聞きたかった、優しい声が聞こえた。
思わずわたしは乗っていた馬車を飛び出した。
「ご機嫌よう、レオルド様。」
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どうでもいい話
既にお気付きだと思いますが、『テンペスト』は黒船を参考にしています。
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