第10話 防衛
翌日、各部隊の将校クラスが再び集まった。
昨日の夜に出て行った将校とその補佐以外は同じメンツだ。
全員揃った事を確認すると、お母様は唯一ここに残る道を選んだ将校に尋ねた。
「てっきり私は、全員出て行くと考えていましたが、あなたはここに残る事にしたんですね、シャーブルさん。」
「はっ!女傑殿が、王国からの援軍を1万のみで結構と宰相殿に進言した事を聞き、十分な勝算がある上でこうしたと考えました。よって私は、わざわざ8万の敵兵に無謀な突撃をするような愚策はするべきでないと考え、ここに残りました。」
「そうですか、では全員揃ったので軍議を始めましょう。」
お母様は再び全員を見渡すと、軍議を始める事を宣言した。そして、軍部や国防軍の将校があっと驚くような事実を発表した。
「ではまず、初めに伝えておいたあの作戦は全てデタラメですので全て忘れて下さい。」
「「「なっ!」」」
「ここは、ベール川の上流にある山岳地帯ですので、最初に提案したここドレスデンでの防衛戦も悪くはありませんが、今私たちがとれる最良の策とは言えません。」
「エリナ、では野戦を行うのか?」
当然、この事を知らされていなかったお父様は、お母様に尋ねた。
「はい、木々が生い茂るこの地は大軍の行軍に不向きです。よって、部隊が細長く伸びた所を狙い、各個撃破を試みます。」
「確かに、ハーンブルク領の中なら地の利を活かして戦えるが、相手は8万の大軍だぞ?」
「おそらく数日後、昨夜ここを飛び出した将校達の部隊がハーンブルク領から数km進んだ地点でサラージア王国軍とぶつかります。そして10倍以上の兵力を持つサラージア王国軍に何も出来ずに敗北すると、彼らはハーンブルク領を避けて南に逃げるでしょう。」
「確かにそうなるであろうな。」
「そこで我が軍は、新兵器とともに先ほどの説明したゲリラ戦を仕掛け、敵を叩きます。」
「了解致しました、ですがこれでは長期戦になるのでは?」
説明を聞いていたハーンブルク軍の将校の1人が、そんな事を尋ねた。ゲリラ戦の戦い方は、先日の軍事演習の際に説明も訓練もしてある。
そして、長期戦となる事も伝えてあった。
「もちろん長期戦は覚悟しております。ですが、対策も既にしてあります。」
「どのような対策かお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「簡単な話です、戦場付近の町村に避難勧告を行い、あの辺一帯はほぼ無人となっております。そのため、サラージア王国軍は兵糧を現地で調達することが出来ず、後援部隊に輸送してもらうしかありません。ですので、その補給線を断ち、兵糧攻めを同時に行います。」
先日、お母様はサラージア王国内を含むあの辺一帯に住む町村の住民をほぼ全員シュヴェリーンなどの4大都市に移住させた。
簡単な作業ではなかったが、ここに留まると戦争に巻き込まれてしまうかもしれない事と生活を保障する事を伝えると、渋々ながら移民を決めてくれた。中には留まる選択肢をとった町村もあったが、そのような町村には報復を行うと脅すと、すぐに首を縦に振った。
ちなみに脅されて移住を決めた者は、4大都市ではなく、廃村を自分たちの手で開発させた。
「なるほど、流石あの有名な女傑殿でありますな、これならば何とかなるかもしれませんな。」
「流石女傑殿だ・・・・・・」
「これならば8万の大軍も恐れるに足らないな。」
お母様の作戦(アイが考案)を聞いた将校達は、その作戦の完成度の高さに感服するとともに、お母様を称賛した。
正直俺には、国防軍の兵士にゲリラ戦ができるとは思えないが、まぁなるようになるだろう。
「一歩足りとも、我がハーンブルク領に敵兵を入れてはなりません。ではそれぞれ、準備に取り掛かって下さい。」
「「「了解っ!!!」」」
お母様の解散の合図とともに、それぞれは自分のやるべき事をしようと、会議室を飛び出した。
