第21話 就任
例の貿易におけるガイドラインが設定されてからおよそ2ヶ月が経過した。
関税ボロ儲け作戦は大成功し、関税だけで去年の税収を上回る勢いであった。
もちろん、発展したのはそれだけではない。蒸気機関を利用した工業の数はあまり増えていないが、領内のいたるところに風車や水車といった回転型の原動力機が普及した。
小麦から小麦粉を作るといった簡単な作業やポンプの役割を果たした。
これによって、素材を輸入して製品を輸出するという加工貿易の規模が大幅に広がった。
各商会は、それぞれの手で風車や水車を作りそれを利用した。
もちろん、サッカーの方も順調だ。
アンとスルマを中心に作った2つのチームは、俺が用意した拠点でそれぞれ練習を開始した。ちなみに監督には、アンのチームに俺とスルマのチームにイレーナが付く事になった。
俺はたまにしか顔を出す事が出来ないが、イレーナの方はほぼ毎日練習に参加しているらしい。どうやらサッカーにはまったようだ。
サッカー場の建設の方も順調で、早ければあと1週間ほどで完成するそうだ。前世で言うところ、大きめなコロッセオのような感じで収容人数は2万人を予定している。
日本のJ1の収容人数が1万5千人以上という事を考えれば、いかに大きいかがわかるだろう。
すでに、チケット販売は1ヶ月先の分までほぼ完売しており、建設完了を待たずして黒字が確定している。領内だけでなく、サッカーの噂を聞きつけた多くの人々が買ってくれたそうだ。
そして、もう一つ大きく変わった事がある。
それは・・・・・・
【マスター、各地で人手不足が深刻化しております。ここは、移民を行うべきです。】
急速に発展した結果、人手不足に陥った。
おかげさまで、失業率や非雇用者(ニート)の割合がほぼ0%に下がったが、とにかく人手が足りない。
他の領から、1ヶ月につき千人ほど移民して来ているらしいが、それでも足りないのだ。
そこで『アイ』が名案を出した。
【SHSを使って、他国から移民を受け入れましょう。】
どういう事?
【隣国で、貧困な生活を送っている者たちを集め、ハーンブルク領内で新しい職業を与えるのです。】
そんなんで集まるのか?
【はい、マスターが考えている以上に、今日を生きるのが精一杯な人間はこの世界に大勢います。今日食べる物もなく、どうしようもなくなった者から、犯罪に走ったり身を売ったりし、負の連鎖を生むのです。そこで、職業と安定した生活を提供し、労働者を集めるという寸法です。】
素直に耳を貸すとは思えないけどな。
【そこは、ハーンブルク領内にいる同じような境遇の人に説得してもらいます。そして、頷いてくれた人とその家族のみ雇い入れるという方針にします。】
やりたい事はわかったけど、他国に怒られないのか?人攫い呼ばわりされたら面倒だぜ?
【他国に戸籍などありません、人が数人減ろうと数万人減ろうと気づかないでしょう。他にも、トリアス教徒でないがトリアス教国にいる者達をこちらに引き込みます。】
まぁ人が増えてもその人たちに与える分のご飯は十分にあるし、winwinの関係になれるならやってみる価値があるかもしれない。
俺は、『アイ』の提案を書面にしてお母様に提出し、その必要性を説明した。
少し、修正された箇所はあったが、基本的にほぼ全ての提案が通り、移民政策が行われた。
これも結果は大成功、手元の資料によると、この2ヶ月で5万人ほど人口が増えたそうだ。
その分、犯罪の発生率が少し上がったが、そこはSHSにお任せである。ちなみにSHSは、今回の働きによってその規模をさらに拡大し、1000人超の大きな組織となった。
そして今日、俺がやって来たのは『ミドール』にある造船所だ。ここで国内初の鉄の船が就役する事となった。
大砲などの武装は装備されていないものの、船体がほぼ鉄でできており、世界最強の船と言っても過言ではない仕上がりだ。
今回は、この秘密ドッグにハーンブルク家の偉い人達がほぼ全員集結した。いないのは、お父様とあの筋肉だるまぐらいだ。
船に触りながら、お母様はこう呟いた。
「資料はもらっていましたが、実物はとても大きいのですね。」
「はい、そしてこの船はただ大きいだけではありません。おそらく国内最速の船でもあります。」
船はまだ水に浸かっておらず、これから進水するところだ。
「ところでレオルド、この船の愛称は何にするのですか?」
「『ユリウス』にしようと思ったのですが、弟と同じ名前の船に乗るのも少し変なので『テンペスト』と名付けました。」
「テンペスト・・・どういった意味があるのですか?」
「嵐という意味があります。嵐の中でも突き進む、良い船になってほしいと思い、つけました。」
「なるほど、良い名前ですね。」
そう言いながら、お母様は船に乗り込んだ。
どうやら、歴史的瞬間に立ち会いたいらしい。俺も並んで乗り込む。
「ではお母様、合図をお願いします。」
「わかりました、では・・・・・・進水。」
お母様の合図とともに、旗が振られ、この船を支えていたストッパーが外れた。
そしてそのまま、水に浸かる。
船が入水する瞬間に始めて立ち会ったが、結構揺れが大きい。
そして、ゆっくりと姿勢を正すと、揺れが収まった。
途端に、拍手が沸き起こった。中には、涙を流す者もいる。
「感動だな・・・・・・」
【感動というものがどのようなものなのなまだ理解できていませんが、とても良い気持ちです。】
『アイ』は、少し言葉を選びながらそう言った。
ここに来て初めて、『アイ』の心の奥深くが見え隠れしたような気がした。
とりあえずこの船は、輸送船として偉い人が『テラトスタ』と『レバスタ』を行き来する時に使う事にした。
何しろこの船、石炭の消費速度がとても早く、燃費が悪い。最初は、貿易に使おうと思っていたが、急遽変更になった。
そして俺はクレアと2人で、早速この船に乗って『レバスタ』へと向かう事になった。
この船の最終テストを行う事となったのだ。
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どうでもいい話
戦艦とかあまり詳しくないので、一生懸命調べながら頑張ってます。
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