やがて会議室の中も静かになり、後に残ったのは俺とお母様、リヒトさん、お母様の護衛、クレアの5人だけとなった。
「上手く会議がまとまって良かったです。」
「流石お母様です、本当の目的を考案した私自身も思わず騙されてしまいそうになりました。」
「ふふふ、私は全く嘘は言っておりませんよ。ですので騙したのではなく彼らが気付かなかっただけです。」
「では予定通り、私はSHSを連れて出陣致します。」
「頼みましたよ、レオルド。私の方もここをジルバートに任せて、シュヴェリーンへ戻ります。」
「お気をつけて。」
「リヒトさんとクレアさんも、レオルドを最大限にサポートしてあげてください。」
「「はい、奥様。」」
まさか誰も、俺とお母様の本当の狙いに気づいた者はいないだろう。
これなら上手くいくはずだ。、
話は、宰相がハーンブルク領に来る前に遡る。
サラージア王国とトリアス教国の連合軍がサーマルディア王国に攻め込もうとしているという情報を得た俺とお母様は2人きりで、今後の方針を決めるために会議を行う事となった。
「レオルド、この戦争ハーンブルク家はどのようにすべきだと考えますか?」
「はい、私ならばゲリラ戦による長期戦を行うべきだと考えます。」
「ゲリラ戦の有効性は私も知っていますが、戦争の長期化は領民への負担が大きくなるのではないですか?」
「確かに、領民への負担は大きくなります。銃を使った戦争は莫大な戦費が必要になるので、短期決戦の方がハーンブルク領へのダメージは少ないと思います。しかし、戦争による経済効果と技術の進歩が期待できます。」
お母様は、少し考える素ぶりを見せたので、俺は説明を続けた。
「技術の進歩が1番顕著に表れるのは、残念ながら戦争の時です。そして、急激な経済発展を遂げるのもまた戦争の時です。戦争は、武器や弾薬から食料や軍服まで幅広い範囲で多くの需要ができます。そこでハーンブルク領で生産した食料や武器を大量に商人を介して国防軍に売る事で大きな利益が期待できます。そして、もう一つの理由は・・・」
俺がそこまで言いかけると、俺の言わんとする事を理解したお母様が口を開いた。
「教国と戦いたくない、もしくは国防軍と共闘したくないからですね。」
「はい、前者は言わずもがなハーンブルク軍から大量の死傷者出てしまうかもしれないからです。対してゲリラ戦ならば、最新兵器を用いれば被害を最小限に抑える事ができます。敵はゲリラ戦の戦い方を知らないでしょうし。」
「確かにそうですね。私も聞かされた時は疑問に思いましたが、SHSの訓練を見て有効性を理解しました。」
「それと、後者がダメな理由は新兵器の製造方法の無償提供を要求される可能性がある事と、国防軍の指揮下に入らなければならない事です。彼らは新兵器の有効な活用法を知れませんので、無謀な突撃を命じられるのが落ちです。」
「確かにそうてすね、わかりました、レオルドの意見に従いましょう。」
「わかりました。」
この日から俺とお母様は色々な所に手を回し、着々と準備を進めた。
戦争は、戦う前からだいたいが決まる。
ちなみに後日、どうして国防軍1万を援軍として要請したかを尋ねると、ハーンブルク家の急激な発展をよく思わない者達にお父様を教国戦で捨て駒にされる可能性があったからだ、と言っていた。
貴族の社会はやはり色々面倒らしい。
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どうでもいい話
私は基本的にスマホで執筆しています。
以前まではpcを使っていましたが、pcを物理的にぶっ壊し、pcが無くても最近は困らないという事で買い替えてないからです。
ちなみにpcの方が楽だし、誤字が少なくなります。
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